JA静岡厚生連。保健・医療・福祉の事業を通じ地域の暮らしに根ざした病院として社会の構築に寄与する。

JA静岡厚生連 〒422-8006 静岡県静岡市駿河区曲金三丁目8番1号
TEL : 054-284-9854
お問合せ・ご相談
交通案内 リンク プライバシーポリシー サイトマップ


ホームへ 理念・沿革・概要 基本方針 患者様への姿勢 事業内容 施設整備事業

JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2021.7 NO.524
腎臓が悪いと言われたら
~腎代替療法について~



遠州病院

腎臓内科 診療部長

渥美 浩克

腎臓の働き
 腎臓は背骨の脇に2つある、にぎりこぶしくらいの大きさの臓器です。一番大切な働きは尿を作ることです。他には血液中のナトリウムのバランスをとって血圧を適切にコントロールしたり、赤血球を作るエリスロポエチンというホルモンを産生して貧血を防いだり、ビタミンDを活性化して骨を丈夫に保ったりと、腎臓は多くの働きをしています。
 腎臓の働きが低下すると尿の産生が減るため体内に余分な水分が貯留して血圧が上昇したり、むくみが出ます。また、尿に排泄される老廃物が体内に溜まるため尿毒症という症状(食欲低下、吐き気、倦怠感等)が出ます。エリスロポエチンの産生が低下するので貧血が進行して疲れやすくなったり、運動時の息切れを認めるようになります。ビタミンDの働きが低下すると骨がもろくなります。また、血液中のカリウムの値が上昇して命に関わる不整脈を起こすことがあります。このよう
に腎臓の働きが低下すると様々な症状が出てきます。それぞれの症状に対して薬物治療や食事療法といった対症療法を行いますが、それでもさらに腎臓の働きが低下した場合には腎臓の代わりとなる治療(腎代替療法)が必要となります。(図1)



慢性腎臓病(CKD)
 腎臓の働きが徐々に低下する病気を慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease 以下CKD)といいます。CKDには腎臓自身が悪くなる場合(慢性腎炎など)と糖尿病や高血圧といった生活習慣病により腎臓が悪くなる場合があります。糖尿病や高血圧の発症を防ぐことやそれらに対しての治療を行うことでCKDを予防できたり、CKDの進行を遅らせることができるため、生活習慣病を改善させることは非常に大切なことです。
 腎臓の働きをみる採血検査として、血清クレアチニンや血中尿素窒素があります。クレアチニンは筋肉由来の老廃物で腎臓から排泄されます。腎臓の働きが低下してくるとクレアチニンが尿に排泄されなくなってくるため、血液中の値が上昇します。クレアチニンは筋肉に由来し個人差があるため、腎機能の指標として推算糸球体ろ過率(eGFR:estimated glemerular filtrationrate)を用います。eGFRは血清クレアチニン値、年齢、性別から計算されます。eGFRが60未満となるとCKDと診断されます。一般的にはeGFRが15未満になった場合には腎代替療法に対しての準備が必要となります。(図2)
 採血だけではなく尿検査も腎臓の働きの評価としては重要な検査です。尿に蛋白や血液が漏れていないかどうか確認します。通常は尿に蛋白が漏れることはありませんが、腎臓に障害があると尿に蛋白が漏れてきます。蛋白尿がある場合、蛋白尿がない場合と比べて腎臓の働きが低下する速度が速いといわれています。また、腎臓は沈黙の臓器と言われており、CKDになっていても最初は自覚症状が出ないため発見が遅れることが多い病気です。進行したCKDを改善させる方法はないため、早期発見、早期治療をすることが腎代替療法を避けることにつながります。そのためには定期的に検診や人間ドックを受けていただき、もし異常を指摘されたら再検査を受けることが大切です。



腎代替療法
 腎代替療法には透析と移植の2つの方法があり、透析には血液透析と腹膜透析の2種類があります。透析を受けている人数は約34万人でこれは国民の366人に一人にあたります。(図3)
 本邦では血液透析が96.5%、腹膜透析が2.9%とほとんどの方が血液透析を選択されています。
  


・血液透析
 血液透析とは、体内の血液を一旦外へ取り出してダイアライザーという膜を介して血液をきれいにした後、再び体内に戻す治療です。そのためには血液を取り出して戻すための血管(シャント)を作る必要があります。シャントは手首などの動脈とその近くにある静脈をつなぎ合わせることで、つないだ静脈に十分な血液が流れるようにします。手術は局所麻酔で行い、約1時間程度かかります。シャントを作ってから透析に使えるまでには約2~3時間かかります。シャントの手術は前
もって作っておくと透析導入がスムーズになります。透析が始まるとその後は週3回、医療機関へ受診して透析を受けます(透析は毎回約4時間行う必要があります)。日中に仕事をしている方は夜間に透析を受けることもできます。

・腹膜透析
 腹膜透析とは、きれいな透析液を自分のお腹の中に貯めておくことで、お腹の膜(腹膜)を介して老廃物や余分な水分を移行させて血液をきれいにする治療です。透析液をお腹の中に入れるためにカテーテルという管を埋め込む必要があります。一定の時間透析液を貯留しておき、その後貯めておいた透析液を捨ててまた新しい透析液を貯留することを繰り返します。腹膜透析は毎日行うため週3回施行する血液透析よりも体にやさしい治療です。医療機関への受診も月1~2回で済み、食事制限も血液透析より緩やかなので普段の生活の自由度は高いです。しかし、透析を自宅で行う必要があるため自己管理をしっかりと行わなくてはならず、家族の協力も必要となる場合もあります。血液透析で使用されるダイアライザーは使い捨てですが、腹膜透析は自分の腹膜を継続して使うため少しずつ透析できる機能が低下してくることがあります。また、腹膜炎といった感染症についても注意が必要です。そのため一般的に腹膜透析を続けることができる期間は約5~7年と限られています。腹膜透析の方法には定期的に透析液を交換して24時間続けて透析を行うCAPD(continuous ambulatoryperitoneal dialysis:持続携行式腹膜透析)という方法と夜間に機械を使って自動的に透析液を交換して日中は普段通りの生活をするAPD(automatedperitoneal dialysis:自動腹膜透析)という方法があります。(図4)自分の生活スタイルなどに合わせて透析の方法を選ぶことができます。



・腎移植
 透析以外の腎代替療法は腎移植です。腎移植は他人から腎臓を提供してもらう方法です。親族から提供を受ける生体腎移植と亡くなった方から提供を受ける献腎移植があります。生体腎移植は移植までの準備期間があるため、移植に向けてしっかりと治療を行い移植に備えることができます。血族だけではなく姻族からの提供も可能で、血液型が異なっていても移植を受けることが可能です。献腎移植には心臓が止まった方からの提供と脳死の方からの提供の場合がありますが、どちらもいつ提供者が出るかわからないため、普段から自己管理をしっかり行いながら移植のための準備をしておく必要があります。また日本臓器移植ネットワークへの登録も必要です。しかし提供者の数が少なく、実際に移植を受けることができるまでには長い時間がかかります。そのため透析をしながら移植を受けるのを待っているのが現状です。移植を受けた後は拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤の内服が必要となりますが、透析と異なり腎機能を回復させることができます。

おわりに
 どの腎代替療法においてもメリットとデメリットがある大変な治療です。腎代替療法が必要とならないように腎臓を守る治療が非常に大切です。当院腎臓内科では腎代替療法に対しての説明や指導を行うための専門外来を設けています。それぞれの患者様にとって最適な腎代替療法を選択できるように多職種でのチームを作成し、皆で診療にあたっています。
 当院では、CKDに対しての治療から腎代替療法が必要となった場合には、最適な治療方法についての相談はもちろん、血液透析だけではなく腹膜透析も行うことが可能です。腎臓の働きが悪いといわれている方や腎代替療法が必要といわれた方はぜひ当科へご相談下さい。


参考文献:
あなたの腎臓を守るために NPO法人 腎臓サポート協会
毎日いきいき透析学習帖 協和発酵キリン株式会社
わが国の慢性透析療法の現状 (2019年12月31日現在)日本透析医学会

 記事一覧はこちらから



JA-shizuokakouseiren.