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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2021.2 NO.519
新型コロナウイルスの検査のはなし 


静岡厚生病院

臨床検査科 主任

外波山 幸稔

はじめに
 
 新型コロナウイルスが世界で猛威をふるい続けています。原稿執筆時点では、日本も第3波の様相を呈しています。テレビやネットの報道ではPCR検査は耳慣れた言葉になりました。今回は、新型コロナウイルスの検査の種類や特徴についてお話ししたいと思います。

なぜ新型って言うの?

 実は、コロナウイルス自体は珍しいものではありません。これまで、ヒトに感染するコロナウイルスは6種類知られています。いわゆるかぜの原因の10~15%が、4種のコロナウイルスによるものです。残りの2種は、もともと動物に感染していたコロナウイルスが変異してヒトに感染するようになったものです。これがSARS(重症急性呼吸器症候群)とMERS(中東呼吸器症候群)です。
 2002年中国広東省に端を発したSARSは、コウモリ(あるいはハクビシン)のコロナウイルスがヒトに感染し、ヒトからヒトへ感染を広げ約8,000人の感染者を出しました。また、2012年には中東でMERS(中東呼吸器症候群)が報告され、ヒトコブラクダからヒトに感染する感染症であることが分かりました。
 そして、2019年12月末から中国の湖北省武漢市で発生したとされる原因不明の肺炎は、新型のコロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因であることが判明しました。新型コロナウイルスは、これまでにコウモリの持つコロナウイルスの遺伝子と近縁であることが分かっています。
 新型コロナウイルスはSARS、MERSに続く人に感染する7つ目の新しいコロナウイルスです。



検査は誰でも受けられる?

 公費で受けられる場合と、自費診療とがあります。
 検査費用を行政が公費で負担する場合の対象者は、以下のように決められています。

  ・症状があり患者と濃厚接触歴がある者
  ・発症前14日以内に流行地渡航・居住歴のある者
  ・発症前14日以内に流行地渡航・居住歴のある者と濃厚接触歴がある者
  ・集中治療が必要で直ちに他の感染症と診断することが出来ないと判断し、
   新型コロナウイルス感染症の鑑別が必要な者
  ・医師が新型コロナウイルス感染症を疑う者

 自費診療は下記の場合です。
 就業や海外渡航、心配だから検査してほしい、陰性証明がほしいなどです。

検査の感度と特異度とは?

 検査の感度が高いことは、陽性者の見落とし(偽陰性)が少ないことを意味します。
 一方、もう1つの指標に特異度というものがあります。特異度は、感染していない人に検査を行った時に、正しく陰性と出る確率を示します。特異度が高いことは、実際には、感染していないのに陽性と判定されてしまう(偽陽性)人が少ないことを意味します。

検査の種類(表1)

 新型コロナウイルスの検査は大きく分けて「遺伝子増幅検査」、「抗原検査」、「抗体検査」の3つがあります。確定診断には遺伝子増幅検査、抗原検査が用いられています。検査の種類によって結果の出る早さや精度が異なっていて、それぞれ特徴があります。

 

●遺伝子増幅検査
 一般にPCR法、LAMP法としてよく知られています。新型コロナウイルスに感染しているかどうかの検査です。
 感度が高いですが、検査時間が長い(1~5時間)、熟練した技術、専用機器が必要です。

 主な検査の材料は、綿棒を鼻から挿入し、鼻の奥の粘膜をこすって採取した検体(鼻咽頭拭い液)、唾液で検査します。(唾液の場合は、発症から10日目以降は、検出率が下がります)

・原理
 ウイルスが持つ遺伝子を増やす試薬を使って、最終的に増えたかどうかで判定 する方法です。1回で2倍に増える化学反応を繰り返しますので、例えば最初に1個のウイルス遺伝子があれば、化学反応を40回繰り返すと最終的には2の40乗個に増えます。(理論上の話で実際はここまで増えません)驚くほどに増えるので、他の検査よりもわずかなウイルスを見つけやすくなっています。検体中にウイルスがたくさん存在していれば、化学反応の回数が少ない段階で陽性と判断できますが、ウイルスが非常に少なければ、判定に時間がかかります。ウイルスを増やす化学反応を一定の回数繰り返しても遺伝子が検出されない場合を陰性とします。PCR法は温度変化を繰り返し行いますが、LAMP法は一定温度で実施します。簡便な機器で実施できますが、PCR法と比べ感度が落ちるものの十分実用範囲です。

・精度
 感染しているにもかかわらず陰性と判定されてしまう(偽陰性)は頻度が低いものの少数はあります。感染していない人が陽性に出てしまう例(偽陽性)は非常に少ないです。
 ※ 北海道大学の研究グループによると感度:唾液83~97%、鼻咽頭77~93%
   特異度:唾液、咽頭共に99・9%
   Clinical Infectious Diseases誌2020年9月25 日に論文掲載

・陽性、陰性が意味すること
 陽性であれば、検体を採取した時点で、採取した部位に新型コロナウイルスの遺伝子が存在していたと言えます。陰性であれば感染していないことになりますが100%否定はできません。

●抗原検査
 遺伝子増幅検査と同様に、新型コロナウイルスに感染しているかどうかの検査です。
 抗原検査には、定性検査と定量検査があります。

・原理
 新型コロナウイルスの構成成分の蛋白質を検出する検査法です。

〇定性検査
 私たちになじみの深いインフルエンザの簡易検査と同じです。鼻咽頭ぬぐい液を採取し、試薬に浸してウイルスに含まれる蛋白質を抽出します。その液体を反応カセットに垂らすと、カセットに仕込まれているウイルス抗原に反応する抗体がウイルス蛋白質を検出し、陽性と判定します。特別な検査機器や試薬を必要とせず、検体採取後、30分ほどで判定が可能です。唾液による検査は出来ません。

・精度
 遺伝子増幅検査と比べ感度は劣ります。ウイルス量が一定以上ある場合にしか陽性とならないため、体内のウイルス量が少ない無症状者に行うと陰性に出る恐れがあります。そのため厚労省は「医師が新型コロナウイルス感染症を疑う症状があると判断したものに対して、必要性を認めた時に使用する」と指定しています。つまり症状がある人のみです。濃厚接触者であっても無症状の人は検査出来ません。

〇定量検査
 抗原の定量的な測定が可能です。検査には、検査機器が必要ですが、検査時間は、30分程度と短く、1台で60~120テスト/時間の検査を行い、迅速に確定診断を行うことが可能です。定性検査よりも感度が高いことから遺伝子増幅検査と同様に無症状者の鼻咽頭拭い液、唾液での検査が可能です。(唾液の場合は、発症から
10日目以降は、検出率が下がります)

・精度
 感度、特異度共にLAMP法等の簡易な遺伝子検査と同レベルです。

・陽性、陰性が意味すること
 陽性となった場合は、確定診断とすることが出来ます。定性検査は、発症後、ウイルス量の多い2日目以降から9日目以内(発症日を1日目とする)で陰性の場合は、陰性の確定診断が可能です。定性検査より感度の高い定量検査では、退院可能かどうかの判断にも使用することが出来ます。

●抗体検査
 過去に新型コロナウイルスに感染していたかどうかを調べる検査です。抗原検査と名称は似ていますが、その目的や役割は、遺伝子増幅検査や抗原検査とは大きく異なります。検査キットを使えば、わずかな血液を垂らすだけで、検体採取後、30
分ほどで判定が可能です。

・原理
 感染後に体内で作られる抗体を検出します。抗体は、体内に入ってきた異物(病原体など)を排除するために体が作り出すもので免疫グロブリンとも呼ばれます。一般に、ウイルスの感染直後にはIgMと呼ばれる抗体が増え、少し遅れてIgG抗体が増えてきます。
 新型コロナウイルス感染症を発症すると、おおよそ1週間後から血液中にウイルスに対する抗体が現れ、発症から3週間経つとほとんどの患者にウイルスに対するIgM抗体またはIgG抗体が認められるようになります。症状が治まり、回復した後も、IgG抗体は陽性の状態が続きます。一方、発症から比較的早い時期に現れるIgM抗体は、6週間するとかなり下がってきます。
 現在使われている抗体検査は、わずかな血液で新型コロナウイルスに特異的なIgG抗体、IgM抗体を検出します。

・精度
 現在国内で使用可能な抗体検査キットは、いずれも研究用試薬として流通しており現時点で厚労省の承認を受けた製品はありません。製品ごとに精度にかなりの差があると考えられています。
 日本では、自費診療となっています。自身に抗体がついているかの判定というよりも感染の広がりを把握するための疫学調査のために用いられることが多くなっています。

・陽性、陰性が意味すること
 抗体陽性であることは、新型コロナウイルスに現在感染していることを意味するわけではなく「過去に感染したことがある」という事を意味します。

おわりに・・・

 私自身、新型コロナウイルスが発生するまで一般病院で遺伝子検査が導入されるのはまだ先の話と思っていました。ところが一気に身近になり驚いています。
 「結果を狂わせない」、「自身が感染しない」ことに注意しながら患者さんの検査をこれからも行っていきたいと思います。
 早く効果の高いワクチンが全世界に行き渡り元の生活に戻れると良いですね。

参考文献
 新型コロナウイルス感染症 病原体検査の指針 第2版
 新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第3版
 厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp

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