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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2021.1 NO.518
緩和ケアについて知ろう
    患者さん・ご家族へ



清水厚生病院

緩和ケア認定看護師

永島 光子

はじめに
 
  緩和ケアという言葉にどんなイメージを持っていますか?
 この言葉を聞いた時、多くの人は「がん終末期」や「看取りの医療」を連想するようです。がん患者さんやご家族には、主治医から緩和ケアを勧められた時、「もう他に治療法はないのか」と途方に暮れ、見捨てられたような絶望感に襲われる人も多いようです。

緩和ケアは、がんに伴う心と体のつらさを和らげます。

 がんになると、体や治療のことだけでなく、仕事のことや将来への不安などのつらさも経験するといわれています。緩和ケアはがんに伴う心と体のつらさを和らげます。
がんに伴う心と体のつらさとは

気持ちのこと
 ・不安で眠れない ・何もやる気が起きない
治療によって生じること
 ・しびれる ・食べられない ・外見が変わる
体のこと
 ・痛い ・だるい ・息苦しい
人生に関すること
 ・生きる意味 ・将来への不安 ・家族に迷惑をかけたくない
社会的なこと
 ・働きたいけど働けない ・子どもの世話ができない

早期からの緩和ケア

 以前は、がん治療による効果が望めなくなった患者さんが、がん治療から緩和ケアに移行すると考えられていました。従来はがん治療と緩和ケアにはっきりとした境界線が引かれているように(図1)、緩和ケアはがん治療が終わった患者さんに行われるケアという認識です。しかしWHO(世界保健機構)は1990年に、がん治療と緩和ケアの関係を示しました(図1)。この図では緩和ケアは診断時から治療と並行して行われるべきものとされ、がんのすべての経過に関するものとなっています。診断時から痛みなどの症状がある場合には鎮痛薬などの処方がなされ、病状告知による気持ちの落ち込みには心理的な支援がなされます。治療中には、
抗がん薬や放射線治療の副作用の予防や対処が必要となります。これらは全て緩和ケアです。がん治療がうまくいき、再発などがなければそのまま生活することになります。もし再発や転移などが見つかり、抗がん剤治療などで治療が難しくなってくるとがん治療に対して緩和ケアの占める割合が大きくなるという考え方です。
 このように緩和ケアという言葉の捉え方が変わってきた背景には、以前はがんと診断されると手術で切除できなければ予後も非常に厳しかったのですが、最近では早期発見や手術、抗がん剤、放射線治療などの進歩により、がんと診断されてから生存期間が大幅に延長され、がんを抱えながらも治療をしながら長期の生存が可能になったことがあります。ただ、長期の生存が可能になったといっても、痛みをはじめとしたからだの症状や気持ちのつらさなどを抱えていては充実した毎日を送ることはできませんので、緩和ケアを併用することにより、その人らしい毎日を過ごすことが大事だと思われます。


緩和ケアチームによる支援

 緩和ケアチーム(図2)とは、病棟や外来の患者さんとご家族の持つ痛みやつらさに対して、その症状をやわらげるために、主治医の治療や看護師のケアなどを支えるチームのことです。
 医師、看護師、薬剤師、栄養士、医療ソーシャルワーカーなど、院内の多くの職種のスタッフがそれぞれの役割を担って、さまざまな痛みやつらさに対応します。


緩和ケアチームによる支援

 緩和ケアを受ける場は通院・入院・在宅療養の3つに分けられます。
≪通院しながら受ける緩和ケア≫
・がんの治療のために通院している外来 がんの治療のために通院している外来では、がんやがんの治療によるつらさを和らげるために、担当の医師や看護師から緩和ケアを受けます。必要に応じて専門職に支援を受けます。また、患者さんの症状に応じて、がんの治療と緩和ケアを組み合わせることもできます。
・緩和ケア外来
  緩和ケア外来では、緩和ケアの専門的な知識を持つ医師や看護師から緩和ケアを受けます。
  終末期がん患者さんの療養場所は多くの患者さんが自宅を希望します。在宅療養は持続する身体症状、病状が急変した時の対応など、患者さん・ご家族の不安があり、看取りの場を自宅に選ぶ人は少なくありません。当院では病棟と外来を一元化し見慣れた看護師が外来を携わることで、患者さん・ご家族の精神的な不安、負担が改善されます。また、24時間の連携体制であること、退院後も主治医が訪問診療することで緩和ケア病床との繋がりがあり、不安が少なく過ごすことができます。

≪入院での緩和ケア≫
・がんの治療のための入院
  がんやがんの治療によるつらさを和らげるために、担当の医師や看護師から緩和ケアを受けます。必要に応じて他の専門職による支援を受けることもあります。
・緩和ケア病棟
  緩和ケア病棟は緩和ケアに特化した病棟です。がんを治すことを目標にした治療(手術・薬物療法・放射線治療など)ではなく、がんの進行などに伴う体や心のつらさに対する専門的な緩和ケアを受けます。
 当院の緩和ケア病床は、今までその人が大切にしてきたこと、ここで希望していることをできるだけ支援します。私たちにとって当たり前に生活の中で行っていること、自分のことは自分でしたいという思いもできるだけ尊重して関われるように、どうすれば思いを尊重できるか多職種にてカンファレンスし、共有するようにしています。できるだけ今までと同じ生活の場として過ごせるような関わりを目指しています。

≪自宅で受ける緩和ケア≫
 終末期の患者さんとご家族にとって残された時間の過ごし方を決定し、実行することは必ずしも容易ではありません。さらに自宅で緩和ケアを受けていくには身体面の苦痛を和らげるための医療的なケアの支援や在宅療養にかかる費用をはじめとする経済面の見通し、急変した病状への対応など様々な不安が患者さんとご家族に生じることとなります。退院に際しては、患者さんとご家族がどのように過ごしたいと考えているかを確認することが重要となります。安心して自宅で緩和ケアを
受けるために、医師、病棟看護師、訪問看護師、ケアマネジャーなど多職種で療養の目的や希望する生活について話し合い在宅での生活を支えています。

緩和ケアはご本人だけではなく、家族のつらさも和らげます

 がんになると、ご家族も大きなショックを受けます。家族は「本人はもっとつらいのだから」と気持ちを抑えてしまうことも少なくありません。その一方で、日常生活も維持していく必要があります。そのため、家族も心のつらさをはじめとしたさまざまな負担を抱えることから「第二の患者」といわれることもあります。ご家族が自分自身の気持ちや体をいたわり、生活を大切にすることは、ご本人を支える
ことにもつながります。困難な状況で周囲の力を借りることは大切です。家族の一員ががんと告げられ、終末期であると知らされたときの衝撃はきわめて大きいがご家族は患者のよき理解者であり、患者さんが直面している苦悩に患者さんと共に力を尽くして立ち向かっていく、患者さんはご家族にとってかけがえのない存在なのです。そのためご家族が受けている衝撃を和らげることは、患者さんが療養中の日々を充実して過ごすため重要です。
 当院では外来にてがん看護面談による意思決定支援、入院にて、ご家族との連絡ノート、同じ病を抱える患者さんご家族の語らいの場である緩和カフェ、看取りのパンフレット(これからの過ごし方)の説明、大切な人を亡くしたことに対するケア(グリーフケア)などさまざまな支援を行っています。

おわりに

 人それぞれ、大切にしていることは異なります。患者さん本人が希望する生活を叶えていくためには、がんの治療を受けている時から、今後のことについて家族と医療者と話し合っておくことが大切であるといわれています。普段から家族と話しあっておき、体のことや治療法についてわからないことは担当の医師に聞いておくことも大切です。

参考文献
 厚生労働省ホームページ
 国立がん研究センター がん対策情報センター
 日本緩和医療学会

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