JA静岡厚生連。保健・医療・福祉の事業を通じ地域の暮らしに根ざした病院として社会の構築に寄与する。

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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2020.10 NO.515
病院の新しい役割分担のかたち



静岡厚生病院

医療福祉科科長

医療ソーシャルワーカー 矢野 裕基

 少子高齢化が進むなか、病院をとりまく環境が大きく変化しています。厚生連の病院も、それぞれの地域で新しい役割を担うようになってきています。
 今回は、「地域医療構想」「地域包括ケアシステム」といったキーワードについて説明しながら「病院の新しい役割分担のかたち」について、厚生連という組織の役割についても考えながらお話ししたいと思います。

少子高齢化に対応するために

1、社会背景
 もう何度も様々なところで言われていることですが、少子高齢化が進行しています。2・1を割ると人口が減少すると言われる合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むと推計される子どもの平均の数)は、戦後最低だった2005年の1・26を若干回復し、2018年には1・42となっていますが、出生数は100万人を割って戦後最小数となっています。それに引き替え毎年の死亡者数は130万人を超えています。すでに日本は人口減少社会に入っており、現状で毎年30万人も人口が減っているのです。
 あわせて一世帯あたりの人員も減少を続けており、現在の一世帯あたりの世帯員数は、2・5以下です。このような状況では、昭和の時代のように各家庭で子育てや介護といったものを担うのは困難と言えます。そのため、介護や子育てといったことを社会全体で支えることがあたり前となってきています。
 2000年に介護保険制度が開始され、現在たくさんの方が利用されるようになっているのがそのひとつです。介護保険制度は社会保険制度(被保険者の保険料負担で賄う公的機関が保険者となる強制加入の制度)なので、40歳以上の皆さんの保険料負担で支えられているのですが、日本式の公的介護保険制度ということで、皆さんの保険料負担と同じ額の税金も使われています。つまり、利用者が増えるということは皆さんの保険料負担も増え、また税金を支出する国の負担も増えることになるのです。このままでは制度が破たんする恐れがあるため政府は、社会保障制度改革を実施し、子育て・介護・医療・福祉といった社会保障制度にかかわる仕組みのシフトチェンジを図っています。その改革のひとつが「地域医療構想」であり「地域包括ケアシステム」なのです。

2、政策背景
 それではその「地域医療構想」と「地域包括ケアシステム」が何であるか?について説明しましょう。
「地域医療構想」(図1)
 以前の病院というのは、それぞれの病院で完結するやり方が中心でした。今は制度上ないのですが「総合病院」という言葉がそれを端的に表していると思います。
 例えば、脳梗塞を発症し救急車で病院に運ばれて入院し、急性期の治療を受け、病状が安定したらリハビリテーションを行い、退院後は外来でその病院に通院するといったものです。それはそれで患者様としては安心なのですが、医療のコストを考えると非効率的で高コストの医療になってしまうようです。
 そこで病院や病棟ごとの役割を明確にして、地域の中でちゃんと役割を分担して医療を行うかたちにして行きましょうという「医療機能の分化」が推進されることになりました。医療機能を適切に分化することで、無駄を減らし、医療費を抑制しようとするものです。
 しかし、病院の機能を分化しただけでは患者様は途切れ途切れの医療を受けることとなり、医療の質は低下してしまいます。医療機能の分化と「地域医療の連携」の促進は切っても切れないものです。地域医療連携においては、病院だけでなく、地域の診療所とも連携していくことが重要です。病院と病院、病院と診療所、病院と施設、地域全体で切れ目なく連携することが大切なのです。
 でも、その地域でどんな機能が多すぎて、どんな機能が足りないのか判らないままバラバラに整備していくと、地域の皆さんが必要とする医療が不足して困ってしまうようなことが発生してしまいます。
 そこで、そうならないようにそれぞれの地域でどれくらい、どのような機能が必要かを把握して調整しましょうということになりました。つまり、それが「地域医療構想」になるのです。
 地域医療構想では、具体的には、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」に分けて各病院が自分の病院の機能を評価して報告し、それらの数値をもとに地域で調整を行って、2025年を一旦の目標として、その時点で困らないように、うまく役割分担しようということになっています。
 これまでの報告によると「高度急性期」「急性期」が多すぎて、「回復期」が不足しているということです。

(図1)【地域医療構想における病床機能】

平成295月 第4回地域医療構想に関するWG資料一部抜粋・加工

「地域包括ケアシステム」(図2)
 もう一つのキーワードが「地域包括ケアシステム」というものです。これは、医療と併せて重要な介護の問題について対応するためのものです。団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据え、要介護状態となっても、住み慣れた地域でその人らしい暮らしを最後まで続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援といったものが一体的に提供される仕組みを、地域の特性に応じて、各地で整えようとするものです。
 このシステムでは「自助・互助・共助・公助」をフル活用して、地域のみんなで支え合うかたちを創ることによって、今後の少子高齢社会を乗り切ろうとしています。(図3)
 税を主な財源とする行政の福祉制度や生活保護制度が「公助」であり、介護保険制度などの社会保険制度とそのサービスが「共助」となりますが、少子高齢社会では今以上の「公助」「共助」の拡充は困難と考えられており、今後は「自助」「互助」が重要であるとされています。
 「自助」とは、自ら健康増進を図り、自分のことは自分でできるようにすることと市場の民間サービスを購入することなども含みます。
 「互助」とは、共に支え合うことですが、制度的なものではないボランティアや住民活動を含む助け合いのことです。
 都市部では民間サービスの購入による「自助」に期待できるかもしれませんが、地方ではどうでしょうか。市場として成立しなければ発展は望めません。
 そこで地方では「互助」がとても重要となるということです。

(図2)【地域包括ケアシステムイメージ図】

平成25年3月 地域ケア研究会報告書より 一部抜粋

(図3)【自助・互助・共助・公助のイメージ図】

平成25年3月 地域ケア研究会報告書より 一部抜粋

協同組合は「(相)互(扶)助」精神のたまもの
  ところで「互助」というのは、新しいものでしょうか。そんなことはありません。互助は「相互扶助」ということなので、昔からあったものです。我々「協同組合」の根本原理も相互扶助です。
 特に農協組織の中で「保健・医療・福祉」の事業を掌る厚生連は、組合員「だけ」のための組織ではありません。組合員の皆さんを中心として、地域を支えるための団体です。
 農産物は食べてくれる人が必要です。農産物は食べ物だけではありません。花卉もあります。美しい花を愛でてくれる皆さんが必要です。つまり、生産者である農家の皆さんの生活を守るためにも地域を守ることが大切なのです。
 保健・医療・介護・福祉事業を通じて地域の皆さんの普段の暮らしを守ることが厚生連の役割です。互助の力がクローズアップされた今、農協・厚生連の力が地域に求められているように思います。

地域医療構想と地域包括ケアシステムの実現のために
  JA静岡厚生連では、静岡県の東部・中部・西部に病院・施設を展開しています。そして、それぞれの地域の特性に応じ、地域に必要とされる病院機能を提供しています。(図4)
 それら病床機能の新しいものに「地域包括ケア病棟」というものがあります。JA静岡厚生連では、清水厚生病院・中伊豆温泉病院で開始しています。

(図4)


「地域包括ケア病棟」
  地域包括ケア病棟は、急性期治療がある程度落ち着き、病状が安定した患者様に対して、自宅や介護施設への復帰に向けた医療・支援を提供する病棟です。(図5)
 地域医療構想のなかで不足している「回復期」の機能を持った病棟となります。また、名称のとおり地域包括ケアシステムを支えるための病棟としても期待されています。
  そこで静岡厚生病院でも、地域の皆さんに愛される病院を目指し、静岡中部地区の地域医療を支えるため、令和2年度中に地域包括ケア病棟の開始を予定しております。
 今後も他病院・診療所・施設の皆さんとも連携して実施して参ります。

(図5)【地域包括ケア病棟の主な役割イメージ図】

平成25年11月 中医協資料より一部抜粋

〈参考資料〉
・厚生労働省ホームページ
・系統看護学講座 専門基礎分野
  健康支援と社会保障制度[3]
 社会保障・社会福祉 第21版 医学書院



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