JA静岡厚生連。保健・医療・福祉の事業を通じ地域の暮らしに根ざした病院として社会の構築に寄与する。

JA静岡厚生連 〒422-8006 静岡県静岡市駿河区曲金三丁目8番1号
TEL : 050-3101-3960
お問合せ・ご相談
交通案内 リンク プライバシーポリシー サイトマップ


ホームへ 理念・沿革・概要 基本方針 患者様への姿勢 事業内容 施設整備事業

JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2020.4 NO.509
始めよう!腰痛予防~継続は力なり~
リハビリテーション中伊豆温泉病院
理学療法士
宮 健史

はじめに
 みなさんは腰痛を経験したことがありますか?成人の約80%は、人生の中で1度は腰痛を経験すると言われています。近年では中高年の方のみでなく、働いている若年者の方にも腰痛が生じています。厚生労働省が腰痛を予防するように推奨しているほど、腰痛は「発症してから治療する」より「予防する」ことが重要です。そこで今回は、腰痛の原因、予防する方法と継続するためのコツについて紹介していきます。

腰痛の原因は必ず特定できるのか?

 腰痛とは病気の名称ではなく、腰部を主とした痛みや張りなどの不快感を指す症状の総称です。一般に、坐骨神経痛を代表とする脚の痛みやしびれの症状を伴う場合も含みます。腰痛は、
①原因が特定できる「特異的腰痛」
②原因が特定できない「非特異的腰痛」
に分類することができます。では、どちらが多いと思いますか?
 実は、①「特異的腰痛」が15%に対し、②「非特異的腰痛」が85%と言われています。(図1)多くの方が経験する腰痛ですが、明確な原因が見つからないことがほとんどなのです。

(図1)


特異的腰痛の原因とは?
 特異的腰痛に代表される疾患は、①腰椎椎間板ヘルニア②腰部脊柱管狭窄症があります。
①腰椎椎間板ヘルニア
 腰の背骨である腰椎と腰椎の間には、椎間板と言われるクッションがあります。椎間板の中心にあるゼリー状の髄核が飛び出すことで腰の神経が圧迫されるため、痛みやしびれの症状が出現する疾患です。
②腰部脊柱管狭窄症
 腰椎が変形する、靭帯の弾力性が弱まるといった加齢変化により、神経の通り道である脊柱管が狭くなり、腰の神経が圧迫されるため、痛みやしびれの症状が出現する疾患です。高齢の方で、長時間の立ち仕事や歩行中に足の痛みやしびれが出現し、背筋を丸める、座ることで症状が改善する場合は、この疾患が疑われます。
 特異的腰痛は上記の他に、脊椎圧迫骨折、感染性脊椎炎や内臓疾患の場合も考えられます。そこで以下のような腰痛が出現した際には、自己判断せずに、速やかに病院を受診してもらうことをお勧めします。
・安静にしていても痛みが引かない
・強い足のしびれや麻痺、尿・便などの失禁を伴う
・熱を伴う
・痛みが徐々にひどくなる 

非特異的腰痛はなぜおこるのか?
 非特異的腰痛は、神経症状や重篤な基礎疾患を有しておらず、画像検査では判断ができない腰痛のことです。様々な要因が重複していることが多いと考えられます。
1)筋力の低下
 運動不足や加齢などにより、足腰の筋力が低下し背骨を支えきれなくなると、猫背になる、腰を反らせるなど姿勢が悪くなります。不良姿勢を長時間保とうとすると筋肉が過度に緊張し、こりや痛みが生じます。痛みがあると動きたくないといった心理が働き、過度に安静にしてしまう方をよく見かけます。結果として筋力がさらに低下する、筋肉の柔軟性が低下し、可動域が狭くなり、痛みが生じるといった悪循環を来たすことが考えられます。
2)喫煙
 喫煙者は禁煙者に比べ、腰痛の症状が重篤であると報告がされています。喫煙によって、たばこに含まれるニコチンが体内に入ると、血管が収縮し、血行が悪くなり、筋肉の柔軟性が低下すると言われています。また特異的腰痛の代表疾患でもある脊柱管狭窄症は、喫煙することで圧迫されている神経の働きがさらに血行不良となり、症状が悪化することがあります。
3)労働環境
 農作業による中腰での作業や、猫背でのパソコン作業など、背骨に負担をかけた姿勢が長時間続くことで腰痛を引き起こすことが考えられます。最近では、看護師や介護福祉士などの医療従事者における腰痛の増加が問題視されています。これは患者の起き上がり動作や立ち上がり動作を介助する際の、背骨の捻りや曲げる動作が腰に過剰な負担をかけていることが原因と考えられています。
4)心理的要因
 最近では、ストレスや疲労の蓄積など心理的要因が腰痛を引き起こすことが知られています。日常生活の疲れなど、小さな積み重ねが体に悪影響を及ぼすことがあります。特異的腰痛と比べ非特異的腰痛では、重篤な疾患が原因ではないため、過剰に心配せず、楽観的な気持ちで活動的に過ごすほうがよいことがわかっています。

予防するポイントは“運動”と“姿勢”
 ここまで腰痛の原因について簡単に説明してきました。日常生活の積み重ねによって、特に非特異的腰痛は予防することができます。重要となる方法が、運動をすることです。ある研究では慢性腰痛に対し、運動療法は痛み止めの薬と同等かそれ以上の効果を発揮したと報告されています。
 さらに理想の姿勢を知り、ちょっとしたときにその姿勢を意識することも方法の1つです(図2)。

(図2)


横から見たときに、耳の穴―肩の中央―大転子
(大腿骨の横の出っ張った部位)―くるぶしが一直線上になっていることが理想的な立位姿勢の目安になります。その際に、あごを引く、肩の力を抜く、おへその辺りに軽く力を入れてお腹をへこませる、お尻を軽く引き締めると、良い姿勢になります。
 また良い姿勢をとることと同様に重要となることが、腰に負担をかける姿勢を避けることです。習慣化された日常生活動作が、気付かないうちに腰に負担をかけてしまっていることがあります。例えば、洗面台に対して腰を大きく曲げて洗顔する、常に中腰姿勢で掃除機をかける、洗濯かごが低い位置で腰を大きく曲げて洗濯物を干す、車の背もたれを大きく後ろに倒して猫背で運転するなど、背骨を大きく曲げたまま動作を繰り返し行うことが腰痛の要因になります。日常生活を振り返り、ちょっとした工夫をすることでも腰痛の予防に繋がります。

運動の紹介
 筋肉は、体の中の様々な部位でアンバランスを起こしています。例えばパソコンに向かって猫背になっている姿勢では、お腹の筋肉は働かず、縮んでいる状態となり、長時間この状態が続くと伸張性が低下します。反対に、背中の筋肉は伸ばされて力が発揮しづらい状態であり、長時間続くと筋力が低下します。つまり筋肉は、縮まって固くなっている部位や、伸ばされて筋力が低下している部位があります。そこで自分でバランスを整えるためには、大きく分けて2つの方法があります。
① 縮まって固くなっている筋肉を伸ばすストレッチ
② 伸ばされて筋力が低下している筋肉を鍛えるエクササイズ
 今回は代表的なストレッチとエクササイズを紹介します。痛みが強く出ない範囲で、無理せず行ってみてください。

・ ハムストリングス(太ももの裏の筋肉)のストレッチ(図3)
椅子に浅く座った姿勢で、片足を伸ばして踵を地面につけます。背中を伸ばしたまま、上体をゆっくり前に倒します。筋肉が伸ばされる感覚がある位置で15~20秒間、姿勢を保持します。その際、呼吸は止めず持続的に伸ばしていきます。

(図3)


・腹筋のエクササイズ~腹式呼吸(図4)
椅子に座った姿勢(もしくは仰向け)で、両足を床につけ背中を伸ばします。5秒間鼻から息を吸ってお腹を膨らませ、5~10秒かけて口から息を吐きお腹をへこませます。これを10回繰り返します。

(図4)


・背筋のエクササイズ(図5)
椅子に座った姿勢で、両手を肩の高さまで挙げます。肩甲骨同士を背骨に寄せるように意識しながら肘を後方へひきます。5秒間かけてゆっくり行い、肘が下がらないように注意して行います。これを10回繰り返します。

(図5)


・太ももや臀部のエクササイズ~スクワット(図6)
立った姿勢で、膝関節と股関節を曲げ伸ばしします。背中をまっすぐ保持し、膝がつま先を大きく越えないように注意します。これを10回繰り返します。

(図6)


継続するコツ
 腰痛を予防するためには、短期間の努力より毎日の積み重ねが重要となります。運動をして効果が現れるには約3か月かかるとされています。しかし、運動を続けることが難しいと感じる方も多いのではないでしょうか?そのようなときは次のポイントを参考にしてみて下さい。
①目標をたてる
 腰痛を予防して何かしたいことを目標にしてみましょう。「健康になりたい」ではなく、「健康になって旅行に行きたい」など具体的にすることが大切です。
②実行できることを行う
 自分の生活スタイルの中で行えることを取り入れてみましょう。例えば、デスクワークを長時間行う方なら、休憩中に座って行えるストレッチを行ってみてはどうでしょうか。

おわりに
 腰痛は、継続した運動や生活習慣を見直すことで予防できるものです。みなさんは予防して何がしたいですか?まずはできることから始めてみましょう。腰痛予防を始めるきっかけになれば幸いです。

〈参考文献〉
1)非特異的腰痛の運動療法~症状にあわせた実践的アプローチ:荒木秀明 医学書院p2-3
2)姿勢の教科書~上肢・下肢編:竹井仁 ナツメ社p17-19
3)基礎運動学第6版:中村隆一他 医歯薬出版株式会社p335-336



JA-shizuokakouseiren.