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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2020.2 NO.507
脳卒中になったら、早期診断・早期治療を!
〜脳卒中は治療開始が早いほど、
症状が改善する可能性が高い!!〜



静岡厚生病院

リハビリテーション科医師

鈴木 理恵子

はじめに
 脳卒中の治療は近年著しく進歩しており、以前に比べ患者さんの症状の経過が良いことも増えてきました。脳梗塞の最新の治療は発症(病気になった時間)早期に治療を開始することが必要なため、なるべく早く病院を受診して、脳梗塞の診断をつけて治療を開始することが重要です。そこで今回は、脳卒中を疑うポイントや疑った時の対応を、最新の脳梗塞の治療も紹介しながら説明します。


脳卒中とは
 脳卒中は脳の血管が破れるか詰まるかして、脳に血液が届かなくなり、脳の神経細胞が障害される病気です。原因や病態によって脳梗塞(脳の血管が詰まる)、脳出血(血管が破れる)、くも膜下出血(動脈瘤が破れる)に分類されます。
 脳梗塞は、高血圧・糖尿病・脂質異常症などによる脳血管の動脈硬化や、心房細動による心臓内の血の塊などが原因となって引き起こされます。
 脳出血は、脳の血管が高血圧などにより破れることが原因となります。


脳卒中を疑う症状
 脳の障害された部位により様々な症状が現れます。日本脳卒中協会は、脳卒中を疑う5つの典型的症状をあげています(http://jsa-web.org/)。
・ 片方の手足、顔半分の麻痺、しびれが起こる(手足のみ、顔のみの場合もあります)
・ ロレツが回らない、言葉がでない、他人の言うことが理解できない
・ 力はあるのに立てない、歩けない、フラフラする
・ 片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける
・ 経験したことのない激しい頭痛がする

 重症な時には、意識がなくなったり、もうろうとすることもあります。障害された部位により、様々な症状を呈しますが、共通している特徴は症状が突然生じることです。こうした症状のうち、1つだけが出現することもありますし、いくつかの症状が重複してみられることもあります。症状は障害部位によって決まるので、脳卒中の原因が脳梗塞であっても、脳出血であっても、症状だけでは診断をつけることはできません。診断は、頭の画像検査を行って初めて確定されます。脳卒中以外でもこのような症状が突然現れる場合がありますが、「普段と明らかに違う」ならば、是非速やかに病院を受診してください。
 まれに、症状が短時間出現して消えることがありますが、一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)と呼ばれ、脳卒中の前触れ発作として重要です。近日中に脳梗塞を発症するリスクが高く、15〜20%が90日以内に脳梗塞を発症し、その半数はTIA発症後2日以内に発症すると言われています1、2)。TIAの患者さんは、早期に脳梗塞に準じた治療を行うことで脳梗塞の発症を抑えることができますので、症状が一過性で消えた場合でも病院を受診し、診察してもらいましょう。


脳卒中を疑う症状の覚え方
 脳卒中を疑う症状を簡単に覚える方法があります。FASTです。F=face(顔)、A=arm(腕)、S=speech(言葉)、T=time(時間)の「F」「A」「S」で表される症状のうちひとつでもあれば脳卒中の可能性は70%であり、こうした症状が出現したらすぐに発症時刻「T」を確認して、救急要請を行う必要があると言われています。様々なポスターがでていますので、冷蔵庫などいつでも目に見えるところに貼っておき、脳卒中を疑う症状を見逃さないことが重要です(図1)

図1.FASTをよびかけるポスター
   平成22年度循環器病研究開発費「新しい脳卒中医療の開発と均てん化のためのシステム   構築に関する研究」班作成(国立循環器病研究センター提供)
2



脳卒中を疑った時の対応
 脳卒中を疑う症状がみられたら、直ちに救急車を呼び病院を受診しましょう。重症の場合はもちろん、症状が軽い場合でも救急車を利用してください。これは一刻も早く病院を受診するためです。また、途中で症状が悪くなる可能性があり、そういった状況への対応という点でも救急車は安心です。
 病院ではCT・MRIなどで頭の画像検査を行い、診断が確定されます(図2、図3)。
 全身状態を把握したり、治療方針を決めるために、頭の画像検査以外にも採血・心電図・胸部レントゲン・頸動脈エコー・心エコー検査などが行われます。






治療
 点滴・内服治療がメインになります。病態に応じて、神経細胞を保護し、傷むことを遅らせる「脳保護薬」、脳梗塞の症状悪化や再発を予防する「抗血栓薬」、頭のむくみを改善させる「抗脳浮腫薬」などが点滴されます。血圧・体温・脈拍などの全身状態の管理も行われ、日常生活動作の改善を目的にリハビリテーションが行われます。
 脳梗塞の新しい治療としては、rt-PA静注療法と血管内治療が注目されています。


最新の脳梗塞の治療
rt-PA静注療法
 rt-PA(遺伝子組み換え型組織プラスミノゲン・アクチベータ)は強力な血栓溶解薬(詰まった血栓を溶かす薬)で、発症直後の脳梗塞の治療薬として2005年から我が国で使用されています。当初は発症3時間以内の患者さんに使用されていましたが、2012年より発症4.5時間以内の患者さんに適応時間が延長されました。rt-PA静注療法は出血のリスクを伴うため、適応基準が決められています。発症から時間が経過するほど治療効果は少なくなり、逆に出血の危険性が増しますので、4.5時間以内であっても、なるべく早く治療を開始することが重要です。治療効果ですが、海外の臨床試験では4.5時間以内にrt-PAを使った人の34%が3ヶ月後に障害のない状態にまで回復し(使わなかった人では28%)、3ヶ月以内の死亡率は20%でした(使わなかった人でも20%)3)。日本の全国調査(2005年?2007年)では、rt-PAを使った人の33%が障害のない状態にまで回復し、死亡率は17%でした4)

血管内治療
  rt-PAは点滴治療なので特殊な技術は必要ありませんが、内頸動脈や中大脳動脈といった太い血管の閉塞を再開通させる効果はそれほど大きくありませんでした。この問題を解決するために2010年から行われるようになったのが、血栓回収療法である血管内治療です。カテーテルを脚の付け根から脳の血管が閉塞したところまで挿入し、閉塞している血栓をコイルにからめて摘出したり(図4)、吸引器を用いて吸引します。2015年にステント型のデバイスが登場し有効性が証明されたため、世界的に広く行われるようになってきています。近年、この治療による血管の再開通率は約8割まで上がってきており、「脳卒中ガイドライン2015」でも血管内治療が推奨されています5)
 基本的には発症から6時間以内に治療を開始した人に対して血管内治療の適応が検討されます。また、発症6時間以内であっても、治療開始および血管再開通までの時間が早いほど良好な転帰が期待できると言われています5)
 限定的になりますが、発症から6〜24時間の人でも、症状や画像所見が治療適応基準に当てはまれば、血管内治療を行うことが可能な場合もあります5)。発症時間が不明な場合や、発症してから6時間を過ぎた場合でも、とにかく早く病院を受診し、担当医に治療の適応を判断してもらうことが重要です。



脳卒中にならないために
 脳卒中の5大危険因子は、高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動・喫煙です。その他、男性・高齢者・肥満・過度の飲酒・運動不足なども脳卒中の危険因子と言われています。これらの危険因子は症状がないことも多いですが、症状がないからと言って放置せず、しっかり治療しておくことで脳卒中の発症は抑えられます。バランスの良い食事と適度な運動を心がけ、高血圧の人は降圧薬を、心房細動の人は抗凝固薬を内服するなど、必要に応じて内服治療を行うことで危険因子をコントロールしておきましょう。喫煙は百害あって一利なしです。

最後に
 脳卒中は、病気にならないに越したことはありません。まずは、脳卒中の危険因子に注意して脳卒中にならないように気をつけましょう。そして脳卒中を疑ったら、様子をみるのではなく救急車を呼んで直ちに病院を受診しましょう。少しでも不安があれば、かかりつけ医や地域の急病センターなどに相談しましょう。脳卒中は発症早期に病院へ到着すれば、特殊な治療を行える可能性が高まります。治療開始が早いほど症状が改善する可能性が高いのです。rt-PA静注療法が行えるのは、発症から治療開始までが4.5時間以内の人のみです。まさに「Time is brain」なのです。

〈参考文献〉
1.Chandratheva A, et al. Neurology 2009; 72: 1941-1947
2.Wu CM, et al. Arch Intern Med 2007; 167: 2417-2422
3.Lee KR, et al. Stroke 2016; 47: 2373-2379
4.Nakagawara J, et al. Stroke 2010; 41: 1984-1989
5.日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン作成委員会 編.
  脳卒中治療ガイドライン 2015[追補2019].
   東京:協和企画 2019; p27―30.

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