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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2020.1 NO.506
「在宅復帰」と高齢者の食事について



きよみの里

栄養調理室長

天方 則子

はじめに
 近年、高齢者が住みなれた地域で最期まで暮らす為に「地域包括ケアシステム」の取り組みが進んでいます。
 介護老人保健施設は、自宅と病院の中間施設と位置づけられ在宅復帰を支援しています。当施設では、利用者様が安全、安心して在宅生活が送られるように退所前には、利用者様の意向や家庭環境、経済状況を考慮して、他職種が連携、在宅でのサービスを調整しています。その中で課題となるのが食事です。単身世帯や高齢者世帯での食事は、出来合い惣菜が中心になりがちですが、高齢者にとっては、正月のニュースで取り上げられる餅だけでなく、パンや米飯でさえ誤嚥(食物などが、なんらかの理由で、誤って喉頭と気管に入ってしまう状態)、窒息のリスクに繋がります。
 安心、安全に在宅生活を継続できるように高齢者の食事についてお話していきます。

嚥下食とは
 病院からの退院時に指導されることか多い「嚥下食」は、かむ力・飲み込む力に配慮した食事です。素材をペーストにしたり、とろみ剤を加えて濃度をつけたり、食事に一手間を掛けています。
 玉子料理で例えると、「かまなくてよい」具なしのやわらかい茶碗蒸し、「舌でつぶせる」やわらかいスクランブルエッグ、「歯ぐきでつぶせる」だし巻き玉子、「容易にかめる」厚焼き玉子、等の区分があります。
 誤嚥しやすい方、誤嚥性肺炎を繰り返す方には、「嚥下食」を取り入れています。からだを起こした状態で水を飲む事ができる方でも、寝た状態では自分の唾液で誤嚥してしまう事があります。水分や食物を飲み込む際には、口の中でかんだ後、まとまりを作って食道に送り込む動作が行われています。このタイミングが上手くいかない場合「誤嚥性肺炎」の原因になってしまいます。
 飲み込む力の目安は、「普通に飲み込める」「ものによっては飲み込みづらいことがある」「水やお茶が飲み込みづらいことがある」「水やお茶が飲み込みづらい」になります。

とろみ剤使用の注意点
 最近のとろみ剤は、少量で手早くしっかりとろみの付く「クリア系」が主流になり、熱い物、冷たい物に適した製品もあります。しかし牛乳や濃厚流動食には向かない製品もあり、とろみの濃度や素材に適したとろみ剤を選択しましょう。
 お茶をゼリー状にして提供する場合もあります。またお茶でむせても麦茶なら大丈夫な方もいますので、飲み込む力に心配がある方は、医療機関の専門家にご相談下さい。

在宅生活の「食事」の連携
 高齢者が在宅生活において、食事の用意が大変な場合に宅配弁当や介護保険サービスによる食事の提供があります。例えば、ホームヘルパーが自宅に来て食事を作る生活援助、通所系サービス、施設に泊まるサービスなど。介護保険サービス利用の際には、担当のケアマネージャーを中心に利用者様の情報を共有するための「サービス担当者会議」が開催され、食事についても安全な食事形態について情報共有をしています。
 嚥下機能の低下により主食はお粥、おかずは刻んだもの、汁物にはとろみ剤の使用などを主治医から指示されていても、退院してしばらくすると家族と同じ食事になってしまう利用者様を見かけます。誤嚥のリスクがある場合は、本人だけでなく家族の方にも危険性を理解していただき、指示された食事形態を守っていくことが大切になります。

市販食材の現状
 宅配サービスの弁当や冷凍食品をはじめ、コンビニで注文できるミールサービス、スーパーやドラッグストアで購入できるレトルト食品など、手作りできない世帯でも活用できる市販食材は多くあります。インターネットを使いこなせば、あらゆる食材の入手が可能になっています。
 しかし、硬さ・軟らかさ、口の中での張り付き、口の中でのまとまり易さはなかなか分かりません。その食材・料理がどの区分になり、利用者様の嚥下の状態にあっているかどうかの確認が必要になります。
 例えば、介護の業界には、米飯に「普通」「やわらか」「なめらか」が存在します。お米をじっくり炊きあげて、なめらかに裏ごししたものが「なめらか」レベルになるのですが、おかゆのペーストにとろみをつけたものとの差は、食べてみなくてはわかりません。
 スーパーやドラッグストアの介護コーナーで購入できるレトルト食品などには、「ユニバーサルデザインフード」と書かれているものがあります。「かまなくてよい」・「舌でつぶせる」・「歯ぐきでつぶせる」・「容易にかめる」の区分で表記され、購入時の参考になります。味だけでなく見た目も重視している為、価格が高い印象をもたれるかもしれませんが、火も電気も使えない時にそのまま食べられる備蓄があると安心です。高齢者だけでなく、体調不良の時や防災備蓄の対象として準備しておくと便利だと思います。

低栄養の予防
 高齢者は、食事量の低下や内容の偏りなどにより栄養が不足がちです。低栄養になると筋力が落ち、転びやすくなり、骨折の危険性が増えるなどの心身への悪影響が出ます。低栄養を防ぐ為には食事量とバランスがとれた食事が大切になります。たんぱく質やビタミンが不足しないようにしっかりと食べることを心がけましょう。

おわりに
「食べることは楽しみだ」利用者様がよく口にされる言葉です。食べることは脳の活性化を促し、胃腸の働きを活発化させます。また、安全に美味しく食べることがいつまでも活き活き過ごされることに繋がります。地域のスーパーや民間サービス、介護保険のサービスを上手に使いながら気軽に地域の専門職に食事について相談することができれば良いでしょう。行政には高齢者の食事に関する相談窓口もありますのでご活用したらいかがでしょう。

飲み込む力が弱くても食べやすい、『安全な食事』への取り組みを紹介します。

①ちらし寿司
きよみの里人気№1献立。普段はお粥の方も召し上がります。地元の方おすすめの甘さ強め・酸味の弱い寿司酢を調合しています。おかずの「刺身」は、『たたき鮪』に変更してのどごし良くしています。「ふきのおかか煮」「ごまあえ」は、やわらかく仕上げています。汁物でむせやすい方には、とろみ剤を使用して濃度をつけています。「果物」はカットして提供しますが、酸味でむせやすい方は「ゼリー」に変更します。



②さんまの塩焼
秋になるとリクエストされる献立です。安全に召し上がっていただけるように『骨取りさんま』を使用しています。頭、骨、内臓は取り除いた状態で提供されます。



③手作りおやつ・おしるこ
飲み込む力が弱くなってくると「餅」は危険な食材になります。上新粉・もち粉を原料にした、弱い力でも噛みきれる『お餅風ムース』を全員に使用しています。




JA-shizuokakouseiren.