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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2019.11 NO.504
認知症について



リハビリテーション中伊豆温泉病院

認知症看護認定看護師

近藤 政幸

はじめに
 認知症は高齢になればなるほど、発症する危険は高まります。認知症は特別な人に起こる特別な出来事ではなく、歳をとれば誰にでも起こりうる、身近な病気と考えたほうがよいでしょう。
 厚生労働省の2015年1月の発表によると、日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されています。認知症の前段階とされる軽度認知機能障害と推計される約400万人を合わせると、高齢者の約4人に1人が認知症あるいはその予備群ということになります。更に症状はすでに出ていても未受診の人も含めると、患者数はもっと増えると考えられます。今後、高齢化がさらに進んでいくにつれ、認知症患者数はさらに膨らんでいくことは確実です。厚労省が今回発表した推計によれば、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症患者数は700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の5人に1人を占める見込みとなります。(図1)

図1


認知症とは
 「認知症」という用語は、以前に「痴呆」とされていた呼び方を変更したものです。認知症とは、一言でいうと「一度獲得された知的能力がなんらかの脳の障害によって低下した、または失われた状態」のことであり、もっと平たくいえば「以前は難なくできていたことが、できなくなった状態」と考えることができます。例えば、それまでなかった、電話での伝言を忘れるようになった、水道を閉め忘れるようになった、同じ物を何度も買ってしまう、同じことを何度も繰り返し言う、食事したことを忘れる、感情の起伏が激しくなった、外出しても自力で帰宅できない、作業を完遂せずにやりかけのまま忘れてしまう、部屋を散らかす、などの現象がみられた場合、認知症を疑う必要があります。そして認知症のもう一つの特徴は、進行し、さまざまな症状や障害が加わっていくことです。また、認知症の場合には、初期であっても、そのような症状について本人が自覚していないことが多いのです。例えば、薬を飲み忘れていても、本人に尋ねれば「ちゃんと飲んでいる」などと答えます。当然、本人に対して問診型のチェックを行っても、認知症の有無を正確に判断することはできません。そのため、家族による以前の様子から現在の様子に関する情報はとても重要となってきます。認知症かどうか正確に判断するためには、以前の状態と比べて、新たにどのような認知障害が加わったのかについて診療時に情報を収集する必要があります。そのため、客観的な情報が得にくい単身生活者などが受診された場合、診断に苦慮することになります。

認知症ともの忘れの違い
 物忘れに気づいたとき、「もしかして認知症かも…」と心配になったことはありませんか?もしくは「歳のせいだから」と気にしないようにしている方もいるかもしれません。しかし、認知症による物忘れと、加齢による物忘れは別物です。その違いについて説明します。
 高齢になると脳の機能が衰え、誰にでも物忘れが見られるようになります。「財布をどこにしまったかなぁ?」「明日だと思っていた約束が今日だった」といった経験が、皆さんにもあるのではないでしょうか? 人の脳は加齢とともにその機能が老化し、記憶力のほか、判断力や適応力などが衰えてきます。物忘れも次第に増えていきますが、これは自然な老化現象で認知症ではありません。歳を重ねると、蓄えた記憶を再生する機能の衰えにより、覚えていたことを思い出すまでに時間がかかってしまいます。でも、「財布をしまったこと」や「約束をしたこと」は覚えていますし、物忘れに対する自覚もあるはずです。ヒントがあれば思い出すことができ、日常生活に支障をきたしたり、他の症状が出ていない限り、誰にでも起きる老化による物忘れなのです。
 では、認知症の物忘れは、どういったものなのでしょうか。認知症の場合は物事を記憶する機能が障害されます。つまり、「財布をしまったことを忘れる」「約束をしたことを覚えていない」というように、そのこと自体を覚えられないのです。従って、ヒントがあっても思い出すことができません。例えば、アルツハイマー型認知症では直近の記憶を覚えていられないため、同じことを何度も尋ねたり、食事を摂ったことを忘れて夕食を催促したりします。本人にとっては経験していないことなので「繰り返している」自覚はありません。
 このように、記憶すること自体が難しくなりますが、過去の記憶は重度認知症でないかぎり思い出すことができます。現在を過去と混同し、あたかも現在起きていることのように、昔のことを話し出したりすることもあるでしょう。(図2)

図2


認知症ともの忘れの違い
 対応する側としては、否定したり、責めたり、イライラしたりせず、本人の気持ちになり理解することが重要です。
 夕食をたびたび催促され、つい「今食べたでしょう」と言ってしまったり、同じことを何度も言わなければならないことにうんざりすることもあるでしょう。しかし、本人にとっては経験していないことなのです。頭から否定せず「お茶でも飲んで待っててね」など、気をそらす返答をしてみるのも効果的です。
 日常生活に支障が出ている場合、本人も不安や戸惑いを感じています。双方で世界観が違うということを念頭に置き、否定したり叱るような言動は控えるようにしましょう。
 物忘れを補う工夫としては、薬の飲み忘れがないよう印をつけるお薬カレンダーを活用したり、朝昼晩の食事摂取カードを作るなど、目に見える形でルールを作っておくと、本人も自覚しやすいでしょう。その他、キッチンで火をつけたまま、タバコに火をつけたままで忘れるなど、火に関する物忘れは火事につながる危険がありますので、十分な注意が必要です。



 認知症は早期発見が重要です。早期診断による治療で、進行を遅らせたり、日常生活の工夫で改善できることもあるからです。認知症の症状が少しでも疑われるときは、早めにかかりつけの医師や専門の医療機関を受診しましょう。当院でも、【物忘れ外来】を開設しております。早めの受診をおすすめしますのでお問合わせください。



認知症は予防が可能か
 一度発症すると完治が難しい認知症では、予防が重要な鍵となっています。認知症予防には何をすれば良いのでしょうか。リスク要因を減らし、必要な能力を鍛えるために日々の生活の中でできることを紹介します。
 現在、「こうすれば絶対認知症にならない」という確実な方法はまだ確立されていません。しかし、認知症の発症を遅らせ、衰えた認知機能を回復する方法が、少しずつわかってきました。自覚するのは難しくても、認知症を発症するかなり前から脳には異変が起こっています。そのため、発症前にその異変を食い止める必要があるのです。 認知症を予防するための対策は、大きく分けて2つあります。
 1つは認知症のリスク要因となる病気などに気をつけ、生活習慣を改善することです。
 もう1つは認知症で落ちる能力を、簡単なトレーニングで鍛えることです。日々の生活に取り入れて長く続ければ、認知症の発症時期を遅らせ、健やかな状態で過ごせる可能性が高くなります。
 認知症の約6~7割を占めるアルツハイマー型認知症の発症には、日々の生活環境や習慣が大きく影響します。脳の状態を良好に保つためには、適切な食習慣や運動習慣、人とのコミュニケーションや知的行動習慣を意識して、毎日を過ごすことが重要です。

1.バランスの良い食事
 イタリア料理の地中海食は、穀類(パン、パスタ類)、野菜、果物、オリーブ油、魚、赤ワインを主体として肉類摂取は比較的少なく、脂質異常症や糖尿病、冠動脈疾患、高血圧の予防になるとされていますが、アルツハイマー病のリスクを抑える効果も期待できます。また、秋刀魚(さんま)、鯵(あじ)などの青魚には、オメガ3脂肪酸のDHAやEPAが多く含まれています。DHAは脳の構成成分であり、記憶力や判断力の向上、認知症予防、特にアルツハイマー病発症予防に有効であるという報告があります。また、EPAは血管を拡張して血行を促進するので、生活習慣病を予防でき、間接的に認知症の予防に役立つものと考えられます。

2.運動習慣
 1回30分程度、週3日以上の有酸素運動を行いましょう。認知症予防に役立つ知的・身体的活動としては、1位:ダンス、2位:散歩、3位:水泳の順番になっています。1位のダンスについては、異性との交流による刺激が良いと言われています。

3.コミュニケーション
 人と交流できる社交の場を意識して持ちましょう。

4.知的行動習慣
 文章の読み書きやゲームを行う、博物館に出かけるなど、脳を刺激しましょう。

5.睡眠習慣
 朝起きたら2時間以内に太陽の光を浴びることを心がけ、夜はきちんと眠るためにも昼寝をする場合は30分以内にとどめましょう。

6.計画力を鍛える
 新しいことを行うとき、段取りを考えて実行する能力が計画力です。旅行や効率の良い買い物の計画を立てたり、囲碁や将棋など頭を使うゲームを行うことや、新しいことに取り組むなどを意識的に行ってみましょう。

おわりに
 超高齢社会では、認知症は「皆が行く道」ということです。これは、皆で取り組む社会全体の課題でもあると考えています。当院でも、認知症を抱える高齢者の入院が増加しており、その人の意思や尊厳が守られるよう、認知症各期における支援体制、療養環境の調整や多職種との連携体制を整えております。認知症があっても、住み慣れた地域・自宅で、元気で喜びをもって生活できることを念頭に置き尽力しています。
 読んでいただいた皆様にとって、何か1つでも得るものが御座いましたら幸いです。



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