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JA静岡厚生連。保健・医療・福祉の事業を通じ地域の暮らしに根ざした病院として社会の構築に寄与する。
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〒422-8006 静岡県静岡市駿河区曲金三丁目8番1号
TEL : 054-284-9854 |
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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2019.10 |
NO.503 |
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腹膜透析
~腎代替療法の選択~
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遠州病院
血液浄化センター 看護長
野澤 和子 |

「もし、あなたのご家族、大切な方が、腹膜透析、血液透析、腎臓移植のどれかの選択を迫られたら、あなたは何を考え、何を選択なさいますか?」
透析医療の現状
日本の慢性透析患者は2017年321,516人で男性208,870人、女性112,646人、平均年齢68・43歳で年々増加傾向を示しています。(図1)
透析医療費は日本の医療費の5%を占め1.6兆円、合併症の治療を含めれば2兆円もの額になります。今後社会保障費や医療費なども大幅に増大する事が予測されます。そこで、私たちの目標となってくるのが、※1末期腎不全の原因である糖尿病や高血圧、慢性腎臓病の早期発見や重症化予防になってきます。
では腎臓病が進行してしまったらどうしたらよいのでしょうか?
ここで大切なのは自分に合った透析方法を選ぶということです。腎代替療法には3つの治療方法があり、腹膜透析、血液透析、腎臓移植があります。体調やライフ・スタイルに適した方法を選びましょう。
※1 末期腎不全…腎臓は体の中の老廃物や余分な水分を尿として体外へ排出する働きを持っています。この腎機能が慢性的に低下することで、体がむくんだり、血中のカリウム濃度が上がって心臓の機能を悪化させたりします。
図1

透析方法と腎臓移植
・腹膜透析(PD)
自分のおなかの中に管(カテーテル)を植え込みます。そして、おなかの中に腹膜透析液を入れて腹膜を通して老廃物や水分を取り除きます。在宅や職場で行う事ができる治療法で、通院は月に1~2回です。寝ている間に器械を使って行うAPD方法と、日中4~8時間ごとに(1回の治療30分程度)行うCAPD方法があります。
・血液透析(HD)
週2~3回通院して、器械を使って血液をきれいにします。透析医療機関に通院して行う治療法で、1回の治療時間は3~4時間程度です。血液を体外に取りだし、体にたまった余分な水分や老廃物を器械で取り除きます。※2シャントの作成手術を行うことが必要になります。
※2 シャント…血液透析のために大量の血液を体外から透析機械に流せるようにするための血管。
血液透析は在宅で行う方法もあります(HHD)。その場合は制約がないため自由な時間を家族と過ごすことができ、透析が充分出来るため食事制限が緩和でき、栄養状態の改善が見込めます。
・腎臓移植
親族からの提供による生体腎臓移植と、亡くなった方から提供を受ける献腎臓移植があります。献腎臓移植を受けるには、日本臓器移植ネットワークへの登録が必要です。我が国では、腎臓の提供者が不足しているため透析を行ないながら沢山の方が長い間待機をしているのが現状です。 医師の話は緊張しますし、医療のお話も難しいですよね。人生の大切な選択だからこそ、躊躇してしまいますね。そこで、腎代替療法外来の看護師の出番です。

透析方法と腎臓移植
2019年8月23日から毎週金曜日午後、腎臓内科医師による腎代替療法外来が開設されました。
この外来では、腎臓内科医師から腎代替療法とその実際の説明をさせて頂いています。腎臓の働き、慢性腎不全、慢性腎不全医療費、社会福祉サービス等をご質問にお答えしながら、診察を進めていきます。それを受けて毎週金曜日午前、血液浄化センター看護師が、今までのお話しの流れの中で患者様が何を思い、何を感じたのか、お気持ちを伺いながら選択決定のお手伝いをさせて頂きます。
血液浄化センター看護師に求められる役割は、※3PDファースト・PDラストを念頭に、患者様ご本人はもとよりご家族も含めたケアがあります。患者様のボディイメージの変化や腎機能喪失感、腹膜機能劣化も時に応じて専門職(心理)の介入も念頭におき、多職種連携のコーディネーターとしての役割を担います。日常のちょっとしたことのご質問から様々な知識としての情報を提供することや感情的支援を行い、患者様との信頼関係を構築していきます。
血液透析を選択された患者様が、「血液透析が、こんなに辛いとは思わなかった。」とおっしゃっていたことが忘れられません。何を選択されても、患者様の気持ちに寄り添いながら、後悔しないような選択決定支援を提供することが、血液浄化センター看護師としての責務だと思います。
※3 PDファースト、PDラスト…PDファーストとは、透析治療をまず腹膜透析(PD)から始め、PDのメリットを十分に生かした後に血液透析(HD)へ移行するという治療選択です。逆に、透析医療の終末期のひとつの手段として、柔軟性が高く身体的負担の少ない腹膜透析を選択する方法をPDラストといいます。
図2

透析方法と腎臓移植
では、日本の血液透析、腹膜透析の比率はどうなっているでしょうか?
現在日本では、血液透析97・3%、( 在宅血液透析0・2 %)腹膜透析2・7%です。(図2)
この静岡県西部地区でも成人の腹膜透析患者の受け入れができる病院は、当院を含め2病院しかありません。対象者は、浜松市郊外や静岡県外へ治療のために遠方受診を余儀なくされています。
何故、腹膜透析の普及率が上がらないのでしょうか?その理由と、血液透析の問題点、腹膜透析に取り組むべき理由をあげてみます。
【透析方法と腎臓移植】
1 患者側の問題
在宅医療であるため、基本的には全て自分たち(家族)で行なわなければならないということに起因しています。高齢の患者様(家族)に、透析器機の管理、操作、保管場所の確保、更には出口部ケアやカテーテルの管理は困難かもしれません。しかしこれらは、透析器機の進歩や看護師らの指導、医療器機メーカーの手厚いサポートにより格段に管理しやすくなっています。
2 医療者側の問題
充分に経験を積んだ医師、看護師、その他の医療スタッフの協力がないと困難かもしれません。医療者の指導体制作りが重要になってきます。PD看護師の養成や教育、存在が今後の発展の鍵を握るでしょう。
では私たちは何故今、腹膜透析に取り組むことにしたのでしょうか?
【血液透析の問題点】 ①新規導入患者の高齢化
②長期透析患者の増加
③通院困難患者の増加
④透析医療費の増大
⑤少ない腎臓移植
つまり高齢の透析患者はシャントを作成すれば、透析を余儀なくされ、シャント管理もしなくてはならず、血液透析を行うために、退院が難しくなります。
【腹膜透析に取り組むべき理由】 ①生活パターン維持が可能
②就労継続が容易
③少ない通院回数
④地域・在宅中心の生活の実現
⑤シャントが不要
⑥痛みがない(穿刺が必要ない)
⑦カリウム制限がない
⑧認知症を発症しづらい
これらに加え、厚生労働省が診療報酬で腹膜透析、腎臓移植推進に取り組んでおり、後押ししている現状があります。
腹膜透析は医療環境に左右されない、どこでも誰にでも提供可能な治療法になります。
最後に
PDチームの立ち上げまでに1年以上の歳月を要しました。ゼロからの立ち上げには苦労も多く、病棟看護長やPDチームのメンバーには大きな負担をかけました。しかし、私たちの実習指導を温かく受け入れて頂いた各病院の皆さまをはじめ多くの方々に支えられ、当院腎臓内科医師のあふれんばかりの熱意に動かされ、また何よりも患者様の力になりたいという一心でここまで来ることができました。このPDチームなくしては、プロジェクトは成し得ませんでした。
特化した腹膜透析で地域の皆さまから選ばれる血液浄化センターとして、存在感を発揮していきたいと思っています。
〈参考文献〉
あなたの腎臓を守るために
NPO法人 腎臓サポート協会 監修:末男清一 前日本腎臓学会理事長
腎不全 治療選択とその実際 2019年版
臨床透析 2018.vol34.NO.13 PD患者の看護 髙木志緒理他
今PDに取り組むべき明確な理由 社会運動としてのPD 松本秀一郎
2019年PDスタートアップセミナー資料
腎と透析 東京医学出版 Jan.2017 Vol.82 No.1
一般社団法人全国腎臓病協議会ホームページ
https://www.zjk.or.jp/kidney-disease/cure/peritoneal-dialysis/pd/ |
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