| ＪＡ静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 ２０１９．９ |
ＮＯ．５０２ |
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人工関節ってどんなもの？
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静岡厚生病院
整形外科 診療副部長
天野 貴文 |
「人工関節置換術」という言葉を聞いたことがある方はございませんか？最近になり様々な雑誌や広告などで目にしたことのある方もいるかもしれません。この「人工関節置換術」というのは文字通り「関節を人工物に置き換えるという手術」です。関節を人工物に置き換えるというアイデアは20世紀初めころから様々な先生がチャレンジしてきましたがなかなか良好な治療成績にはつながらなかったそうです。実際に治療法として人工関節置換術が確立したのは１９６２年にいわゆるチャンレー人工股関節が完成した以降といわれていますから、かれこれ50年くらいの歴史ということになります(1。
イギリスでは過去２００年間に行われた医療分野での革新的な発明・発見というテーマの切手の図柄の一つが人工関節になっているほど、人工関節の発明によって今までの治療方針が一変しました（図１）。
図１ 人工関節の切手（右上が人工股関節）
現在人工関節置換術は世界中の様々な国で行われており、日本でも人工関節市場全体では１年間に24万セットが使用されています。つまり全国で24万件以上も人工関節の手術が行われているということになります。人工関節というのは身体にあるさまざまな関節に使用されていますから、例えば人工「股関節」では６・５万セット、人工「膝関節」は８・７万セット、人工「肩関節」は４０００セットほど使用されています（２０１７年）（2 。また他にも数は多くありませんが肘関節や足関節、指の関節などで使用されることもあります（図２）。
図２ 人工関節のある部位の例（画像提供：帝人ナカシマメディカル㈱）
人工関節置換術を受けることで痛みがなく関節を動かすことができたり日常生活を快適に過ごすことができるようになりました。以前は人工関節置換術を受けた方は一律に身体障がい者の４級（足関節は５級）に認定されていましたが、手術することで動けるようになるのに障がい者になるのはおかしい、ということで２０１４年４月以降は本人の関節の動きや能力に応じて４－７級または非該当のいずれかに認定されることとなり、現在では人工関節の手術を受けた方のほとんどが身体障がい者の等級に該当しなくなりました。
人工関節置換術がこれだけ身近な治療法の一つになったということで、今回は人工関節についてのおさらいとどのように付き合っていけばいいか少しお話しできればと思います。
人工関節の構造について
人工関節の構造を理解するためにはもともとの私たちの身体の構造を確認しておく必要があります。関節というのは「骨と骨をつなげているしくみ」のことで骨と骨の間には関節軟骨が存在しています（図３）
図３ 関節の構造（膝関節の例）
関節軟骨は表面がツルツルしていてクッション性があり、なめらかに動きやすくしたり衝撃をやわらげたりするはたらきをしています。それがさまざまな理由で少しずつ傷んでくると動かしにくくなったり痛みが生じやすくなったりします。人工関節置換術というのはこの傷んでいる関節を切り取ったり加工したりした上で、人工物で置き換える手術ということになります。
人工物として現在よく使用されるのが金属（具体的にはコバルトクロム合金、チタン合金、ステンレスなど）やポリエチレンというプラスチック素材の一種などになります。一般的に関節をつくるそれぞれの骨に金属を固定して、関節軟骨のかわりにポリエチレンをはさみこむ形で人工関節はつくられています。図４のコンポーネントと書いてある部分が金属、そしてインサートと書いてある部分がポリエチレンでできています。図３の絵と比較してみるといかがでしょうか？
図４ 人工関節の構造（膝関節の例） 画像提供：帝人ナカシマメディカル㈱
また金属やポリエチレンのかわりにセラミック（具体的にはアルミナやジルコニアなど）という材料を使うこともあります。
人工関節には金属が使用されているため金属探知機に反応するのではという心配をされる方がいます。よく話題に出るのが空港でのセキュリティチェック、別に悪いことをしているわけではないですが探知機が鳴るとあまり気持ちがよくありませんよね。実際にどの程度探知機に反応するのでしょうか？調べてみるといくつか文献がありました。
アメリカからの報告（3 では人工股関節置換術を行った１４３人の患者に対して聞き取り調査をしたところ１２０人（84％）がセキュリティチェックに引っかかり、そのうち25人に身体検査を行う必要があったと報告しています。また日本からの報告4
では飛行機を使用する際に人工関節が挿入されている６７１人のうち３４６人が金属探知機に反応したとのことです。文献によると使用されている金属の種類はあまり関係がなく、国内線よりも国際線の方が感度が高く、片側を手術している人よりも両側を手術している人の方が該当しやすいとのことです（具体的には片側／国内線が23％、片側／国際線が56％、両側／国内線が75％、両側／国際線は86％）。どうやら頻度は比較的高いと認識しておいた方がよさそうです。時々患者様から人工関節が体内に入っているとの医師の診断書がほしいとの申し出がありますが、残念ながらセキュリティチェックを免れるまでの効力はないようです。
人工関節の寿命について
現在人工関節は以前と比べ格段に長持ちするようになりました。人工股関節・膝関節ではデザインや、表面の加工によっても成績にばらつきはあるものの20年以上有用との報告が多くなってきています(5(6。人工関節は「乾電池」のように寿命が来るとすべてがダメになってしまうわけではありません。「車」のように大事に手入れをしてあげれば長期的に使用することが可能なもので平均すると20年くらいは問題がないことが多いですよ、ということになります。
ではどのようなことがあると問題があるのでしょうか？「問題がある」＝「もう一度手術が必要になる」と考えるといろいろな理由が考えられます。日本では「人工関節レジストリ」といって人工関節を受けた患者情報を登録する制度があり、再手術が必要になった原因を知ることができます（表１・２）。
この結果をみると主に①金属と骨の固定がゆるんだ②関節の中にばい菌が入った③ポリエチレンがすり減った④骨折した⑤関節がはずれた、などの理由があることがわかります。これらのうち①～③までは長い期間注意深くチェックする必要がありますが④・⑤については自分で予防する必要があります。定期受診と転倒・脱臼の予防というのが大事です。先ほどの「車」に例えるならば定期点検と事故の予防ということになりますね。
定期受診のススメ
定期受診ではどのようなことを確認しているかというと主にレントゲン写真やＣＴといった画像をチェックして金属のゆるみやポリエチレンのすり減りがないか、金属や骨に変化がないか確認をしています。また生活をしていて特に問題がないか問診をしたり、関節の動かせる範囲（可動域）を測定しながら問題がないか確認をしています。
けがをして痛みが生じたり、関節の周囲が腫れている、動くと音がする、などと異常があれば定期受診に関係なく受診をお願いしていますが、ほとんどは自覚する症状がなく長い年月をかけて人工関節や人工関節の周りが変化するため、手術をしてから数年が経過するとだんだん定期受診するのが面倒になってしまいがちです。自分で１年に１回程度外来予約をし続けるのは簡単なことではなく、過去の調査では自分で予約して１年に１回受診できる割合は５年で36％しかいませんでした（7
。当院では再診予約のできる半年おきの受診を提案させていただいていますが、自分で予約をする場合には受診をする時期というのを忘れない工夫をすることが大事です。
「人工関節手帳」について
当院では人工関節の手術を受けられた患者様や人工関節の手術後に当院で通院中の患者様に対して「人工関節手帳」という冊子をお渡ししています（図５）。「人工関節手帳」には何かお困りになった際の問い合わせの電話番号や手術の際に使用した人工関節の種類や手術日、人工関節置換術を受けた患者様に対する注意事項、定期受診の際の通信欄、そして人工関節置換術を受けたことの証明書などが書かれています。
当院では以前より４００人以上の患者様にお渡ししております。決して特典があるわけではありませんが機会をみて確認をしていただいて定期受診のサポートとなれば、と考えております。
さいごに
人工関節置換術を受けただけでなく定期受診をすることで快適な生活が送れるよう、当科もお手伝いさせていただければ幸いです。疑問や不安等お聞きになりたいことがございましたら当院にお問い合わせください。
〈参考文献〉
1）菅野伸彦 人工関節の歴史と人工股関節最新デザインコンセプト 人工臓器40（1）, 52-56, 2011
2） 矢野経済研究所 2018年版メディカルバイオニクス市場（人工臓器）市場の中期予測と参入企業の徹底分析
3） Johnson AJ, et al. Detection of total hip Prostheses at Airport Security
Checkpoints:How Has Heightened Security Affected Patients? J Bone Joint
Surg（Am） 94（7） :e44, 2012
4） Kimura A, et al. Detection of total hip prostheses at airport security
checkpoints. J
Orthop Sci 2019（ahead of print）
5）変形性股関節症診療ガイドライン2016 : 161-187
6） Ritter MA, et al. Twenty-Five-Years and Greater, Results After Nonmodular Cemented
Total Knee Arthroplasty. J Arthroplasty 31（10） : 2199-2202, 2016
7） 天野貴文 市中病院における人工股関節全置換術後のフォローアップの現状 Hip Joint44（1） :113-115, 2018
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