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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2019.6 NO.499
産後ケア事業を活用して
楽しく子育てを♪



遠州病院

健康管理課主任

神谷 純子

産後ケア事業をご存知ですか?
 産後ケア事業とは出産後の生活をスムーズにスタートするため、医療機関・助産院で宿泊や日帰りでお母さんの心身のケア・授乳指導・育児相談等を受けられる事業です。各市町村が主体となり、委託契約を結んでいる医療機関・助産院で利用することが可能です。各自治体で徐々にサービスが拡充されつつありますが、まだご存知でない人も多いのではないでしょうか。一人で不安を抱えてしまったり、悩んでしまっているお母さんを地域で支える取組みです。今回の特集では、産後のお母さんの状態や実際に産後ケア事業がどのように利用されているのかをご紹介します。




出産を終えたお母さんの身体
 まず、出産の前には妊娠生活があります。新しい命の誕生は楽しみである反面、人によっては悪阻(つわり)があったり、お腹が大きくなるにつれて活動が制限されたり、「無事に育っているのかな」と不安を抱えながら約40週(280日)を過ごします。そして、ついに出産となると何時間もの痛みに耐え、力をふり絞って全力で命を生み出します。産後は会陰部が痛んだり、悪露(おろ)といって血液などが体外に排出されたり、母乳が出たり、めまぐるしく身体は変化していきます。妊娠・出産で生じた全身の変化が妊娠前の状態に戻るのには約6〜8週間かかると言われています。



出産を終えたお母さんの身体
 出産後の女性の気分が不安定になったりすることはよく知られていると思います。赤ちゃんが生まれて嬉しい気持ちで満たされていても急に不安な気持ちになったり、涙が出てしまったり、自分でも感情がよく分からなくなってしまうことがあります。また、自分にお母さんとしての能力があるのかといった不安が強くなります。お母さんは赤ちゃんの状態に敏感になり、赤ちゃんはお母さんに自分の状態を分かってもらえるように色々な合図を送ることを学んでいきます。徐々にお母さんと赤ちゃんの関係が築かれていきますが、最初から息ピッタリ!とはいきません。お母さんは「赤ちゃんが求めてくる合図の意味が分からないのは自分が悪いのではないか」と感じて、自分に未熟さや罪悪感などの感情を生じることがあります。

育児不安
 出産後の心身の疲労に関係なく育児は始まります。授乳、おむつ替え、沐浴など覚えることが沢山です。「授乳」ひとつとっても色々な過程があります。お母さんの身体で乳汁が作られて分泌されること、赤ちゃんがそれをうまく吸えるようになること、空腹のサインをキャッチできるようになること、最後にゲップをさせてあげることなど、多種多様なスキルを習得してようやく一連の授乳作業ができるようになります。育児不安は赤ちゃんの発達段階の変化や、具体的な育児の手段が分からなかったり、うまく行えないことから起こる感情です。不安であることは新たな育児スキルを身に付けたり、危険を察知するのにある程度必要なことでもあります。しかし不安の方にばかり気持ちが向いてしまうとただ辛いだけになってしまいます。退院後1ヶ月以内が最も育児不安が多く、中でも赤ちゃんの「泣き」に対する対応への不安が多いと言われています。この時期のお母さんは赤ちゃんの睡眠・覚醒のリズム、授乳に合わせて自分の生活リズムを調整しなければならないため慢性的な睡眠不足と疲労を感じる方が多いです。赤ちゃんの睡眠・覚醒リズムが確立されるのは2〜3ヶ月頃から。精神的に不安定で不安の最も強い産後1ヶ月は何かしらの育児支援が必要です。

産後うつ病
 産後の不安定な気持ちや育児不安の多くは一過性のもので、ある程度の休息や支援で落ち着きます。ですが、それよりも遅れて発生するのが産後うつ病です。産後2〜4週間後に始まることが多いとされています。「赤ちゃんを可愛いと思えない」「家事や育児をする気が全く起きない」などをはじめ、症状の種類も多く比較的持続するのが特徴です。この産後うつ病は重症化しやすく、なかには自殺願望を抱く人や子供を傷つけてしまう人もいます。精神科での治療と育児支援が必要です。

不安なのは初妊婦さんだけ?
 赤ちゃんが生まれると、今までの生活を赤ちゃんに合わせた生活に変える必要があります。これは初産婦さんだけでなく、2人目、3人目の親になったとしても、生まれた赤ちゃんを迎えての生活は家族全員が初めてです。不安になるのは経産婦さんも同じですし、きょうだいのお世話などでゆっくりできず疲労がうまく回復できないこともあります。

子育て世代を取りまく社会
 かつては家族やご近所さんの知恵を借りたり、手助けを受けながら出産後の生活を送ることが多かったのですが、近年は核家族化が進み、自分の親等の親族から距離の離れたところで妊娠・出産をすることが稀ではなくなりました。近くに両親がいても、親と子の関係に様々な事情を抱え、親を頼れない妊産婦さんもいます。また、両親も共働きであり、里帰りをした先で日中は赤ちゃんと二人きりといったこともあります。インターネットやSNSの普及も進みました。うまく活用できればとても便利ですが、情報過多で混乱したり、自分がすごく大変だと思う時にSNSを開いて楽しそうな投稿があると羨ましくなったり、子供の成長を比べてしまって不安を増幅させたり、マイナスに作用することがあります。

産後ケア事業はどのように利用する?
 ここまで産後のお母さんについて記述しましたが、この数々のことが引き金となって悩みを一人で抱えてしまうお母さんがいます。産後ケア事業は不安が大きいとされる時期・人に対して支援を行う事業です。各自治体により事業内容が異なりますが、浜松市でのご利用について紹介します。

利用できる方
 浜松市に住民票がある方で、条件に該当する産後4か月未満のお母さんと赤ちゃん・ 家族などから家事、育児等の十分な産後の援助が受けられない方・体調不良や育児不安等がある方
 ※ お母さんだけでも利用可、医療行為が必要な方はご利用できません

産後ケアの内容
 宿泊型、デイサービス型(1日、2時間、1時間)、訪問型に分かれており、それぞれの産婦さんに合った指導や相談を行います。(お母さんの身体のケア、産後の生活指導、栄養指導など)

申し込みについて
・ ご利用の施設に仮予約後、区役所で事前に申請をします。
・ 概ね妊娠8ヶ月以降で産後ケア利用時期が決まっている方が申請できます。
・ 利用者・配偶者またはその両親が申請できます。

ご利用料金
 利用するサービスのタイプと施設によって自己負担額が変わります。(助成あり)

 詳細については浜松市の子育て情報サイト「ぴっぴ」をご覧下さい。
 (浜松市外にお住まいの方・・・自治体によって内容が異なりますのでお住まいの市町  村にご確認下さい。)

遠州病院でも産後ケア事業のお手伝いをしています
 遠州病院では、当院で出産された方の産後ケア(宿泊型)(デイサービス型:1時間・2時間)の受け入れをしています。

〜実際にあった受け入れの例〜
・浜松での生活歴が浅く、退院後は夫婦と赤ちゃんだけの暮らしになると見込まれた妊  婦さんが産後ケア(宿泊型)のご利用を希望。(予定の入院期間を延長してのご利用)   ↓
妊娠8ヶ月頃、当院にて産後ケア入院の仮予約、区役所での申し込みを終える
  ↓
本人と当院へ、市から利用承認通知書が来る
  ↓
出産を終えて、実際にお困りのことや不安なこと、受けたい指導などを具体的にお伺い
  ↓
産婦さんに合った必要なサポート

〈お困りの内容〉
・授乳時以外の赤ちゃんとの過ごし方(ずっと寝かせていていいもの?)
・体重増加など成長の目安をもう一度聞きたい
・母乳やミルクについてのご相談
・沐浴を自分でできるようにしたい
・ゆっくり休みたい

〈産後ケア入院後の感想〉
 自分の子の授乳量や排泄のことがこんなにも気になるとは、実際に出産をしてみないと分からなかった。産後ケア入院をしたことで、1対1で色々な指導が受けられ、ゆっくりと赤ちゃんに関わることができ、自分の身体も休めることができた。沐浴の練習もゆっくりできて、1人でもできる自信がついた。病院という場所だと医療的なことだけを施してくれるイメージだったが、生活に根付いた関わりをしてもらえて助かった。

産後ケア事業をうまく活用しよう!
 産後ケア事業の良い所は病気でなくても医療機関の力を借りられることです。人それぞれの産後の悩みに、病気でなくてもプロの力を借りられるのはとても心強いです。そしてこの事業自体を広めるにあたっては周囲の温かな目も必要です。「昔はこんなのなくても子育てしていた」「ただの甘えじゃないか」中にはそんな風に思う方もいるかもしれません。色々な研究が進む中で分かってきたこと、社会の変化があります。浜松市では妊娠8か月以降で申し込みができます。妊娠中から赤ちゃんと過ごす実生活を想像して準備しておくことも産後の不安軽減につながります。
 少しでも多くのお母さんの不安が解消され、お子様の成長を楽しめるよう願っています。

遠州病院
  産後ケアのご予約・お問い合わせ

  053―401―0050
     お気軽にご相談下さい。




〈参考文献〉
 母性看護学各論(医学書院)
 浜松市子育て情報サイト「ぴっぴ」
 産後ケア事業ガイドライン



JA-shizuokakouseiren.