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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2019.4 NO.497
住み慣れた地域で最期まで暮らす



清水厚生病院

地域連携センター 病診連携室 室長

武田 知里

はじめに
 日本の高齢化率をご存知でしょうか。現在、高齢化率は27・7%、4人に1人以上が65歳以上の高齢者です。10年後には、その高齢化率は33・7%、3人に1人になり、高齢者1人を1.7 人で支えていくと予測されています。これからも高齢者が、住み慣れた地域で最期まで暮らすためには、専門職と地域の連携が必要です。そこで今回は、聞きなれた内容となりますが、高齢者を支える地域の方にも知っていただけるように「地域包括ケアシステム」と「退院支援」についてご説明いたします。


なぜ地域包括ケアシステムが必要なのでしょうか
 それは、急速に進む少子高齢化が背景にあります。高齢者の人口が増えると、介護が必要な高齢者も増えます。その一方で、高齢者の介護をする人が不足します。今ある介護保険サービスだけでは、高齢者を支えきれない状況になってくるからです。そこで、「地域」の力が必要と考え、構築されたのが「地域包括ケアシステム」となります。
 静岡市は、2035年には65歳以上の一人暮らしの高齢者や夫婦のみの世帯が全世帯の28%以上になると予測されています。(表:1)そのためこの高齢者を支えるケアシステムがより必要になります。


表:1 高齢者の世帯数(静岡市)

出典:静岡市調査 ※推計値は2014年の調査結果をベースに算定したものです。

「地域包括ケアシステム」とは
 各地域に住んでいる高齢者の方が、介護が必要な状態になっても、住み慣れた地域で自分らしく、人生の最期までずっと暮らし続けることができるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援の高齢者を支えるサービスを一体的に切れ目なく提供するシステムのことです。その実現のためには、図1の5つの要素の連携が必要となります。
 私たちが住んでいる静岡市は、地域活動が盛んでボランティアやサポーターによる「S型デイサービス」や介護予防体操「しぞ〜かでん伝体操」といった取り組みがあります。 ご存知の方も多いと思います。興味のある方はぜひ参加してみてください。

(図:1)

出典:厚生労働省 2018年8月7日時点

地域包括ケアシステムの5つの要素は「植木鉢」に例えられます(図:2)
*皿:本人の選択と本人・家族の心構え
 どこで・誰と・どのように暮らしていくか、まず本人がしっかりと意思表示をすることが大切です。そして本人・家族がそれに対する心構えを持つことが植木鉢のお皿となり、全体の土台となります。
*鉢:住まいと住まい方
 本人の希望する暮らし方や、プライバシーや尊厳が守られた環境が確保されて、日々安定した暮らしができるように、土や葉がこぼれ落ちないようにしっかりとした鉢となります。
*土:介護予防・生活支援
 本人が健康維持のために努力する「介護予防」と、買い物やゴミ出しなどのサービスや近隣住民の支えによる「生活支援」となります。この部分が充実すると、専門職が力を発揮できます。充実を養分として「土」になります。
*葉:専門職によるサービス
 「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・福祉」が葉になります。これからも高齢者が増えるので、この葉を大きくしていくという意味があります。 ここで大切なことは、それぞれのサービスを受けるには、「本人の選択と本人・家族の心構え」です。みなさんも、しっかりと自分自身の人生を考えて、その気持ちを家族に伝えておくようにしましょう。


(図:2)

 
そこでみなさんは、どこで介護を受けたいと思っているのでしょうか。 
 表2からもわかるように、本人も家族も自宅での介護を希望しています。しかし実際には、在宅療養を希望する約7割の方は病院で亡くなられています。私たち医療者は、入院した患者さんと家族の希望に沿えるように支援する役割があります。その取り組みが「退院支援」となります。


(表:2
静岡市のみなさんはどこで介護を受けたいと思っているのでしょうか。
問1: 自分に介護が必要となった場合、どこで介護を受けたいか。
  →60%以上の方が「自宅で介護を受けたい」と回答

療養に関する本人の希望

出典:静岡市高齢者保険福祉計画見直し策定のための実態調査報告書(平成25年)

問2:家族に介護が必要となった場合、どのように介護したいか。
  →約70%の人が「自宅で介護をしたい」と回答

療養に関する家族の希望

出典:静岡市高齢者保険福祉計画見直し策定のための実態調査報告書(平成25年)


「退院支援」とは

 
患者が自分の病気や障害を理解して、退院後も継続が必要な医療や看護を受けながら、どこで療養するのか、どのような生活を送りたいのかを意思決定するための支援です。 
 その患者さんの意思を実現するために、私たち専門職は、地域の医療機関や介護保険サービス事業所などと連携・調整をしていきます。 
 以前は、入院したらひとつの病院で治療・リハビリ・退院というのが一般的な流れでした。しかし現在は、各病院の機能が分かれ急性期・回復期や地域包括ケア・療養・介護となりました。そのため、急性期の治療や手術が終わると、退院準備のために次の病院に転院することが多くなりました。患者さんによっては「追い出されてしまった」と感じる方もいらっしゃるかと思います。決してそういうことではなく、病院の機能が分かれたことが理由となります。

退院支援はいつから始まるのでしょうか

退院支援は、主治医から退院の許可が出たときに始まるものではありません。外来で入院が必要になった時から、退院に向けた生活を整えていく支援が開始されます。 退院支援の流れを簡単に説明します。
第1段階:外来〜入院後3日以内
 この時期は、外来で「退院するために困難となる理由」を考えます。困難理由があった患者さんに看護師または社会福祉士による退院支援が必要になります。入院された方は経験があると思いますが、「退院後はどうされますか」、「自宅にもどれそうですか」と本人と家族の意向を確認します。これが退院支援の始まりです。
第2段階:入院後3日目〜退院まで
 この時期は、患者さんと家族が病気を理解して、受け入れることができるように支援します。また、在宅復帰をイメージして自立を目指す支援も行います。患者さんと家族は、退院後どんなことが困るのかをしっかりと見つけて看護師や社会福祉士に伝えることが必要です。
第3段階:サービス調整開始〜退院まで
 退院を可能にするために、社会制度や資源を調整し在宅や施設への調整を行います。
 この一連の流れは、看護師または社会福祉士が、患者と家族と面談し、退院前にはカンファレンスを行い院内外の多職種と情報交換・共有します。退院時には、外来・地域に情報提供し切れ目のない連携を行っていきます。 退院し在宅・施設等に戻った患者さんは、地域で支えられながら日々の暮らしをしていきます。



おわりに
 地域包括システムの中心となるのは、地域で暮らすみなさんです。日ごろから、自分がどのように暮らしたいのか、人生の最期をどのように迎えたいのか、家族や親しい方、医療・介護関係者等に伝えておくことが、本人と家族の希望に沿った支援に繋がります。 当院は、急性期から地域包括ケア病床を備えた病院となります。左記の図に連携施設などが記されております、ご参考にしてください。




〈参考文献〉
内閣府・平成30年度版高齢社会白書
静岡市ホームページ 退院支援実践ナビ 宇都宮宏子編著
表: 1・2 静岡市健康長寿のまち専用WEBサイト・まるけあ
図: 1 みんなの介護HP住み慣れて地域で最期まで暮らす
図:2 認知症ねっと





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