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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2019.1 NO.494
大腸癌の化学療法について



静岡厚生病院

外科診療部長

松葉 秀基


はじめに

 日本人の死因の第1位は悪性新生物(癌や肉腫)です。
 2016年に癌で死亡した人の数は372,986人(男性219,785人、女性153,201人)にも上り、大腸癌の死亡数は女性では第1位、男性では肺癌、胃癌に次ぎ第3位となっています。大腸癌死亡数でみますと、1962年には男性2,726人、女性2,875人でしたが、2012年には男性2 5,5 2 9 人、女性21,747人となり、半世紀でおよそ8倍になりました。この理由として、日本人の食生活の欧米化が一因と考えられています。
 また、2014年に新たに診断された癌患者さん(罹患数、全国推計値)は約87万人に上り、大腸癌の罹患数は女性では乳癌についで第2 位の57,735人、男性では胃癌、肺癌についで第3位の76,718人となっています。大腸癌罹患率(大腸癌の新規発生率)を年齢別にみても、大腸癌は男女とも中高年に増加しています。さらに、男女とも罹患数は死亡数の約2倍であり、これは大腸癌の生存率が比較的高いことに関連しています。
 この要因としては大腸癌の生物学的悪性度、血便などでの発見されやすさ等に加えて、近年の化学療法の進歩が関与していると考えられます。
 現代においても、大腸癌の治療の中心は外科的切除であり、外科的切除なしには治癒は難しいことは今も昔も変わりません。しかし大腸癌の化学療法は、近年進歩が著しく、大腸癌の予後改善に大きく貢献しています。今回は大腸癌の治療の中でも、特に近年進歩の著しい大腸癌の化学療法について書いてみたいと思います。( 大腸癌死亡数、罹患数はともに国立がん研究センター がん情報サービスがん登録・統計より)

大腸癌の化学療法

 大腸癌の化学療法は、その目的によって、(1)補助化学療法(2) 切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法の2つに分けられます。以下にそれぞれについて説明して行きます。なお、いずれの化学療法を行うにも、腎臓や肝臓といった重要な臓器の機能が保たれていることが必要条件となります。

(1)補助化学療法
 手術で癌をすべて切除したと判断しても、身体の中に目に見えないレベルでがん細胞が残っている可能性があり、一定の頻度で再発が起こりえます。そこで残っているかもしれないがん細胞を攻撃し、再発の可能性を少しでも減らす目的で術後補助化学療法は行われます。
 術後補助化学療法の対象となるのは、ステージV、および再発の危険性が高いと判断されるステージU(再発の危険性は、病理検査の結果などをもとに判断されます。)の大腸癌の患者さんです。
 行われる化学療法は、
 @内服でのカペシタビン
 A内服でのUFT+ロイコボリン錠
 B 注射または持続静脈投与による5−FU+ロイコボリン
 C 持続静脈投与による5−FU+ロイコボリン+オキサリプラチン
 D カペシタビンの内服とオキサリプラチンの持続静脈投与
のいずれかです。
 年齢、患者さんのライフスタイル、再発の危険性、利便性等を考慮し@、A、Dのいずれかがが行われることが多いように思います。一般的には術後1か月〜2か月くらいに開始し、6か月間継続します。副作用などにより、他の※レジメンに変更したり、途中で中止することもあります。術後補助化学療法はあくまで再発予防であり、術後補助化学療法を行ったからといって、必ず再発しない訳でもないので、患者さんの身体、生活に無理のない範囲で行われます。
※レジメンとは… がん治療で投与する薬剤の種類や量などを示した計画書

(2) 切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法
 手術で癌をすべて取り切れないと判断された場合に行われる化学療法です。化学療法の目標は、腫瘍増大を遅延させて、延命と症状コントロールを行うことです。
 生存期間は通常中央値で評価されます。中央値とは、例えば100人の患者さんを対象にする場合、50人目の患者さんが亡くなった時点が生存期間の中央値です。平均とは少し異なります。化学療法を行わない場合、切除不能と判断された進行再発大腸癌の生存期間中央値は約8ヵ月と報告されています。最近の化学療法の進歩によって生存期間中央値は約30ヵ月まで延長してきました。つまり2年近く長生きできるようになってきた訳です。ここで注意しなくてはいけないのは、あくまで中央値であって、もっと早く亡くなる方もいれば、もっと長生きできる方もいるわけです。
 化学療法により腫瘍が縮小し、根治手術に持ち込める場合もありますが、化学療法のみでは治癒を望むことは難しいのが現状です。
 切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法は、一次、二次治療としては、5−FU+ロイコボリン、オキサリプラチン、イリノテカンの3種類の抗癌剤に、分子標的治療薬である、抗VGEF(血管内皮増殖因子)抗体薬のベバシズマブ、ラムシルバム、あるいは抗EGFR(上皮細胞増殖因子受容体)抗体薬のセツキシマブ、パニツムマブを組み合わせる治療が一般的です。これらの治療は点滴で行われ、投与経路としてポートという器具(図1)を埋め込むことが必要になります。5−FU+ロイコボリンの代わりに、経口の5−FU剤が使われることもあり、この場合はポートは不要です。さらに三次、四次、五次治療として、レゴラフェニブという経口の分子標的治療薬、TAS−102という経口の抗癌剤が使用されることもあります。
(図1)
 以下に大腸癌治療ガイドライン2016年版で推奨されている、切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法のアルゴリズムを示します。(図2)複雑で理解するのはなかなか困難だとは思いますが、切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法は多種多様であり、多くの選択肢があることはおわかりいただけると思います。
 これらを患者さんの年齢、全身状態、ライフスタイルに合わせて、治療を選択していきます。また、化学療法には副作用がつきものであり、副作用により治療の継続が困難になることもあります。次に化学療法の副作用について述べたいと思います。
(図2)

大腸癌の化学療法の副作用

抗癌剤には細胞の分裂や増殖を妨げたり、細胞の遺伝子にダメージを与えたりする働き(細胞毒性)があります。この働きのおかげで癌細胞の増殖を抑えたり、死滅させたりすることができるのです。しかし、同時に正常な細胞も攻撃してしまうため、副作用として、身体にさまざまな好ましくない症状が出てくることがあります。また、分子標的治療薬は抗癌剤と作用機序がまったく異なるために、特有な症状が出てきます。以下に大腸癌の化学療法の主
な副作用と対処法を示します。(図 3)
(図3)

おわりに

 以上述べてきたように、大腸癌の化学療法はここ15年ほどで目覚ましく進歩してきて、大腸癌の生存期間の延長に大きく寄与しています。補助化学療法は再発の可能性を減少させ、切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法は生存期間を延長できる可能性があります。しかし、補助化学療法をしたからといって必ず再発しないわけでもなく、切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法をしたからといって、根治手術に持ち込める一部の場合を除いて、治癒を望めるわけでもありません。多かれ少なかれ副作用もある治療ですの
で、化学療法を行わないという選択肢ももちろんあります。我々医療者は、再発の可能性を減少させ、生存期間を延長できる可能性がある化学療法は基本的にはお薦めはします。しかし、上に述べてきたことをご理解いただいた上で、患者さんご自身で化学療法を行うか否かの選択をされることが最良と思います。



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