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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2018.12 NO.493
インフルエンザ感染対策について考える



清水厚生病院

副院長 内科

村瀬 正樹


感染症成立の3要素:   病原微生物、感染経路、宿主 図1参照

 病原微生物が感染される側の生物(宿主)に結び付けば、感染症が起こり得ます。病原微生物と宿主を結びつける経路を感染経路と呼びます。
 インフルエンザウイルス(病原微生物)が存在しなければ、ヒト(宿主)の社会でインフルエンザ(感染症)は起こりません。一方、インフルエンザウイルスが存在しても、ヒトの社会でインフルエンザが起こるとは限りません。インフルエンザウイルスをヒトと結びつける感染経路があればインフルエンザが起こり得ます。

@インフルエンザウイルスが存在しなくなる。
Aインフルエンザウイルスをヒトと結びつける感染経路がなくなる。
Bヒトがインフルエンザウイルスに対して完璧な抵抗力を持つ。
@ABのいずれか一つの条件が達成されれば、ヒトの社会からインフルエンザという感染症は消滅します。

@ヒト社会から    インフルエンザウイルスが消えるか図2,3

 元々、インフルエンザウイルスはツンドラ地帯に暮らす水鳥に寄生するウイルスですが(図2)、突然変異を繰り返して寄生する生物を多くの動物に広げています(図3)。
 水鳥は渡りによりツンドラ地帯と渡り先を往復する習性があり、インフルエンザウイルスは渡り鳥とともにヒトの生活圏近くに飛来します。そこにはニワトリなどの※家禽や家畜が生活しており、偶然に家禽や家畜に感染できるように変異したウイルスは、家禽や家畜に寄生してヒトの社会で生息するようaになります。家禽、家畜、ヒトが共存する環境で偶然ヒトに感染できるように変異すると、インフルエンザウイルスはヒトの病原微生物になります。(図4)
 ヒトのインフルエンザは多くの生物に広がるインフルエンザネットワークの一つに過ぎないと言えるでしょう。長い歴史を通してヒトの社会は無数のインフルエンザウイルスに侵入されてきたと想像されます。
 インフルエンザウイルスは少しずつ変化して同じウイルスのままではありません。一度は抑えられたウイルスも再び感染できるように変異すれば、再び流行します。ウイルスとヒトの力関係で流行と終息を繰り返すものが季節性インフルエンザであり、血清型でH2N2やH3N2と呼ばれるものがこれに当たります。
 同じ血清型のウイルスならば、その振る舞いはよく似たものに収まりますが、これまでヒトに感染しなかった血清型のウイルスが血清型ごとヒトへ感染できるように変異することがあります。2009年に流行して新型インフルエンザと呼ばれた血清型H1N1が一例です。このように見てくると、ヒトの社会からインフルエンザウイルスが消滅することはないと考えざるを得ないでしょう。
※家禽(かきん)とは… 家畜として飼育される鳥の総称。

                                      図2


                                      図3


                                      図4

Aインフルエンザウイルスの感染経路を遮断できるか

 病原微生物を宿主と結びつける経路を感染経路と呼びます。主な感染経路には接触感染、飛沫感染、空気感染、血液感染、媒介感染があります。インフルエンザウイルスの感染経路は飛沫感染、接触感染です。飛沫感染は咳やくしゃみで飛ばされた小さな飛沫によ広がり、接触感染は主に人の手が触れることにより広がります。ヒトの社会で、咳、くしゃみ、人の手を介した広がりを遮断することは不可能です。インフルエンザウイルスがひとたびヒトの社会に侵入してしまえば、ヒトからヒトへの広がりを防ぐことは容易ではありません。


Bヒトがインフルエンザウイルスに      対して完璧な抵抗力を持てるか

 ヒトは一度感染したウイルスと同じウイルスが再び感染しても発病することはありませんが、感染したことのないウイルスが感染すれば発病します。従って、感染した経験の乏しい子供は感染しやすく、成人は感染しにくい事になりますが、個人差も大きいと思われます。ヒトもウイルスも世代交代を繰り返すので、ヒトの集団免疫力とウイルスの感染力との力関係が絶えず変化する状況は変わりそうにありません。無条件で全てのヒトに全てのウイルスに対して完璧な免疫力を与えてくれる魔法のワクチンが開発されるなどしない限り、ヒトがインフルエンザウイルスに対して完璧な抵抗力を持つことは期待できないと言えるでしょう。


インフルエンザ感染対策

 感染症成立の3要素:病原微生物、感染経路、宿主のレベルで完全な手段がない現状では、インフルエンザ感染対策の目標設定は感染をなくす防災ではなく、被害を軽減する減災が現実的でしょう。季節性インフルエンザは小児が感染しやすく、成人は感染しにくい傾向があります。また、インフルエンザに罹患した場合の死亡率が高齢者で際立って高い傾向があります(図5)。
 取り組みは保育園、学校など小児の集団、家族内、職場、地域社会、各次元で基本的な感染対策を集団で行うことが重要です。具体的には、ワクチン接種、咳エチケット、手洗い、うがい、外出制限、早期発見早期治療、高齢者など健康弱者との接触制限など、いずれも決定打ではありませんが、これらの取り組みが社会全体への蔓延を弱めるために重要です。更に、高齢者など健康弱者では早期発見、早期治療、合併症対策など医療の役割が増すと思われます。
 新型インフルエンザは季節性と比べて年齢、個人差に関係なく感染しやすいと予測され、感染した場合の重症化リスクが異なる可能性が危惧されます。高齢者など健康弱者はもちろん、全てのヒトに早期発見、早期治療など早期の医療介入の重要性が季節性と比べて高いと思われます。ただし、新型インフルエンザも感染経路は季節性と同じで、治療法、具体的な感染対策は季節性インフルエンザ対策と同様であり、根拠のない恐怖感を持つ必要性は乏しいと思われます。




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