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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2018.8 NO.489
病気を正しく理解し       
       心臓を長持ちさせよう



清水厚生病院

副院長 循環器内科

森脇 秀明


 皆さん、はじめまして。JA静岡厚生連、清水厚生病院内科の森脇秀明と申します。専門は、循環器内科です。静岡県立総合病院での約13年間の勤務の後、ご縁あって2017年9月より、清水厚生病院に勤務しています。今後とも、宜しくお願いします。

心臓血管系の病気

 循環器内科の仕事は、心臓・血管系の病気の予防、急性増悪時の治療、そして再発・進展予防にあります。心臓・血管系の病気は一般的に大きく6つに分類されます。

1)虚血性心疾患:心臓自身に栄養を送る血管である冠動脈の病気です。動脈硬化により内腔が狭くなり血液の流れが悪くなると必要な栄養が十分心臓の筋肉に届かなくなります。その結果、胸の痛み・圧迫感が出現します、これを狭心症といいます。さらに内腔が狭くなり完全に閉塞してしまうと、もっと恐ろしい心筋梗塞という病気になります。なぜ恐ろしいか、それは狭心症では命を失うことはまずありませんが、心筋梗塞では適切かつ迅速な治療がなされない場合失命してしまう可能性があるからです。また仮に生存できても、心筋が壊死してしまうことにより心臓の機能が低下し心不全になってしまいます。以上のことから、狭心症の段階できっちり精査加療を行い心筋梗塞には進展させないということが治療の大原則になります。冠動脈疾患の原因の一番は加齢です。これは止めることはできませんが、その他の原因である糖尿病、高血圧症、高コレステロール血症をしっかり管理すること、そして禁煙に努めることが狭心症、心筋梗塞症の発症予防にとても重要です。

2)心筋症:冠動脈に狭い所は無いにもかかわらず、心機能が低下する病気で、大きく分けて心室壁が薄くなるタイプと肥大するタイプに分けられます。詳細な原因はまだ解明されてなく、10代―20代の若年で発症した特発性拡張型心筋症では心臓移植が唯一の治療法になることがあります。

3)弁膜症:心臓には4つの部屋があり、部屋と部屋の間にはドアがあります。そのドアのことを医学用語で弁と呼んでいます。弁の開きが悪くなり血液が出ていき難くなることを狭窄症、そして閉じ合わせが悪く逆流が生じることを閉鎖不全症といいます。いずれも程度により治療方針が異なりますので重症度の評価が大切です。重症レベルになると外科的に弁を交換したり、修復する手術が必要になることもあります。また、最近ではカテーテルを使用した治療も行われるようになりました。
心臓 内側
心臓 外側

4)不整脈:正常基本リズム(整脈)以外の脈を全て不整脈といいます。治療が全く不要なものから必須なものまでピンからキリまでさまざまありますので、どういうタイプの不整脈かはっきり診断することが極めて重要です。心房細動という不整脈では心臓内に血栓という血の塊ができ易くなり、それが剥がれ飛んで生じる脳梗塞症が大きな問題となっています。抗凝固薬により、俗にいう血をサラサラにしておくことが有効な予防法として確立されています。またアブレーションという経カテーテル治療で心房細動自体を治してしまうことも有効とされています。

5)大動脈・静脈系疾患:動脈は心臓から全身の諸臓器に血液を送る通り道で、静脈は逆に全身から心臓に帰ってくる道のことをいいます。大動脈にコブができる大動脈瘤や、壁が裂ける解離性大動脈瘤は、いずれも破裂した際は致死的となるとても恐ろしい病気です。血栓により静脈がせき止められ、血液がうっ滞する病気を深部静脈血栓症といいます。主にふくらはぎや大腿に血栓ができることにより、下肢がむくむという症状が出現します。そして血液をせき止めていた血の塊である血栓がはがれ飛んだ場合、血栓は静脈を通って心臓に帰ってきます、そして心臓から肺に行く血管(肺動脈)に詰まってしまい、これを肺動脈血栓塞栓症といいます(別名エコノミークラス症候群)。肺での酸素交換が不十分になったり、肺高血圧症になることで血液中の酸素濃度が低下し呼吸苦の原因となります。

6)高血圧症:あらゆる病気のなかで最も患者さんの多い病気です。血圧は一定ではなく、測定する場所・時間により大きく変動します。忙しく働いている時、あるいは緊張している時に測定し高いからといって高血圧症とは言いません。基準になるべき血圧は、家庭血圧です。普段寝起きしている家庭で、起床後1時間以内、トイレを済まし、朝食までのゆっくりした時に測定します。連続して2回測定し、2回の平均あるいは低い方が 135/85mmHg 以上あれば初めて高血圧症と診断されます。


心不全

 心不全という言葉を見聞きされたことはおありでしょうか?
 昨年、日本循環器学会と日本心不全学会が合同で心不全の定義を決定しました。心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気であると定義されました。最初に“心臓が悪いため”と書かれていますが、では心臓が悪いとはどういうことでしょうか? それは先ほど述べた1)から6)までの病気のことを言います。1)から6)までの病気があることにより心臓の機能が低下し、息切れやむくみが出現してくることを心不全といいます。心不全は増悪と回復を繰り返しながらも徐々に進行していきます。増悪は急激に出現することもあれば気付かない間に徐々に進行することもあります。また一過性のこともあれば、そのまま命を奪われてしまう重症の場合もあります。仮に一過性の増悪で済んだとしても、増悪・回復を繰り返すうちに生命予後を縮めてしまうことになります。よって1)から6)までの疾患の管理をしっかり行うことが、息切れやむくみに対する治療であると同時に心不全の進展を緩やかにし心臓を長持ちさせることにつながります。


腎不全


 心不全に関連して最近大きな問題になっているのが腎機能障害です。心不全が増悪し入院治療が必要になった患者さんの50-70%の方に腎臓の機能が低下する腎機能障害・腎不全が存在するといわれています。腎臓は、血液中の不要なもの、過剰なものを尿という形で体外に捨てる働きをしてくれています。腎機能低下が起こると、捨てないといけないものが捨てられず体内に残ってしまいます。尿量も減少することになり、結果として体内に水分が貯留しやすい状態になってしまい、それがまた心不全の増悪要因になっています。心不全は息きれやむくみが出現する病気ですが、原因は心臓の機能が悪化することによる血液の循環不全、つまり水分の貯留にあります。つまり心不全でも腎不全でも体内に水分が貯留しやすい状態になってしまい、それに対しては利尿薬が主要な治療法の一つになります。利尿薬は腎臓に作用することにより尿を強制的に作り、体内に貯留した水分を尿として体外に排出してくれます。但し腎機能が悪くなればなるほど、利尿薬の効きも悪くなり、使用する(せざるを得ないのですが)利尿薬の量も大量になってしまいます。そして悪いことに大量の利尿薬は弱った腎機能をさらに悪化させ、生命予後を悪化させてしまう可能性を持っています。以上のことから、心不全、腎不全に対して利尿薬は使用せざるを得ない重要な薬ではありますが、腎機能低下を防ぎ、長持ちさせるためにはできるだけ少量の使用にとどめておきたい薬と言えます。

新しい利尿剤

 従来の利尿薬は主にループ系、サイアザイド系に分類されるものですが、数年前に新たな作用機序を持つ新しい利尿薬が開発されました。この薬は、純粋に水のみを体外に排出する水利尿作用のある薬で、従来の利尿薬の副作用である腎機能悪化が出現する可能性は極めて低いといわれています。よって、この新しい利尿薬を追加投与することにより、既存の利尿薬を減量することが可能になり、その結果として腎機能を温存し、心不全の増悪や再入院を減らせる可能性があることが明らかになってきました。

おわりに

 心臓・血管系疾患についてお話しましたが、その原因に高血圧、高コレステロール血症、糖尿病といった生活習慣病、そして喫煙が存在します。いずれも自覚症状は特に認めないことが多く、そのため、“まあいいか”とつい軽くみてしまいがちです。が、後日自身の体に確実にツケがまわってくることになりますので、しっかりとした管理が大切です。また心臓だけではなく腎臓も含めた全身管理が、心臓・血管系疾患の治療、増悪予防、そして生命予後にとって極めて重要と言えます。新しいタイプの利尿薬も使用可能ですので、腎機能低下のある方はかかりつけの先生にご相談してみるのもいいかもしれません。
※1 薬物が生体に何らかの効果を及ぼす仕組み、メカニズムを意味する表現

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JA静岡厚生連 清水厚生病院 循環器内科外来(月・水・金)
清水厚生病院 非公認キャラクター みみかちゃん

<引用・参考文献>
・ナースなみんなのコミュニティ看護roo!
・ボストンサイエンティフィック心臓の構造



JA-shizuokakouseiren.