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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2018.6 NO.487
月経困難症



遠州病院

産婦人科 診療部長

鹿野 共暁

 今回は多く女性が関係していると思われる月経困難症について説明します。

月経困難症とは

 月経に伴って起こる病的症状により日常生活を営むことが困難な状態のことをいいます。下腹部痛、腰痛、腹部膨満感、嘔気、頭痛、いらいら、下痢などの症状があります。なかでも下腹部痛や腰痛などの月経痛が最も問題となることが多いです。

月経のしくみ

 子宮は妊娠するための臓器で、赤ちゃんが育つ部屋です。1か月に1回の排卵に合わせて、子宮内膜が厚くなって受精卵(精子と卵子がくっついてできた卵)を受けいれる準備をします。受精卵が着床(子宮内膜に入り込む)したら妊娠が成立します。着床しなかった場合には厚くなった子宮内膜は不要となり、次の着床の準備のためにはがれ落ちて、血液と一緒に押し出されます。それが月経です。

月経のしくみ

 月経が来るとプロスタグランジンという物質がたくさんでます。このプロスタグランジンが子宮の筋肉を収縮させ、はがれた子宮内膜を押し出します。子宮の筋肉が過度に収縮し、子宮への血液が減ることより痛みが起こると考えられています。またプロスタグランジンの働きは全身にも及び、腸の動きを活発にさせすぎると嘔気や下痢などの原因となります。
【表1】に月経痛の要因をまとめました。


月経のしくみ

 月経困難症は器質性と機能性に分けられます。
①器質性月経困難症
 特定の病気によるもので子宮筋腫、子宮内膜症、子宮内膜ポリープなどが原因であることが多いです。主な病気の比較を【表2】にまとめました。

それ以外に先天的な子宮の奇形により子宮頸管がせまいもの、クラミジア感染症などの骨盤炎症疾患による癒着が原因となる場合があります。
②機能性月経困難症
 特に原因となる病気がないもので、多くの場合子宮の収縮が強く起こるために感じるもので、子宮頸管がせまいことも関係している場合もあります。特に十代の若い女性に多く、歳を重ねると軽くなっていくことが多いです。子宮頸管が狭いことが原因の場合には、出産をしたり流産手術をしたりすることで子宮頸管がひろがり生理痛がなくなる場合があります。

月経のしくみ

 月経困難症の診断としては、月経についての問診や、内診、超音波検査などで行います。必要があればMRIや感染症の検査をします。内診や経腟(腟からの)超音波は外来ですぐにでき情報量が多く役に立つ検査ですが、性交渉の経験がなければ無理に行う検査ではありません。経腹(おなかからの)超音波やMRIで補えますし、どうしても必要なら直腸からの検査で代用する場合もあります。心配な病気を否定し機能性月経困難症と診断するためにも産婦人科で診察を受ける必要があります。

月経のしくみ

① 鎮痛剤
 非ステロイド性抗炎症薬といわれる一般的な鎮痛剤を処方します。プロスタグランジンを作るのを抑える働きがあり、子宮収縮を抑えて痛みを軽減します。副作用として胃腸障害があるので続けて飲む場合には胃薬と一緒に処方することもあります。最近は生理痛専用の鎮痛剤や、病院で処方されるものと同成分の市販薬もいろいろ販売されています。強い痛みを感じる前に飲んだほうがよく効くといわれていますので、痛くなるタイミングがわかっている人は早めに飲むことをお勧めします。鎮痛剤を我慢することはありません。

② 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)
 もともと経口避妊薬として用いられいわゆるピルと同じ種類の薬です。エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲスチン(合成黄体ホルモン)の2種類が一緒になったホルモン剤で、月経困難症に対して保険適応のある薬です。基本的には毎日1錠飲み続ける必要があります。子宮内膜が厚くなるのを抑える働きがあり月経量が減り、生理痛もよくなります。
副作用として飲み始めの吐き気や食欲が増すことなどがありますが、重大なものが血栓症です。余分な血の塊ができ血管をふさいでしまう病気です。心筋梗塞や脳梗塞などは若い人ではまれですが、深部静脈血栓症といい脚の静脈に血の塊ができる病気になってしまうことがあります。その血の塊が肺の血管につまると肺血栓塞栓症という命にかかわる病気になることがあります。胸の痛みや脚の痛みや息苦しさなどを感じた場合にすぐに病院で診察してもらえば、たとえ血栓症になったとしても重症化を防ぐことができます。
35歳以上で1日15本以上たばこを吸う、重症の高血圧、前兆を伴う片頭痛、手術前後や長期安静が必要な場合、血栓症を起こしたことがある、乳癌がある、授乳中であるなどにあてはまればLEPは使用できません。LEPを内服することで血栓症になる確率は若干高くはなりますが、妊娠中の女性が血栓症になる確率に比べればかなり低いことが知られていますので、若くてたばこを吸わない人は過度に心配する必要はありません。
LEPは月経困難症に対する効果以外にもいろいろなメリットがあります。卵巣癌や子宮体癌や大腸癌を減らすこと、避妊の効果もあること、月経前のイライラがへること、ニキビが軽くなることなどです。また月経の周期がきちんとコントロールできます。1~3か月まで月経の周期を自分で自由にコントロールできるLEPも処方できるようになりました。うまくコントロールできれば1年に4回だけの月経で済むことになります。つらい月経の回数を減らすことができる点は画期的です。
ピルと聞くと悪いイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。LEPは月経がきていれば中学生や高校生でも安心して飲める薬です。きちんと飲んでいれば避妊の効果もありますし、LEPを飲んだことで将来的に妊娠しにくくなることはありません。むしろ子宮内膜症の治療効果があるくらいなので、妊娠したいと思うまで使い続けてもよい薬です。

③ レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS、ミレーナ®)
 T字型をした子宮内に装着する子宮内システムで、T字型の縦軸の筒のなかにプロゲスチンの一種のレボノルゲストレルが含まれていて、約5年間持続的に放出されます。放出されるホルモンはごく少量ですが、直接子宮に作用するため子宮内膜を薄くして、月経量を減らします。ごく少量のため全身への作用は少なく全身的な副作用もかなり少ないです。
副作用としては不正性器出血、腹痛、LNG-IUSの自然脱出などがあります。子宮頸管から細い筒を通して子宮内に装着するので出産または流産手術の経験がない人では装着するのが難しいです。約3年前から月経困難症に対して保険適応が認められました。1回の費用は保険がきいても1万円程度しますが、5年間うまく効いてくれれば安上がりな治療といえます。毎日薬を飲む必要がない治療法です。

④ 漢方薬
 骨盤内の血流を改善することで月経痛が改善する場合があります。月経困難症に効く漢方薬は何種類かあり、ホルモン剤に抵抗がある方に向いています。

⑤ 鎮痙薬
 子宮の筋肉の収縮を抑える薬です。単独で強い効果は期待できませんが、鎮痛剤と併用することで有効な場合があります。

月経のしくみ

 器質的な病気があっても重症でなければ機能性月経困難症と同様に薬で対処します。①~⑤の薬以外にはプロゲスチン製剤(ジエノゲスト)やGnRHアナログ製剤など月経を完全に止めてしまう方法もあります。
子宮内膜症や子宮腺筋症のためのジエノゲストは副作用として少量の性器出血が続くことがありますが、月経はなくなり、月経時以外の骨盤の痛みなどもなくなるとても有効な薬です。痛みが強かった人ほど効果を実感でき、手術しなくて済むならと長期間使用している人もたくさんいます。
薬物療法で保存的に対処できなければ手術が必要です。子宮内膜症であれば内膜症病巣を摘出したり、癒着をはがしたりします。子宮筋腫であれば子宮筋腫核出術(筋腫のみを摘出する)が行われます。
今後妊娠するつもりがなく根本的な治療を希望される場合には子宮全摘術を行います。子宮全摘術をすれば月経がなくなるので月経困難症はなくなります。子宮全摘術に関しては更年期障害などホルモンバランスの変化を心配される方もいますが、卵巣を残せればホルモン状態に大きな変化はなく、更年期症状もでることはありません。

月経のしくみ

 毎月毎月の月経で多くの方が何らかの問題を気にしながら生活していると思います。困っているようでしたらお近くの産婦人科に受診して相談してみてください。私たち産婦人科医は女性の皆さんが月経のストレスが少なく生活できることをサポートしたいと考えています。



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