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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2018.4 NO.485
検査結果の基準範囲について
〜医療機関ごとに違う基準範囲の現状とこれから〜



清水厚生病院

臨床検査課

原 宜紀


はじめに


 当院は昨年十一月に検体(主に生化学項目)検査の基準範囲を、従来用いていたものから共用基準範囲という基準範囲に変更し検査結果の判断を行っています。
 検査項目には、それぞれその検査値が高いのか低いのかなどを判断するために、基準範囲という客観的に判断するための物差しがあります。みなさんはその基準範囲が、どの医療機関においても同じ範囲で設定されていると思っている方もいらっしゃるかも知れませんが、実は基準範囲は、医療機関ごと様々な理由や条件により範囲が設定されています。
 今回は、その基準範囲が医療機関ごとに、どのようにして設定されているのか、また臨床検査の分野として、医療機関ごとに異なる基準範囲に対して、現在どのような働きかけが行われているのかを簡単に説明します。
 成人の方であれば、誰でも一度は病院を受診したり、健康診断を受けたりして採血されたことがあると思います。採取した血液(検体)は私たち臨床検査技師が前処理し、測定・分析を行い、医師へ検査値を報告しています。検査値は、医師が患者様の状態把握をするためや、治療方針を決定していく上では重要な指標の一つと言えます。また健康診断を受けたことがある方は、検査結果の成績表を見て一喜一憂したこともあると思います。その検査値の横には基準範囲を外れると、L(低い)やH(高い)などの記号が付いてくることがあります。検査値にはそれぞれ基準範囲が定められていて、この範囲を基準に判断します。しかしその基準範囲は医療機関ごとに異なっていることが多いのが現状です。同じ検査値でもある医療機関では異常値と言われ、違う医療機関を受診すると基準範囲内と判断されることも珍しくありません。
   

医療機関ごとに異なる検査の基準範囲

 検査値は、客観的な医学的情報として活用されています。その結果解釈や判断の基準となる重要な指標として基準範囲を設定していて、医療機関ごとに様々な方法で基準範囲が採用されています。各医療機関によるデータ集計・統計的算出で求められた施設固有の基準範囲や、試薬メーカーの推奨、外部委託先衛生検査所の値、教科書の記述などに基づく値など、いろいろな設定が存在しています。また、基準範囲の利用において臨床判断値である※病態識別値(臨床判断値)を使用する場合もあります。
 一方、我が国では医療保険制度において質の高い効率的な医療提供体制のために、医療機関の機能分担と連携(病病連携、病診連携)が進められています。これにより医療機関(健診機関を含む)の間で患者様の検査情報の共有化が期待されていて、測定方法の標準化とともに基準範囲の共用化も望まれてきています。


※病態識別値(臨床判断値)とはなにか

 病気の鑑別、治療効果の判定などに使うために示された値のことを病態識別値(臨床判断値)と言います。病態識別値は検査結果を陽性、陰性に2分割する値であることからカットオフ値とも呼ばれています。
 脂質項目(総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪)、尿酸、糖尿病関連項目(空腹時血糖、HbA1c)に関しては、病気の予防や、治療結果の判定の観点から当院では病態識別値を用いています。


基準範囲の共用化に向けての取り組み

 患者様が採血して得られた検査結果の基準範囲が、どの医療機関であっても同じ物差しで評価されるよう基準範囲の共用化に向けて、日本臨床検査標準協議会(JCCLS)は、共用基準範囲という医療機関共通で使用可能な基準範囲を設定しました。
 共用基準範囲とは、全国各地の約6000名の健康と思われる人を早朝空腹時に採血して得られた検査結果をもとに統計処理を行い、そのうちの中央95%の人の測定値が含まれる範囲を示したものです。
現在、日本医師会をはじめ多くの学会・団体がこの共用基準範囲に賛同していて、徐々にこの基準範囲を採用する医療機関が増えつつあります。


おわりに

 共用基準範囲を採用する医療機関は全国でも徐々に広がりつつありますが、静岡県内においてはまだまだ普及していないのが現状です。従来まで使用していた基準範囲を変更することにより、同じ検査値であったとしても今までは基準範囲内であった値が異常値となったり、異常値であった値が基準範囲内となることもあり、患者様をはじめ検査値をもとに評価する医師に対しても混乱を与えてしまう恐れもあるため、移行させるタイミングが難しいからです。
 近年、臨床検査技術は検査試薬や検査機器の進歩によって、どの医療機関で測定を行ってもほぼ同じ結果値が得られるほど精度保証が保たれてきています。当院では県内最初に共用基準範囲をいち早く採用した静岡県立総合病院をモデルにしながら、共用基準範囲を採用し現在に至っていますが、基準範囲が変更になったことによる問題は今のところ発生していません。
 基準範囲や検査項目についてご質問があれば臨床検査技師がご相談をお受けします。
 最後に検査結果はあくまでも目安であり、医師による総合的な判断が必要です。疑問があった場合には主治医に相談するようにして下さい。



JA-shizuokakouseiren.