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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2018.2 NO.483
「他人事ではない糖尿病
〜運動習慣で予防を〜」



遠州病院 リハビリテーション科

理学療法士 日本糖尿病療養指導士

徳増 来斗


◆運動不足が原因で起こる経済負担

 突然ですが、皆さんは運動不足が原因で、どのくらい経済に負担がかかるかご存知ですか。ある医学誌で、運動不足がもたらす2013年の経済損失が世界で約7兆円に上るという研究結果が発表されました。その中でも生活習慣に起因する糖尿病の医療費は約3.9兆円と、なんと全体の約70%にあたることが判明しています。更に日本はそのうちの約1.2兆円を占めており、糖尿病における医療費は米国に次いで世界第2位となっています。たかが運動不足…と思われがちですが、運動習慣を身に付けて糖尿病を予防することは重要なことだと思いませんか。


◆自分は運動不足?

 糖尿病の主な原因は、食べ過ぎと運動不足と言われていますが、まず自分自身の身体をチェックしてみましょう。以下の方法で肥満度を簡単に調べることが出来ます。


・BMI(body mass index)指数
 【体重(kg)】÷【身長(m)×身長(m)】の計算式に数字を当てはめた時の答えがBMI指数です。
数字が大きい方がより肥満型となります。BMI指数が18.5〜25未満が標準ですが、22〜25も肥満予備軍になるとの考えもあります。


・メタボリックシンドローム
 聞いたことがある人が多いと思いますが、メタボリックシンドロームとは血圧や血液データに加えて中性脂肪の量が決定因子に含まれています。中性脂肪の量は腹囲集計で判断されます。

 男性:85cm以上、女性:90cm以上が診断基準となります。

 普段仕事や家事をしていても、「運動量(消費)<食事量(摂取)」では運動が足りない生活となり肥満となってしまいます。仕事や家事で動いているけど体重が多い、腹囲が大きいなどと、気が付かない間に運動不足に陥っている可能性があります。

◆なぜ運動習慣が必要?

 先ほども述べましたが、糖尿病とは遺伝的な要因に加えて食べ過ぎや運動不足が主な原因となります。運動をしない生活は、どうしても血糖値が高くなりがちで糖尿病への近道となってしまいます。
 現在の日本は交通手段の発達や、TV・インターネットの普及などにより運動不足に陥りやすい生活環境になっています。この生活習慣の積み重ねこそが2型糖尿病リスクそのものであり、生活習慣を変えて運動習慣を付けることが一番の予防になると考えられます。



◆運動について

 一概に運動と言っても様々な種類があり、自分に必要な運動が大切です。

・有酸素運動
 いわゆる持久力運動で、体力の向上を目的とした運動です。歩行や水泳、自転車といった全身運動であり息を止めずに出来る運動のことを言います。


・レジスタンス運動
 いわゆる筋力トレーニングで、筋肉に対して抵抗をかける運動です。ジムなどでダンベルやバーベル、ゴムチューブといった道具を使って行う運動のことを言います。


 元々運動をしていない人や肥満の人は、有酸素運動により全身的な基礎代謝の向上と脂肪の減少をしていくのが良いとされています。ある程度運動に慣れてきたら、少しずつレジスタンス運動を増やし、筋肉の量を増やすことが出来ると更に効果が期待出来ます。

◆運動不足による血糖コントロールの不良について

 人間の身体は、一定の範囲で血糖がコントロールされています。脳や筋肉は細胞内で糖を消費するため、継続し続けると血糖値が下がり過ぎてしまう気がしますが、そうではありません。それは、肝臓から血管中に糖を送っているからです。つまり、血糖をコントロールしている状態とは、細胞で糖を消費する「需要」と、肝臓から糖を送る「供給」が同等であることを意味します。
 では糖尿病に至ってしまう身体とはどういったものでしょうか。それは、「供給」が「需要」を上まっている身体です。糖尿病の人は肥満体型の方が多く、脂肪が多くなることで「需要」である糖の消費が邪魔されてしまい糖が血管中に残りやすくなります。それでも肝臓から糖は送られ、食事を摂ることでも血管の中に糖が送られるため「供給」ばかりが多くなります。この悪循環により、血管の中では糖が増えて血糖値が高い状態が続いてしまい直接的な糖尿病のリスクとなってしまいます。
 運動をしていない身体は太りやすいため、運動不足が2型糖尿病のリスクと関係が深いことが分かります。

◆糖尿病予防から考える運動の効果

 運動により血糖を下げる効果は、「急性効果」と「慢性効果」の2つに分けられます。どちらの効果も機序としては筋肉での糖の消費が重要となります。急性効果は運動中が最も顕著に効果が現れ48時間以内に効果が消失します。そのため、実際の運動の効果としては慢性効果の方が重要と考えられています。

・運動の急性効果
 筋肉を使用する際、血管の中の糖をエネルギー源として消費するため血糖を下げる効果が起こります。特に食後の運動は、食事による急激な血糖上昇を抑えるだけでなく速やかな血糖低下にも効果的です。

・運動の慢性効果
 数か月間の定期的な運動を続けると、筋肉の量が増え基礎代謝が高まります。脂肪の量も軽減することで糖が消費されやすくなり、血糖の上昇を抑制しコントロールに役立つ効果があります。


◆実際にやってみました

 当院では、多職種から構成された糖尿病委員会があり、委員会主催の糖尿病勉強会を定期開催しています。今回はその勉強会の一つとして「Let’s 運動」というテーマで、運動習慣を身に付けることを目的とした“日常生活の中でも道具を使わずに簡単に実施出来る運動”を中心に、リハビリスタッフ協力の下、リハビリ室で実際に運動を体験してもらいました。私たち医療従事者は実際の臨床現場では療養指導をする側の立場となります。指導する側である医療従事者とは健康的であるべきだと思い、まずは職員の健康状態を良好にすることで、より良い療養指導を患者様に提供し、地域のみなさんに還元出来たら幸いです。
    

◆おわりに
 健康診断で高血糖を指摘された人の10年後の医療費は、平均で1.7倍になるという報告もあります。つまり、運動習慣を身に付けて血糖コントロールが良好となればお財布にも優しくなれるかもしれません。まずは職員の健康増進を目指し少しでも多くの方々にこの運動習慣が定着してくれることを願っています。塵も積もれば山となりますので、一人一人の健康への意識が変わり糖尿病を予防することが出来れば、国全体の医療費削減にも貢献出来ます。糖尿病は、間違いなく「治療」から「予防」の時代に変化しています。これに合わせて、まずは生活習慣の見直しや健康に対する意識改革といった自分自身の変化による予防が必要なのではないでしょうか。
〈引用・参考文献〉
・糖尿病ネットワーク(www.dm-net.co.jp)
・厚生労働省(www.mhlw.go.jp)
・糖尿病の理学療法:メディカルビュー社.201


JA-shizuokakouseiren.