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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2017.10 NO.479

発達障害について
〜正しい理解と支援のために〜


遠州病院

小児科 臨床心理士 主任
山本 弘一

◆はじめに

 授業中にじっと座っていることが苦手な子、ぼんやりしていることが多い子、友だちとトラブルになってしまう子、努力しても字がマスに収まらない子、思い通りにいかないとパニックになる子・・・。
 少し前まで、こうした子どもたちは、本人の努力不足や、親のしつけの問題とされることがありました。しかし、今では、彼らの困った行動や言動が、本人や、親の問題ではなく、脳の機能の問題であることが分かってきました。こうした表れを「発達障害」と呼び、その代表的なものとして、自閉症AD/HDLDなどがあげられます。
                                 
◆発達障害とは

 発達障害とは、生まれつき(あるいは生後すぐの)脳に障害があり、情報のとらえ方や、処理の仕方などが、多くの人たちと違うと考えられます。教育の現場では、こうした発達障害があり、特別な支援を必要とする子どもは全体の約6%(40人学級では2〜3人の割合)いると言われています。

◆自閉症
 自閉症には、対人関係の難しさ、ことばやコミュニケーションの難しさ、こだわりが強く想像することの難しさという、3つの特徴があります。特定の音、味、匂い、肌ざわりといった感覚の過敏さや、鈍感さを持つこともあります。
 自閉症の中でも、知的な遅れを伴わないタイプを「高機能自閉症」、さらに、その中でも、ことばに目立った遅れのないタイプを「アスペルガー症候群」と呼んでいました。
 最近では、自閉症的な特徴は、重症から軽症へと連続線上(スペクトラム上)に分布することが分かってきました。そのため、あえてタイプに分けず、「自閉症スペクトラム障害(自閉スペクトラム症:ASD)」として、ひとくくりに考えるようになっています(図1)。



◆AD/HD(注意欠如・多動症)

 注意力や集中力が持続しにくい、
 忘れ物が多い、
 周りの刺激に気を取られやすいなどの「不注意」
 落ち着きがない、
 じっとしていられない、
 しゃべりだすと止まらないなどの「多動性」
 質問が終わる前に答えてしまう、
 順番を待てない、
 思いついたら動いてしまうなどの「衝動性」
の3つが中心的な症状です。「不注意」が目立つタイプ、「多動性・衝動性」が目立つタイプ、両方があてはまるタイプの子どもがいます。

◆LD(学習障害)

 全体的な知的な発達には遅れはないものの、
「聞く・読む・話す・書く・計算する・推論する」
 といった領域のひとつ以上に、目立った困難があるのが特徴です。
 医療の現場では、「限局性学習症」とも呼ばれます。小学校に入り、本格的に学習が進む中で、明らかになってきます。どんな子どもでも得意不得意はありますが、LDの場合にはその差が大きく、困難の度合いもいわゆる「苦手」とは異なります。

◆発達障害の関連
 
 発達障害のそれぞれの日常での表れを、図2に示しています。
「病院では、ASDと言われたけど、落ち着きのなさもあるんじゃないか」
「不注意だけでなく、字を書く苦手さもあるんじゃないか」
など、いくつかの特性をあわせ持つ子どもも少なくありません。
最近では、それぞれの障害が重複しやすいことも分かっています(図3)。
診断名にとらわれすぎず、子どもの特性(その子らしさ)を理解していくことが大切です。
 


◆発達障害の捉え方
 
 「昔からこういう子はいた」「子どもはみんなそう」という意見もあるかも知れません。
発達障害と、そうでない場合の境界線はあいまいで、明確に分けることが難しいことも多くあります。これまで説明してきた特徴が、ひとつも当てはまらない人はいないかも知れません。 また、発達障害の特性があっても、学校や社会で問題にならずに生活できている人もいますし、逆に特性が少しでも大きな困難を抱えてしまう人もいます。特性をもっていて、なおかつ生活のしづらさがあり、周囲の理解や手助けが必要な場合に「障害」と考えると分かりやすいかも知れません。

◆「もしかしたら?」と思ったら

 発達障害の診断は、小児神経科や児童精神科の専門医が、子どもの行動観察、園や学校、家庭での様子、生育歴(これまでの成長の経過)、心理検査など、様々な情報を総合して行います。集団などの社会場面で目立つ場合が多いので「もしかしたら?」と疑われる場合には、まずは園や学校の先生、スクールカウンセラーなどに相談してみるのも一つです。
多くの子どもたちを見ている先生の意見も聞いたうえで、医療機関や相談機関にかかるか判断しましょう。

◆心理検査について

 医療機関や相談機関などでは、心理検査を実施することがあります。中でも、知能検査や発達検査は、子どもの全体的な発達や得手不得手を評価することができます。それにより、現在の子どもの困難さを推測したり、今後の支援の方法を考えることができます。
ただし、検査結果のみで全てが分かる訳ではありません。子どもの心身の状態によっても結果は変わる場合がありますので、その実施と解釈には臨床心理士をはじめとした専門家があたります。

◆支援はスモールステップで

 例えば、じっとしていることが苦手な子の場合、「課題が終わるまで席を立たない」ということはとても難しい目標になります。また、目標が達成できないと大人も叱咤激励しなければいけませんし、子どもも自信を失うことになります。
そこで、まずは本人の特性(苦手さ)を許容した上で、
「三分間(あるいは三問終わるまで)は席を立たない」
など、本人ができそうなことを目標にします。
この目標が達成できたら、“おおいに”褒めて、達成感や満足感を味わえるようにします。
成功体験が増えると自信もつき、「次もがんばろう」とやる気も出やすくなります。そうして徐々に集中できる時間を増やしていきます。
 このように、小さな目標を立てながら少しずつ最終的な目標に近づけていきます。
この方法は「スモールステップ」と呼ばれ、発達障害の子どもに有効な方法の一つです。

◆自信や自尊感情を抱けるように

 発達障害があると、悪気はないのにルールを守れなかったり、トラブルが多くなったりして、どうしても他の子どもよりも注意を受けたり叱責されやすくなります。
 褒められたり、感謝されることよりも、そうでない経験が増えてくると、子どもは自信や意欲を失っていきます。そればかりでなく、「自分はどうせダメなんだ」という思いが強くなり、ますますルールを守れなくなったり、トラブルが増えることもあります。周囲に反抗的になってしまう子どももいます。そうすると、周囲はさらに注意や叱責をせざるを得ません。
 こうした悪循環から脱するには、子どもの特性と、その苦悩を理解し、それに応じた適切な対応が大切です。先述した「スモールステップ」などの支援をしながら、
「自分はできる」「自分は周りの人から大切にされている」
といった、自信や自尊感情を抱けるように関わることが大切です。

◆診断名よりも特性の理解を

 ここまで、発達障害について説明してきましたが、一口に発達障害と言っても、子どもたちの特性にはひとりひとり違いがあります。大切なことは診断名ではなく、ひとりひとりの特性に合わせた支援がなされることです。
「型にハマったことは得意だけど、臨機応変な行動は苦手」
「初めてのことは戸惑いやすいから、見通しが立つように説明すると上手くいく」
など、本人の特性と対応の工夫を具体的に理解することが大切です。また、ついつい苦手な面だけに目が行きがちですが、子どもの得意な部分を活かして、苦手な部分をカバーしていくという視点も必要です。

◆さいごに
                       

 発達障害の子どもと関わることは、とても大変なことです。自分のかかわり方を責めてしまったり、周囲の誤解に苦しんだり、子どもの将来を心配に思うこともあると思います。
ましてや、子どもの発達のペースはひとりひとり違いますし、子育ては長く続いていくものです。その長い道のりを生きのびるためにも、親御さんが頑張り過ぎないこと、適度に息抜きをすることが大切です。そして一人で抱え込まないように、相談できる相手や場所を見つけることも不可欠です。園や学校だけでなく、医療や福祉の手助けもありますし、親の会を始めとしたネットワークもあります。書籍やインターネットの情報も役立ちます。
 このように、子どもを支えてくれる社会資源は、広い意味での「サポーター」と言えます。周囲にこうした「サポーター」を増やし、支援体制を少しずつ整えていきましょう(図4)。子どもにとっての「サポーター」は、きっと親御さんにとっての「サポーター」にもなってくれるはずです。




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