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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2017.9 NO.478
がんと補完代替医療



清水厚生病院

外科診療副部長

岡上 能斗竜



1.補完代替医療って?

 「補完代替医療(ほかんだいたいいりょう)」という言葉をご存じでしょうか?
「アロマセラピー」とか「鍼灸(しんきゅう)」、あるいは「アガリクス」とか「サメ軟骨」なら聞いたことがある人も多いと思います。
 病院で行われている医療の大部分は西洋医学と呼ばれるものですが、がんやアレルギー疾患、精神疾患のように、食事・運動などの生活習慣やストレスなどの社会環境など、 様々な複合要因によって起こりうる病気については、容易に克服できない状況が続いています。そのため健康食品や各種民間療法が広く患者さんに利用されている現状があり、そうしたものを総称して補完代替医療といいます。
 ここでもうひとつ「統合医療」という言葉をご紹介します。まだ議論の余地がある概念であることを前置きしておきますが、厚生労働省では「近代西洋医学を前提として、これを相補・代替療法や伝統医学等を組み合わせてさらにQOL(生活の質)を向上させる医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」と位置づけています。(表1)
 補完代替医療の多くは経済活動を伴って患者さんに提供されているため、宣伝や広告など科学的視点からは不正確な情報があふれている現状があり、「民間療法」という言葉に怪訝な印象をもつ人も少なくないでしょう。医療従事者には特にその傾向が強いと思います。
 
                      
2.がん治療での位置づけ

 少し前のデータになりますが、2001年に補完代替医療の利用実態に関して全国規模の調査が行われています。(表2、図1) これによると、がん患者の約45%が補完代替医療を利用しており、平均して月に5万7千円を出費しています。内容としては健康食品・サプリメントが圧倒的に多く(96%)、主な利用目的は、がんの進行抑制(67%)、治療(45%)となっています。
 また、患者さんの57%が補完代替医療について十分な情報を得ておらず、61%が主治医に相談していないという結果でした。
 日本では、補完代替医療にがんの進行抑制や治ることなど、がんに対する直接的な治療効果を期待している人が多いといわれています。言い換えれば、病院で処方される薬と同じように考えているということになります。直接的な治療効果とは、がんを小さくしたり、再発を抑制したり、生存期間を延長したりということです。一方、欧米では、がんの進行に伴う痛みなどの症状緩和や心理的不安の軽減、通常のがん治療に伴う副作用の緩和などが主な目的となっています。
 夢も希望もない話と感じるかもしれませんが、実際に、補完代替医療で直接的な治療効果を証明するような報告はほとんどないのが現状です。ただし、「報告がない」ことと「治療効果がない」ことは違うことは付け加えておきます。このあたりの解釈が、補完代替医療の難しいところなのかもしれません。現段階では、「治療効果があるのかないのか分からない」が適切な表現であり、大きながんの塊が消えてなくなったというような奇跡的な治療法として補完代替医療を考えるべきではないといわれています。
 一方で、補完代替医療を利用している患者さんには、心や気持ちが穏やかになった、病気と積極的に向き合えるようになった、続けることで安心感が得られるなどの肯定的な変化がみられます。これは決して軽視できない長所だと思います。







3.各種の補完代替医療 

  次に代表的ながんの補完代替医療について科学的データを中心にご紹介します。
@健康食品
 商品として名の知れたもののほか、サプリメントとしてのビタミン・ミネラルなども含まれます。まず健康食品で注意すべきは安全かどうかです。「医薬品=副作用のある危険なもの、健康食品=食べ物だから副作用もなく安心」といった誤解をもっている人も多いと思いますが、摂取した期間や量などをきちんと記録しておくことも大切です。
 健康食品ががんに伴う身体症状を軽減したとする質の高い研究結果はありません。ただし、栄養指導などの栄養学的介入でがん患者の生活の質を改善する可能性、一部の健康食品が、がん患者の生存率の改善と化学療法の奏効率(効きやすさ)の改善に寄与する可能性が示唆されています。

Aマッサージ
 マッサージはがん患者の痛みや不安などの苦痛症状を軽減するために、特に緩和ケアの領域で広く活用されています。
 結論づけには至っていませんが、がん患者の痛みや吐き気、だるさ、不安、ストレスの軽減と、生活の質の改善に有用かもしれないとされています。

Bアロマセラピー
 アロマセラピーは植物の花、葉、種子、果皮、樹脂などから抽出された精油を用いて、芳香浴やマッサージなどでリラクセーションやストレス解消などを目的とする療法です。産婦人科や小児科領域、予防医学的な面での活用も期待されていますが、緩和ケア領域での利用も近年増加しています。
 残念ながら、現時点ではがん患者に対しての質の高い研究では痛みの軽減に有用である可能性が示唆されている程度です。

C運動療法
 運動については、がん治療に関連した有害な症状やがん患者のだるさや不眠を軽減させるほか、乳がんと大腸がんでは死亡率を低下させる可能性があるとされており、補完代替医療の中では推奨度が高い療法といえます。

D鍼灸治療
 補完代替医療の中で最も研究が盛んに行われている分野です。がん患者の痛みの軽減と生活の質の改善に有用であるとされています。また、化学療法による吐き気や乳がんや前立腺がん患者のホットフラッシュ(ホルモン療法中のほてりやのぼせ、発汗など)を軽減させる効果があるとされています。

Eヨガ
 ヨガに関しては主に乳がん患者での研究が行われています。その中で、がんの痛みやだるさ、不眠、不安の軽減と、生活の質を改善する可能性のほか、ホットフラッシュを軽減する可能性が示唆されています。


4.最後に
 
  私たちが患者さんに提供する医療では、臨床試験で効果が証明されている(エビデンスがあるといいます)治療法の優先順位がどうしても高くなります。しかしながら、エビデンスがないということと、実際の治療をどう行うかということは別問題です。実際に私の普段の診療では、先にあげた(エビデンスがあるとまではいえない)補完代替医療も取り入れていますし、効果を実感することも少なくありません。大事なことは、これまでの西洋医学的な治療、エビデンスがある治療が前提としてあるということです。
 現在は多方面からの情報により、患者さん自身が病状や治療内容について偏った見解や誤解をもってしまい、結果、はじめから標準的な治療に消極的になるケースをしばしば経験します。そのこと自体を一方的に否定するつもりはありませんが、それでも医療従事者と繋がっていることが大切であることは強調しておきます。補完代替医療を利用する場合、患者さんの身体の状態をよく分かっている主治医や看護師、薬剤師、栄養士などの医療従事者に事前に相談することをお薦めします。がん治療において、「西洋医学的空白をつくらない」ことをぜひ心に留めておいて下さい。
 
参考文献:
日本緩和医療学会、緩和医療ガイドライン委員会/編:がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス大野智、津谷喜一郎/編:補完代替医療とエビデンス住吉義光、大野智/著:「がんに効く」民間療法のホント・ウソ 補完代替医療を検証する織田聡/編:総合診療のGノート Vol.3 No.8(12月号)2016



JA-shizuokakouseiren.