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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2017.7 NO.476

「FT」という不妊治療を知っていますか?
〜自然妊娠を目指して〜



静岡厚生病院

産婦人科 非常勤医師

西原 富次郎



 出産年齢が上がっている現代では不妊治療を受けるご夫婦が増えています。
 不妊治療とはよく聞くようになりましたが、具体的にはどんな治療法があるのか、どの治療が妊娠する確率が高いのかわからないことが多いのではないでしょうか。

◆不妊治療って?

 不妊治療は、一般不妊治療と高度不妊治療にわけられます。
 不妊治療を始める前に、まず基本的な検査をして、特に大きな問題がなければ一般不妊治療と呼ばれる不妊治療を開始します。
 一般不妊治療とは、タイミング法や人工授精のことです。
 では、これらの妊娠する確率はどのくらいでしょうか?

◆タイミング法の妊娠確率は? 

 タイミング法とは、超音波検査で卵子が入っている袋の大きさを計測して、排卵日を推測します。その推測される排卵日に性行為をするという方法です。妊娠率は、年齢によって大きく差がありますが、一回あたり30%程度とされています。
 逆に、タイミング法を3回行っても妊娠に至らない場合は、引き続きタイミング法を行って妊娠に至る確率は5%以下であることがわかっています。

◆人工授精の妊娠確率は?

 人工授精とは、奥さまの排卵日にご主人の精液をカップに入れて持参していただき“元気で正常な精子”だけを集めて、“子宮内に直接注入する”という方法です。
 基本的にタイミング法と大きくは変わりませんが、“元気で正常な精子”だけを集めて“子宮内に直接注入”するため、ご主人の精子の状態が好ましくない場合と子宮の入り口の問題で精子が卵子と出会えない場合に有効です。
 これも妊娠率は、年齢によって差がありますが、10%程度とされています。

◆では、残りの60%の方々はどうして妊娠しない?

 前述のタイミング法、人工授精で妊娠しない方々の原因として、『卵管』の問題〔図1のA〕が最も多いと考えられています。この『卵管』の問題を解決するのが『FT』falloposcopictuboplastyの略で、日本語で卵管鏡下卵管形成術という不妊治療です。



◆『卵管』の働きって?
 
 卵管采(らんかんさい)〔図2〕でピックアップされた卵子は、そこで精子と出会い、受精します。そして受精卵となってから、卵管内を発育しながら進んでいきます。つまり、“受精の場”としての働きと、“発育の場”としての働きがあります。受精卵は、受精卵→2細胞→4細胞→8細胞→受精後4日目:桑実胚(そうじつはい)→受精後5日目:胚盤胞(はいばんほう)
 と発育していき、受精後5日目:胚盤胞の状態で子宮内膜に着床します。
 卵管に問題があると、この発育がうまくいかず、子宮内膜に着床する=妊娠することができません。



◆不妊の原因となる『卵管』の問題って?

 『卵管』の問題とは、クラミジアなどによる感染症で卵管が狭くなったり、完全に閉塞(へいそく)したりといった卵管の内側の問題と子宮内膜症などによる癒着(ゆちゃく)で卵管と卵巣の位置関係が変わってしまい、排卵された卵子が卵管采に取り込まれない(ピックアップされない)という卵管の外側の問題をいいます。〔図3〕
 今までは、体外受精(高度不妊治療)に進むしかなかった『卵管』の問題を、卵管が狭くなったり、閉塞したりといった卵管の内側の問題は『FT』、排卵された卵子が卵管采でピックアップされない卵管の外側の問題は「腹腔鏡手術」によって癒着を剥離する方法と二つに分けて治療ができるようになってきました。
 当院では、この卵管の内側+外側の二つの治療を一回の入院時の手術で同時に行い、術後は外来通院にてタイミング法による自然妊娠を狙います。

 



◆『FT』ってなにをするの?

 『FT』とは、前述したように日本語で卵管鏡下卵管形成術といわれる不妊治療で膣の方から行う治療です。
 図のように、狭くなってしまっている方の卵管の入り口まで卵管鏡とバルーンを進めて固定し、バルーンをふくらませたり縮めたりしながら卵管の中を進めていきます。
 バルーンの大きさは1.25oで、ふくらませるときに6気圧、縮めるときは2気圧にして卵管内を広げて進めていき、卵管の閉塞部の再開通を試みます。〔図4〕
 『FT』を行う医療施設や患者さまの年齢によって差がありますが、『FT』による治療後、30%〜40%の方が妊娠され、妊娠までの期間はほとんどが術後10ヶ月以内というデータがあります。体外受精(高度不妊治療)での胚盤胞移植での妊娠率が、30%程度であるため、この『FT』治療後10ヶ月の自然妊娠率は、体外受精(高度不妊治療)による妊娠率に匹敵しているのです。



◆10ヶ月で結果が出なければ、どうすればいい?

 『FT』による治療を行ってから10ヶ月を経過しても妊娠に至らない方は、『卵管』の問題の他に原因が重複して存在する可能性が高いと考えられます。この場合は、自然妊娠にこだわることをせず、可能な限り早く体外受精(高度不妊治療)による治療に進むべきです。 厳しいようですが、いたずらに結果の出ない治療を続けることは、患者さまの卵巣年齢を下げることにつながってしまうからです。

◆体外受精(高度不妊治療)と『FT』

 『卵管』の問題としてよくある卵管留(りゅうすいしゅ)水腫という疾患があります。
 卵管の炎症などで卵管に滲出(しんしゅつ)液が溜まって卵管が腫れている状態のものをいいます。この卵管が腫れている状態のまま『卵管』の治療をせずに体外受精を行った場合、受精卵の着床が妨げられ、妊娠率が大幅に下がることがわかっています。〔図5〕
『FT』が開発される前には、体外受精を行う前に腫れている卵管を手術で切除してから、受精卵を子宮に戻す(胚移植する)ことがよく行われていました。腫れている卵管から子宮内に流れ出る物質が、受精卵に悪い影響を与えると考えられてきたためです。
 いまでは『FT』を体外受精前に行うことで、卵管を切除することなく、体外受精(高度不妊治療)による妊娠率の向上が期待できます。



◆おわりに
 『卵管』の問題に対して有効な治療法がないまま、“試験管ベビー”とよばれて始まった体外受精(高度不妊治療)の技術が進歩し、爆発的なスピードで普及してきました。
 ここにきて『FT』が開発され、今まで『卵管』の問題に対してなす術がなく、体外受精(高度不妊治療)を行うしか選択肢がなかった方々の治療の選択肢は大きく広がり、自然妊娠が高い確率で狙えるようになってきました。
 一人でも多くの不妊で悩む方々に、体外受精(高度不妊治療)を始める前にも受けられる『FT』による治療を知っていただき、切なる願いを現実のものにしていただけたら・・不妊治療に携わる医師として、これ以上の喜びはありません。





JA-shizuokakouseiren.