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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2017.4 NO.474

誤嚥性肺炎
〜家でもできる嚥下体操〜


リハビリテーション中伊豆温泉病院

言語療法士

白井 ひとみ


 高齢者にとって肺炎はとても恐い病気です。肺炎が死につながるケースも少なくなく、高齢者や家族、介護をする方々にとっては日常的な健康課題となります。
そこで、肺炎を引き起こすきっかけとなりうる嚥下障害や高齢者に多い誤嚥性肺炎について理解し、その予防と日頃の健康管理に役立てましょう。

◆誤嚥性肺炎とはいったいどういった肺炎なの?

 水や食べ物、胃食道逆流物などが誤嚥によって肺に入ってしまい、細菌が繁殖して炎症を起こすことで生じる肺炎を誤嚥性肺炎と言います。高齢者の肺炎の70%以上が誤嚥に関係していると言われており、平成23年には、肺炎が国内の死亡原因の第3位となっています。
これは超高齢社会が到来したことで肺炎により亡くなられる高齢者が急増した事が要因だと考えられます。
 肺炎で亡くなる方の94%は75歳以上で、高齢者の肺炎の多くが誤嚥性肺炎といわれております。
ちなみに、70歳以上では70%以上、90歳以上では95%近くが誤嚥性肺炎であると言われているようです。
 誤嚥を起こす大きな原因の1つに嚥下障害が挙げられます。
 嚥下障害とは「飲み込みの障害」で、様々な要因によって食べ物がなかなか喉を通らなかったり、むせたりといった飲み込みにくさが生じます。
 特に脳梗塞・脳出血等の脳血管疾患や神経・筋疾患等では高い確率で起こります。

◆どうして飲みにくさがでるんだろう?

 喉は空気と飲食物、両方の通り道となっています。
普段食道の入り口は閉じていて、「ごくん」と飲み込んだ時に喉頭がななめ上に持ち上がり、食道の入り口が開きます。このとき喉頭蓋というふたのような役割をする部分がぱたんと倒れて気管の入り口をふさぎます。
 この一連の動作が正常な人であれば0・3〜0・5秒で起こります。1秒にも満たないわずかな時間で様々な筋肉が協調して飲み込みのために働いているのです。加齢や麻痺によって筋力低下が起こると、なかなか喉頭を持ち上げられず「ごくん」としにくくなります。

 実際にお水を上向きで飲み込んでみてください。いつもに比べて何度も飲み込もうとチャレンジしなければならなかったり、変に大きな音がしたり、飲み込みにくさを感じるのではないでしょうか。これは、上を向くと、前を向いて顎を引いている状態に比べ喉の距離が伸び、喉頭を持ち上げるのにより強い力が必要となるためです。

 また背中が曲がっている方が一生懸命前を向いていると、顎が上がり上を向いているときと同じ状態なので飲み込みにくさが生じ誤嚥の可能性があります。
 同時に喉頭がなかなか持ち上がらないと食道の入り口が開きにくくなるため少しずつしか飲食物が通らなくなります。すると食道に入れなかった飲食物が気管の方にあふれて誤嚥したり、いつまでものどに何かつかえているような不快感が残ったりします。
 高齢者の肺炎の原因は、気づかないうちに唾液や胃液などが肺に入る、
「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)(むせのない誤嚥)」
が多いと言われます。
 認知症、神経病、高齢化が進むと、誤嚥は起こりやすくなるのに咳反射は弱くなり、誤嚥した物を吐き出す(むせる)ことができなくなります。
 誤嚥性肺炎を起こした人の多くは、本人も気づかない、寝ている間に誤嚥を起こしています。
 ただし誤嚥をすると必ず誤嚥性肺炎を起こすわけではありません。
誤嚥によって起こる悪影響に比べ、異物を吐き出す力、体力、免疫力が衰えていると誤嚥性肺炎が起こります。
 逆に、誤嚥よりも抵抗力が強ければ肺炎にならずにすむ、というわけです。


◆誤嚥性肺炎を予防するにはどうしたら良いのだろう?

  誤嚥しても細菌が増えにくい口腔内環境を作ることで、毎日簡単に行える「口腔ケア(歯みがき)」が重要になります。
 余談ですが阪神大震災では、震災関連死922人のうち、24%にあたる223人が肺炎で死亡しました。当時診療にあたった歯科医師によると、肺炎の多くが誤嚥性肺炎だったようです。
 震災時は避難所生活のストレスや栄養不足、運動不足から体力や病気への抵抗力が低下する上、口のケアが不十分なため、誤嚥性肺炎を起こしやすいとみられています。
 口腔ケアには誤嚥性肺炎の原因となる細菌を減らしたり、唾液や水分で乾燥を防いだり、虫歯を予防したりする効果があります。

 口腔ケアの介助をする場合、まずは口の中の状態を観察します。口の中が乾燥していないか、痰は付いていないか、舌に白や薄黄色の汚れが付いていないか、傷があったり血が出ていたりしないか、食後であれば食べ物が残っていないか、などをみます。
 介助量が軽度から中等度の方の場合はまずぶくぶくうがいをします。
 唇の力が弱かったりしてお水を口の中に留めておけない場合は、湿らせたスポンジブラシやガーゼ等で拭います。
 次に歯ブラシでブラッシングします。顔面や舌に麻痺がある場合は麻痺のある側の頬の内側に食べ物が残りやすいので注意します。また、歯だけでなく舌も磨くことをお勧めします。そしてもう一度ぶくぶくうがいをします。

 重度で寝たきりの方の場合は始めに姿勢を整え、背もたれを少し起こした状態にして、あごを軽くひくように枕等で調整します。
 次に水気を絞ったスポンジブラシで口の中を湿らせます。痰などが乾燥して張り付いてしまっている場合はゆっくりふやかしながら取り除きます。
 歯や舌を磨いてから再度スポンジブラシで拭って仕上げます。
 口から食事をしていなくても口の中が汚れていると誤嚥性肺炎を起こす可能性があるので口腔ケアを行う必要があります。
 また高齢になると唾液が出にくくなります。健康な人だと1 日に1 〜1・5リットルの唾液が分泌され、全身の健康に重要な役割を担っています。口内に唾液が少なくなると細菌が増殖しやすくなり、また、食事も上手くとれなくなることから誤嚥が起きやすくなります。
 口腔内が潤うことで食事がしやすくなり、食事をすることで唾液が出るという好循環も生まれます。唾液腺を刺激したり、嚥下体操を行うことで唾液が出やすくなるので、ぜひ実践してみてください。
 笑顔で食事を美味しくいただけるためにもできる範囲で毎日続けることが大切です。是非、楽しみながら取り組んでみてください。

◆唾液腺マッサージ 図1

 唾液腺には1番大きい耳下腺と顎下腺、舌下腺の3種類があります。
マッサージは力を入れずに指で軽く圧迫するようにやさしく行います。
 耳下腺は耳たぶのやや前方にあり、梅干しのことを考えたときのサラサラの唾液を出しているのがここです。上の奥歯あたりの頬に人差し指から小指までの4本を当て、やさしく後ろから前に向かってまわします。
 顎下腺は顎の骨の内側のやわらかい部分にあります。親指を顎の骨の内側の軟らかい部分にあて、耳の後ろから顎の先まで5か所くらいをやさしく押します。
 舌下腺は顎の先の内側、舌の付け根にあります。両手の親指をそろえ、顎の真下から舌を突き上げるようにゆっくりぐーっと押します。
 顎下腺と舌下腺から出る唾液は耳下腺のものより少し粘り気があって、食べ物をまとめて飲み込みやすくするのに役立ちます。
 



◆嚥下体操 図2
 特に食事の前に行うことで身体全体をリラックスさせたり唾液を出やすくしたりする効果が期待できます。
 
@姿勢
まずは姿勢を整えて座り全身の筋肉バランスを整えます。

A深呼吸
おなかを膨らませながら鼻から吸って、口からながーく吐きます。力まずリラックスしてやってみましょう。

B首の体操
嚥下に対する筋肉は首に集中しています。首を左右に倒したりゆっくり回したりして筋肉をリラックスさせます。

C肩の体操
呼吸を整えながら肩の上げ下げ、肩の前回し、後ろ回しをします。痛みがあったりする方は無理せずに、出来る範囲で行いましょう。

D口の体操
口を大きく開けたり閉じたり、すぼめたり横に引いたりを大げさに行い口の筋肉を動かします。

E頬の体操
頬を膨らませたりすぼめたりします。食べこぼし防止や鼻へ食べ物が流れ込むのを防ぎます。

F舌の体操
食べ物を飲み込みやすくまとめたり喉の方へ送ったりするために重要な舌。出したりひっこめたり、唇をなめたりして動かしましょう。

G発音練習
「パ」「タ」「カ」「ラ」をはっきり繰り返し発音します。食べ物を飲み込むために必要な動きです。
H咳払い
誤嚥する前に吐き出す力を鍛えます。





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