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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2017.4 NO.473
”身近な”乳がんのはなし
〜乳がん検診とセルフチェックのすすめ〜


清水厚生病院

外科副医長

地久 才穂子


◆乳がんは痛い?
 おっぱいのお悩みで外来に来られる方で、訴えとして多いのが「おっぱいが痛い」だとか「わきからおっぱいにかけて違和感がある」といったものです。そして訴えの背景には「乳がんではないか?」「乳がんだったらどうしよう」という心配が少なからずあるように思います。
もちろん乳がんの否定は必須になりますので当科でもまずこのような患者さんには、乳がん検診で実施しているのと同様の検査を受けていただいています。しかし、実際痛みが主訴の方で乳がんが発見される方はごく稀で、ホルモンバランスの崩れによる症状であったり、五十肩等からくる症状の延長であったりと、多くは一時的な症状で、そのうちに自然軽快してしまうものがほとんどです。
つまり、乳がんの自覚症状で痛みが一番先に現れるのはめずらしいことです。

◆乳がんの初期症状って?
 では乳がんの初期症状とはどんなものなのでしょうか?
 “がん”と聞くと“痛いもの”というイメージが世間一般的には根強いようです。しかし実際には、乳がんの自覚症状で最も多いのは“痛み”ではなく“しこり”です。乳がん検診を受けた人の中でしこりの自覚症状がある人のうち、14%の人に乳がんが発見されたというデータもあり、痛みや乳頭分泌の症状から乳がんが発見された人が5%ほどであることと比較すると、“しこり”が乳がんを自己発見する上で、非常に重要な症状であることが分かります。
さらに乳腺は自分で触れることのできる数少ない臓器のひとつです。つまり、日頃からご自身で“しこり”の有無を確認することが非常に有効というわけです。
日頃からセルフチェックを繰り返している人では、平均2pの大きさでがんに気がつくのに対し、自然発見したケースではがんの大きさは3p以上が多いというデータもあるほどで、臨床的にこの差は大きいと言わざるを得ません。早期に“しこり”に気がつくために、次に示す「定期的な乳がん検診」と「日頃からのセルフチェック」の繰り返しが大切になってきます。

◆2年に1度の乳がん検診と日頃のセルフチェックで乳がんの早期発見を
 まず実際の乳がん検診で、どんなことが行われているかご紹介します。
検査の内容としてはマンモグラフィ、または超音波検査、もしくはその両方を実施され、さらに医師による視触診が行われています。
 マンモグラフィは乳房専用のX線撮影のことで、しこりとして触れる前の小さな乳がんを発見できる可能性があると考えられています。現在、日本では40歳以上の女性に2年に1度、集団検診としてマンモグラフィによる乳がん検診を受けることが勧められていますが、欧米と比較し日本の検診受診率は低く、多くの方が早期発見のチャンスを逃している状況にあると言えます。定期検診を受けることで自覚症状が全くない時でも、疑わしいものがあればチェックできるので非常に有益です。



 超音波検査(エコー)は、超音波をあて、その反射波から乳房の内部を観察する検査です。
乳腺が発達している比較的若年の方で、マンモグラフィでしこりがあるかどうかわかりにくい場合でも、超音波検査は乳がんの発見に役立つことがあるため、マンモグラフィと合わせて乳がん検診に用いられています。



 セルフチェックは最低でも月1回行うことが望ましいです。実施時期は閉経前の人は、月経終了後1週間くらいの間(排卵から月経終了までは乳房が張るため)、閉経後の人は毎月、日にちを決めて行うとベストです。具体的なやり方を図1でお示しします。
 セルフチェックで乳房の変化を感じた人は、乳がん検診を待たずに外来にご相談にいらして下さい。
もちろんセルフチェックだけでは乳がんの早期発見には不十分ですから、セルフチェックで異常がなかった人も、2年に1度は乳がん検診を受けましょう。また、乳がん検診で「異常なし」といわれた場合でも、セルフチェックは続けてください。図のような検診サイクルを続けることで、自分のおっぱいの些細な変化に気付くことができるようになるはずです。

図1自己検診の方法

図2 乳がんから自分の身を守るための検診サイクル


◆乳がんは早期に発見できれば治癒率の高い病気

 もう少し乳がんの特徴についてお話すると、乳がんは他のがんよりも非常に治癒率の高いがんであると言えます。最新の統計では日本人女性の11人に1人が生涯のうちに乳がんにかかるといわれており、食生活の変化等により昔より患者さんの数は増加傾向です。臓器別がんの罹患数でみれば、堂々第1位のがんです。
しかし、女性の臓器別がん死因としての統計でみてみると、1位)大腸がん、2位)肺がん、3位)胃がん、4位)膵臓がんに続き、第5位のがんであり、乳がんにかかる人はたくさんいるものの、死亡に至ることは少ないことが分かります。つまり早期発見すれば治癒しやすいがんということです。実際、がんの治りやすさの目安の一つである5年相対生存率(乳がんと診断された人が、5年後生存している割合)は90%を越えています。たとえがんと診断されてもあきらめず積極的に治療を受けることがおすすめされます。

◆乳がんのリスクを高める生活習慣とは?
 最後に、乳がんはリスクを知ることも大切な予防の一つです。次のリスク要因に当てはまる人は、より乳がんの兆候に対して注意深く観察することで早期発見につながります。乳がんは次の表のようなことが原因とリスクになると考えられています。


・初経が早い/閉経が遅い
 乳がんは女性ホルモン(エストロゲン)との関係性が深く、女性ホルモンを分泌している期間が長ければ長いほど、乳がんの発症リスクが高まります。

・出産経験がない
 女性は妊娠するとプロゲステロンというもう一つの女性ホルモンが優位になり、乳がんの原因となるエストロゲンの影響が少なくなります。このために出産経験のない女性は特にエストロゲンの影響を受けやすくなるといわれています。

・初産が遅い(30歳以上)
 女性は10〜20代に最もエストロゲンが多く分泌されますが、この時期に出産をすると、出産後にエストロゲンの影響を受けにくくなるといわれています。そのため、初産が30歳以上と遅い場合は、出産後もエストロゲンの影響を受けやすくなり、乳がんの発症リスクが高まるといわれています。

・食生活の欧米化
 乳がんは日本人では11人に1人の発症頻度ですが、欧米では8人に1人と発症頻度が高くなっていることから、食生活の欧米化も原因の1つと指摘されています。

・閉経後の肥満
 閉経後は、脂肪組織の中にある酵素のアロマターゼが、副腎より分泌された男性ホルモンを女性ホルモンに変換します。そのため肥満であるほど脂肪組織の量が多く、女性ホルモンの分泌量が増えることになるので、乳がんの発症リスクを高めるといわれています。

・アルコール/喫煙
 アルコールは適度な量であれば問題ないのですが、過度な飲酒(ビール大瓶を毎日1本以上、日本酒毎日1合以上)は細胞の変異を引き起こし、乳がんになるリスクを高めます。
 次に喫煙についてですが、喫煙は明らかな発生リスクと考えられており、たばこを吸う人は吸わない人の約4倍乳がんになりやすいといわれています。受動喫煙だけでも2・6倍も乳がんのリスクが高まるといわれており注意が必要です。

・遺伝
 乳がんは、遺伝的要因が大きいとされており、遺伝的に乳がんを抑制する遺伝子(BRCA1・BRCA2)に異常が見られる場合があります。乳がん患者の約5%が、遺伝が原因であるといわれています。
 乳がんの原因は上記にあげたリスク因子が考えられていますが、いずれか1つではなく、複数の原因が重なることによって、発症リスクがさらに高まるといわれています。

 以上、今回は乳がんについてご説明してきました。乳がんをひとりひとりがより身近なものとしてとらえ、日々の生活の中で積極的に自分のおっぱいと向き合う時間を作ることが大切ではないかと思います。乳がんは早期発見・治療できれば決して怖い病気ではありません。この文書を手に取られて、この機会に検診を受けてみたいと思われた方、2年以上乳がん検診をサボってしまったという方、気になる自覚症状をお持ちの方、是非お近くの乳腺外来にご相談下さい。

参考文献
日本乳癌学会 患者さんのための
乳癌診療ガイドライン
国立がん研究センター 最新がん統計



JA-shizuokakouseiren.