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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2017.1 NO.470

赤ちゃんは、何を考えているのかな?



静岡厚生病院

小児科診療部長

田中 敏博



 「小児科の先生は大変ですねえ。どこが調子悪いのか、どういう状態なのか、患者のこどもがちゃんと話をしてくれるとは限らないから、判断も難しいでしょう。特に赤ちゃんは泣くばっかりだし…」、そんな風に言われることがあります。
 でも、そのように感じたことはありません。なぜでしょうか? 理由は主に2つです。まず、こどもの病気は比較的シンプルで、一つの要因に行きつくことが多い点です。大人の方がたくさんの病気を抱えていることが少なくなく、よっぽど難しそうです。もう一つは、年齢が低いほどウソを言わない、駆け引きをしない、隠すことを知らない点です。言葉にならなくても、表情や態度、顔色や様子が、そのままその子の病気の状態を表していることが多く、こちらも素直に構えていればよいわけです。赤ちゃんの場合は、なおさらシンプルに、ありのままに受け止めることが大切でしょう。
 日頃の診療や健診等の中で、赤ちゃんの気持ちがなかなか理解できない、何をやっても泣き止まない、どうしたらよいかわからない、というお母さん、お父さんの声に接することがあります。ご家庭ごと、また赤ちゃんによって、いろいろな状況があると思いますので、簡単にひとくくりにするわけにはいきません。それでも、根っこのところでは、上述のとおりシンプルにありのままに受け止めるという基本的な姿勢が役に立つのではないかなと思います。
 日常診療の中でよく遭遇する話題をとりあげて、いっしょに考えてみたいと思います。
                        
@おっぱい
 おっぱいは足りているでしょうか、という質問をよくされます。でも、そういう赤ちゃんに限って丸々と太っていることが多く、心配になってしまうほどガリガリにやせているのを見たことはありません。どんな感じでおっぱいをあげていますかと尋ねると、バッグからかわいらしいノートを取り出して、何時何分から右を何分間、左を何分間…と詳しく記録した欄を指して説明してくださる方がおられます。おっぱいだけでなく、何時何分にミルクを何t作ってそのうちどれだけ飲んだ、という記載もあったりします。「今日の授乳は〇回、合計で〇〇t、これで大丈夫でしょうか?」となるのですが、その数字が多いのか少ないのか、誰にもわかりません。赤ちゃんによって必要な栄養の量は異なるはずの上、日々成長するので、正解の量というもの自体、定めることが難しい作業です。
 それよりも、おっぱいを飲んでいる時の表情はどうですか? 乳首に吸い付く強さはどうですか? 飲んだ後の機嫌は? 顔色は?…と尋ねるのですが、そういう情報はノートに書いていないらしく、なかなか答えが返ってきません。
 また、体重の増え方をとても気にされて、体重計を借りたり買ったりして、毎日のように、あるいは授乳のたびに計測をして、克明に記録されている方もおられます。体重は、赤ちゃんの健康状態、栄養補給状態の一面ではありますが、では体重さえ増えていれば健康なのか、安心なのか、よく考えてみる必要がありそうです。
 自分がどれだけ飲んだか、今日何回目の授乳か、体重がどれだけ増えたか、赤ちゃん自身がそんな数字を気にすることはありません。おっぱいおいしかったなあ、いっぱい飲んだなあ、お母さんはいいにおいだなあ、あったかいなあ、優しい声だなあ、抱っこしてくれて気持ちいいなあ…そんな思いでまた次のおっぱいを楽しみにしながら目を閉じて夢心地になるものではないでしょうか。
 そういう赤ちゃんを見つめながら、お母さんやお父さんも、おばあちゃんやおじいちゃんも、みんな優しい気持ち、幸せな気持ちになれたらよいなと思います。「おっぱいをあげているとすぐに疲れて寝てしまう」ととらえるよりも、うれしくて安心して眠たくなっちゃうんだな、という見方はどうでしょうか。「十分飲んだはずなのに、まだ欲しそうにしている」と考えてすぐに“足りない分をウシさんのおっぱいで補充”しようとはしないで、甘えてるのかな、気をひこうとしていたずらしてるのかな、と、しばらく相手をして遊んであげて、またおっぱいをくわえさせてあげてはどうでしょうか。記録することに夢中になって、あるいは数字に振り回されてしまって、赤ちゃんに見て触れて話しかける作業が後回しにならないように、さびしい思いをさせなくてもすむように、お願いします。
                       
Aおむつ
 最近の紙おむつはよくできていて、吸収力が高く、オシッコやウンチをしても赤ちゃんのお尻の肌に優しい、赤ちゃんも気持ち悪くなくてお母さんも安心…といううたい文句です。でも、「オシッコをしても気持ち悪くない」状態は、必要なことなのでしょうか。オシッコやウンチをしたらすっきりさっぱりするはずなのに、そうした排泄物は最新の紙おむつに吸い取られた状態でお尻の周りに保存されているって、なんだか変じゃないですか? オシッコをしたかどうか、表の線の色が変わって知らせてくれる機能も備わったりしていますが、「さっき替えたばっかりだからまだいいや」なんていうお母さんもいたりします。
 昔ながらの布おむつは、オシッコやウンチをしたら気持ち悪くて、赤ちゃんがすぐに泣いて知らせるので、お母さんがすぐにとり替えてくれました。生まれたばかりの赤ちゃんの排泄回数はとっても多くて、お母さん達はしょっちゅう取り替え作業にあたり、かつ、おむつのお洗濯も大変なことでしょう。でも、頻繁に取り替えの機会がある分、お尻の状態の観察、ケアも万全です。何より、手間をかけている分、お母さんの思いが赤ちゃんのお尻をしっかりと包み込んでいます。だんだん大きくなってくると、オシッコやウンチをしたら気持ち悪い、という感覚があるからこそ、トイレですますとすっきりする、ということにいち早く気づくことになります。
 おしりふきも、今やウェットティッシュ方式の使い捨てのものが大人気です。いつでもどこでも手軽にお尻をふいてポイ、です。でも最近、肛門の周りが真っ赤になってただれている赤ちゃんをよく見かけます。使い捨てのおしりふきは薄く、お尻をきれいにしてあげようとするとどうしてもこすりあげることになって、皮膚が何度も何度も摩擦されて、ずるむけてしまうようです。
 赤ちゃん自身は、今どきの紙おむつや使い捨てのおしりふき、どう思っているでしょうか。気持ちいい、さっぱりする、って、感じているでしょうか。手間がかからなくて便利、と、お母さんやお父さんが楽をするためだけの道具になってはいないか、少々心配です。
                       
B 昼夜逆転、夜泣き、 抱っこしていないと…
 夜と昼が反対、夜になると泣きっぱなし…よくある相談です。あーでもない、こーでもない、あれこれ試すがどうにもならない、毎日毎晩その繰り返しで、もう疲れてしまった、そんなため息混じりの言葉も珍しくありません。
 そんな風にあーでもない、こーでもないと四苦八苦している時、お母さん、お父さんはどんな様子でしょうか。赤ちゃんを包み込むように抱きしめながら、笑顔で、優しく語りかけているでしょうか。もしかしたら、なんでこの子はこんな時間に起き出すのか、どうしていつまでも泣き止まないのか、という思いがありませんか。そんな思いが少しでも心の中をよぎるのだとすると、それは抱き方、表情、声ににじみ出てきてしまうのではないでしょうか。だとすれば、大好きなお母さん、お父さんなのに…と、赤ちゃんはますますお母さんやお父さんの思いとは反対の方向に主張し続けてしまうかも知れません。
 抱っこしていないとお利口にしていない、寝たと思ってベッドに置くとすぐに起きて泣き始める…これもよくある嘆きです。抱き癖がついてしまったとか、おっぱいが足りないからミルクを補充しなくてはいけないとか、そんな風に難しく考える必要はありません。意外と答えは単純で、抱っこが好きだから、ベッドに置かれたくないから、それだけではないでしょうか。
 ヒトは、哺乳動物の一種、獣の仲間です。でも、赤ちゃんも、お母さんもお父さんも服を着てしまっているので、他の哺乳動物、獣と違って、直接に肌と肌を密着させてぬくもりを伝え合うことができにくくなっています。赤ちゃんが、せめて抱っこしてもらって安心したい、心地よくしていたい、と思う気持ちに、ちょっとくらい長めにお付き合いしてあげてもよいのではないでしょうか。
 また、ヒト以外の哺乳動物のお母さん、お父さんは、サルでもイヌでもネコでも、生まれたばかりの赤ちゃんを我が身から片時も離しはしません。もちろん、寝入ったからといって自分から距離のあるところに置いて用事をすませようとしたりもしません。もしそんなことをしたら、たちまち他の獣に襲われてしまう危険性があるからです。赤ちゃんを我が身から離すことに危険を感じない、感じることを忘れてしまった哺乳動物は、人間様くらいのものでしょう。
 哺乳動物としての赤ちゃんが、お母さん、お父さんを大好きに感じている思い、弱々しい自分を不安に感じてお母さん、お父さんに頼ろうとしている思いを、少しでも理解しようと努めることで、今まで耳に届いていなかった赤ちゃんの言葉が聞こえるようになってくるかも知れません。
 赤ちゃんの時、何を考えていたのか、大きくなってから尋ねてみても、憶えていて即答できる子はいませんよね。でも、わからないなあと思う時ほど少し深呼吸をして、赤ちゃんの気持ちを想像してみたらよいと思います。本当はこれがしたい、本当はこうしてほしい、そんな風な何かを感じとることもできるのではないでしょうか。私たち大人も、みんな初めは赤ちゃんだったのですから。
  



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