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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2016.12 NO.469

「地域包括システム」ってご存知ですか?


清水厚生病院
外科診療部長
(清水在宅医療介護福祉連絡会、静岡市在宅医療介護連携協議会委員)

成島 道樹


◆はじめに
 「地域包括ケアシステム」という言葉をご存知でしょうか?高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるように、地域の包括的な支援・サービスを提供できる体制のことを指します。今回は、このような考え方が始まった背景や、その構築に向けての取り組みなどをご紹介します。

◆背景 超高齢者会(2025年問題)
 超高齢社会(2025年問題)
 総人口に対して65歳以上の高齢者人口が占める割合を高齢化率といいます。2015年の時点では、日本の高齢化率は26・7%、つまり日本人の4人に1人以上が高齢者となり超高齢社会と表現されます(参考:平成28年度版高齢社会白書(内閣府))。
 また2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になります。
 これまで国を支えてきた団塊の世代が給付を受ける側に回るため、医療・介護・福祉サービスへの需要が高まり、社会保障財政のバランスが崩れることが懸念されます。
 このように現在の病院中心の医療体制では急増する高齢者を受け入れられないため、住み慣れた地域や住宅で支える仕組みへと転換が迫られています(図1)。

図1

◆お互いに顔が見える関係
 清水在宅医療・介護・福祉連絡会


 静岡市清水区では、2010年12月に地域包括ケア体制の充実を図るため、清水医師会・清水歯科医師会・清水介護保険事業者連絡会・清水区高齢介護課の4者が「清水在宅医療・介護・福祉連絡会」を発足させました。
 この連絡会の特徴は、介護支援専門員(ケアマネジャー)、医療職(医師、歯科医師、看護師、薬剤師など)や介護職・福祉職などの専門家だけではなく、民生委員・自治会代表などにも最初から参加してもらい、互助を基盤としています。清水医師会や清水区内の2次救急病院もすべて参加し、医療面でのサポート体制が充実しているのも特徴といえます。
 「お互いに顔が見える関係づくり」を合言葉に普段交流がなかった職種が同じ課題を議論する場が誕生したわけですが、この会を通じて勉強会・講演会を開催し、お互いに知っておくべき知識の共有や在宅介護に携わる人材の資質向上を図っています。
 またお互いの職種への理解がすすむように地域包括ケアに関わる多職種から、それぞれの業務や取り組みの紹介を医師会報・歯科医師会報に掲載しています。この会報寄稿をまとめて冊子化し、より多くの方に医療・介護・福祉に関心を持ってもらいました(図2)。

図2
◆お互いに信頼できる関係
 飯田庵原・高部地域モデル的圏域会議

 清水在宅医療・介護・福祉連絡会は、地域包括ケアシステムを具現化したものとして重要な役割を果たしています。ただし会議の中で意見の一致を得た後のフィードバック機能が十分に発揮されていない、各地域包括支援センターからの課題抽出機能が不足しているなどの問題点もあります。清水区には地域包括支援センターが9か所ありますが、同じ清水区内でも圏域により取り組みに格差もありました。
 先進的な取り組みを行っている圏域のこれまでの成果を参考にしながら、新しい取り組みを進めていくために、モデル的に飯田庵原地域と高部地域の合同の圏域会議を新たに組織しました。いろいろな新しい取り組みを意欲的に、そしてスピーディに行っていくことを目的としています。メンバーは、在宅の現場で実際に働いている各職種から選任しています。たとえば、訪問診療を行う在宅医、訪問看護師、歯科医師、歯科衛生士、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センター、ケアマネジャー、社会福祉士、自治会連合会や民生委員や地区社協の皆さんに参加してもらっています。会議のキーワードとしては、「在宅の支援」であることと、「医療・介護・福祉の連携」とし、現在の連携で足りないものは何か?次の一歩は何か?を地域目線で抽出してもらい、事例検討を通してネットワーク構築およびシステム作りへつなげています。
 これまで挙がった題材を紹介しますと、

 @「最期まで口から食べる」
 A「在宅終末期緩和ケア」

 の2つがメインとなっています。
 「最期まで口から食べる」とは、誤嚥性肺炎をくり返し摂食・嚥下障害が疑われるような患者さんを受け入れ、嚥下機能評価した後にリハビリプランを計画しつつ、在宅復帰が可能となるように療養環境を整えます。また施設で入所中の胃瘻(いろう)留置中の利用者さんに対して、胃瘻交換の際に短期入院してもらい、嚥下機能の再評価を行い施設に戻ってからのリハビリプランを計画します。介護疲れの休息目的のレスパイト入院の際にも、単に短期入院するというだけではなく、その期間を利用して在宅でもできる簡単なリハビリ(開口訓練など)を習得してもらいます。
 「在宅終末期緩和ケア」とは、がん性疼痛(とうつう)に対する麻薬性鎮痛剤の導入の
際や、疼痛コントロールに苦慮している患者さんに対して、短期入院してもらい薬剤を調整します。レスパイト入院の際にも、その期間を利用して、ケアカンファ(介護検討会)を開催し在宅での療養環境の整理や見直しができます。
 地域包括ケアシステムの中で病院としてできることのひとつに、「地域包括ケア病棟」
というものがあります。この病棟は、

@ 自院・他院での急性期治療が終わった患者さんを受け入れる
A リハビリや退院支援を充実させることで自宅への退院を目指す
B 在宅に戻ってからも緊急時の受け入れを行う

 が三本柱となっています。これによって地域のニーズに迅速かつ柔軟に対応できるようになりました。 
 

図3
◆実際の運用面の整備
清水医師会在宅医療介護相談室
 地域包括ケアシステムの概念図として、よく引き合いに出されるものがもうひとつあります(図3)。
 この図の一番下のお皿部分は【本人・家族の選択と心構え】です。単身・高齢者のみ世帯が主流になる中で、在宅生活を選択することの意味を本人・家族が理解し、そのための心構えを持つことが重要です。
 お皿の上にのっている鉢の部分は【すまいとすまい方】です。 生活の基盤として必要な住まいが整備され、本人の希望と経済力にかなった住まい方が確保されていることが地域包括ケアシステムの前提となります。高齢者のプライバシーと尊厳が十分に守られた住環境が必要です。
 鉢を埋める土部分は【生活支援・福祉サービス】です。 心身の能力の低下、経済的理由、家族関係の変化などでも尊厳ある生活が継続できるよう生活支援を行います。生活支援には、食事の準備など、サービス化できる支援から、近隣住民の声かけや見守りなどのインフォーマルな支援まで幅広く、担い手も多様となります。生活困窮者などには、福祉サービスとしての提供もこれに相当します。
 これらの土台がしっかりしたうえで、はじめて【介護・医療・予防】の話がはじまります。 個々人の抱える課題にあわせて「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・予防」が専門職によって提供されます。ケアマネジメントに基づき、必要に応じて生活支援と一体的に提供されます。
 この図3に表されているように、疾病が患者や家族の生活に影響を与えますし、治療と生活課題が混在するので治療・予防や生活課題との関係性を整理する必要もあります。医療は人間の健康面を考えれば重要な要素であることは間違いありませんが、日常生活全体からすればごく一部にしか過ぎないともいえます。このように地域での暮らしは、生活環境や周囲との人間関係に大きく影響を受けることを、われわれ医療人はもっと理解していく必要があります。
 ある患者さんを支援するといった場合に、多職種が解決すべき課題をひとつひとつ検討していきます。それでも解決が難しい事例もあります。そのような場合にスーパーバイザーに相談できる場として、2016年6月に清水医師会在宅医療介護相談室が設置されました(図4)。在宅支援を行っている専門家のそれぞれの立場からの問題や希望を受けとめる場であり、自由に話し合える場として活用されております。地域を基盤とした医療・介護・福祉の連携を図る、高齢者・障がい者・児童・その他地域のだれもが安心して生活できることを目指しています。コーディネーター機能も有しています。

図4
◆おわりに
 地域包括ケアシステム構築に向けての静岡市清水区の取り組みを紹介しましたが、まだまだ未完成のシステムです。なにより「地域住民が主役」ですので、みなさんからのご意見を頂戴したいと思いますし、みなさんと一緒によりよいものに築き上げていくことが望まれます。これからもよろしくお願いします。
<引用・参考文献>
平成28年度版高齢社会白書(内閣府)
厚生労働省ホームページ(www.mhlw.go.jp)
図1.地域包括ケアシステムの概念
図2. 寄稿文冊子『ひと粒のぶどうから友へ』
図3. 地域マネジメントに基づく〈ケア付きコミュニティ〉の構築
図4.清水医師会在宅医療介護相談室(清水医師会在宅医療介護相談室パンフレット)
図4(清水医師会在宅医療介護相談室パンフレット)



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