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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2016.11 NO.468

健康寿命を延ばして自分らしい生活を
〜口腔機能の維持・予防〜

リハビリテーション中伊豆温泉病院
言語聴覚士 主任代理

小林 雅美


◆はじめに
 最近「健康寿命」という言葉を耳にすることが多くなりました。「健康寿命」とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。我が静岡県での健康寿命を見てみると、男性72・13歳(全国3位)、女性75・61歳(全国2位)と全国トップクラスの健康長寿県であることが示されています。この超高齢社会のなかで、私たちが自分らしい生活を送るために、自身の健康管理と介護予防が不可欠です。

◆介護予防と口腔機能
 「食べる」ということは、生きていくための栄養をとり、体を造る大切な行為です。おいしいものを食べると誰でも幸せな気持ちになり、生きる喜びにもなっています。「自分の口で食べる」ということは、私たちが生きていく中で身体的にも精神的にも大事な要素となっているのです。また、私たちは口からことばを発することで他者とコミュニケーションをとり、笑う・泣く・怒るなどの感情を表現します。このように口腔機能は日常生活に必要な「からだ・こころ・かかわり」を支える基本的機能といえます。
介護予防は
@自立高齢者が要介護状態になることを出来るだけ防ぐこと
A要介護高齢者がそれ以上に状態を悪化させないこと
を目的としており、口腔機能の向上はその両方に効果があることが認められています。



◆口腔機能が低下すると…

 元気な人でも、急いで食事をした時に食べ物や飲み物がのどにつまったり、むせたりしてしまうことがあります。健康な状態であれば、咳き込むことで気管に入ったものを出せますが、吐き出す力が弱くなっている場合、気管に入ったものを出すことができません。こうした症状が頻回に起こったり、食事のたびに食べ物を飲み込みにくいと感じるようになったら要注意です。
 物を飲み込む力は50歳前後から少しずつ弱くなると言われています。食べ物が食道でなく気道へ入ってしまうことを誤嚥といい、若い人であればむせる程度で済みますが、中高年になると咳によって吐き出す力も弱くなっていきます。
 食べ物と一緒に細菌が肺に入って繁殖してしまうと肺炎になります。夜寝ている時に口の中で繁殖した細菌を唾液と一緒に誤嚥してしまうこともあります。高齢者や抵抗力が落ちた人では、寝ている時に誤嚥することが多く、抵抗力が低下しているために誤嚥性肺炎を起こしやすいのです。
 日ごろから嚥下障害にならないよう予防をすること、また飲み込みにくさに気付いたら早めに検査を受けることが大切です。

◆誤嚥性肺炎に注意!

 肺炎は日本人の死亡原因の第3位でそのうち95%が75歳以上の高齢者です。また誤嚥が原因となる肺炎は70歳以上で70%にもなります。
 誤嚥性肺炎とは、細菌が唾液や胃液と一緒に肺に流れ込んでしまうことで起こる病気です。誤嚥性肺炎を防ぐためには、次の3つの対策を行うことが効果的です。
@口腔の清潔を保つ
:適度な湿度と温度が保たれている口腔は細菌にとって居心地よく、すぐに細菌が繁殖します。そのため歯磨きをしっかり行ない、口のなかの細菌を増やさないことが重要です。
A胃液の逆流を防ぐ
:ゲップや胸焼けなどがある場合は、胃液の逆流が起こりえます。その場合、食後2時間ほど座って身体を起こしていることで、逆流を防止できます。
B嚥下反射を改善する
:嚥下とは物を飲み込むことをいいます。これがうまくいかない状態を嚥下障害といい、誤嚥性肺炎を引き起こす原因のひとつです。

 表1のようなことが増えたら、嚥下障害が疑われます。ご自身でチェックしてみましょう。
・咀そしゃく嚼機能の低下 (表1−@FJ)
 柔らかいものばかり食べていると噛む筋肉の力がますます弱くなり、食事に時間がかかるようになります。よく噛むことで口や頬の筋肉が動き、その刺激で唾液が多く出てきます。噛み砕かれた食物は唾液によってまとめられ、やわらかい塊となって飲み込みやすくなります。発音に関係する唇や舌の筋肉が鍛えられことばの発音がはっきりする、表情筋のトレーニングになり笑顔が増える、脳が刺激され活発に働くようになる等の効果も期待できます。

・口腔内乾燥 (表1−BD)
 口をあまり動かさないでいると唾液の出る量が少なくなり、口が渇くようになります。唾液は噛み砕かれた食べ物をまとめて飲み込みやすくしたり、食べ物の味物質を溶かして味蕾(みらい)で味を感じやすくする働きがあります。また、唾液は抗菌作用や虫歯を防ぐ作用もあり、口の中を清潔に保つことにも重要な役割をもっています。

・口腔内汚染(表1−EG)
 歯だけでなく入れ歯や舌もきれいにすることがおいしく食べる為に重要です。舌をきれいにすると味の感覚が鋭くなり、薄味でもおいしく感じます。また口の中の細菌を減らすことで肺炎を予防することが出来ます。

・嚥下機能低下(表1−ACHI)
 食べ物や飲み物を飲み込む一連の動きにはたくさんの神経や筋肉が連携しています。この神経や筋肉が衰えると、むせやすくなります。口を閉じる力が弱くなると食べこぼしが多くなりますし、舌や頬の動きが弱くなると食べ物をのどまで送り込む事が出来ず、飲み込んだ後でも口の中に食べ物が残るようになります。
 
 

◆自分の家で出来る予防
 
 食事中には次の事柄に注意しましょう。
・ いすに深く腰掛け、正しい姿勢で食べる。
・ テレビを観ながらなどの、「ながら食事」はやめる。
・ 急がず、ゆっくり食べる。
・ 少量ずつ口に入れ、よく噛む。
・ 口の中のものを飲み込んでから、次のものを口に入れる。
・ 食後には毎回歯磨きをし、口内の衛生に気を付ける。

 また日頃から、次のような嚥下体操をすることで予防や改善が期待できるので、生活の中に取り入れてみましょう。嚥下体操をすると唾液がよく出るようになり飲み込みやすくなります。
準備体操として食事の前に行うとより効果的です。
@深呼吸
 呼吸機能を高めることで、気管に食べ物が入った場合でも排出しやすくなります。ゆっくり息を吐き出し、お腹をへこませるまで息を出し切ります。そしてゆっくりお腹まで息を入れる感じで吸っていきます。
A首・口・舌の運動
 首や口・舌の周辺の緊張をとり、リラックスさせることで、飲み込む時の運動をスムーズにすることができます。肩の力を抜いて、首を前後・左右に動かし、しっかり伸ばすようにします。次に口を開ける/閉じる、頬をふくらませる/へこませるを繰り返します。舌は、思い切り前に出す、左右の口角をなめる、など上下左右に動かしましょう。
B発音練習
 「パピプぺポ」「パタカラ」、を繰り返し発音します。これらの音を発する時には、食べ物を飲み込む時と同じ器官(口、舌、喉など)を使うので、発音練習をすることで器官を鍛えることができます。


C咳払い
 誤嚥した際にむせて肺まで入らないようにする為の練習です。お腹を押さえて強く咳払いしてみましょう。やりすぎると喉を痛めることもあるので2〜3回程度にしましょう。
 回数などは自身の体力などに応じて、無理のない程度にしましょう。筋肉は使い続けていくことでバランスよく動かせるようになります。毎日続けるようにしましょう。
※嚥下障害の症状が進んでいる場合には、病院などに問い合わせ、専門的な治療やリハビリテーションを行ってください。


◆おわりに
  私たちは普段、口の機能を意識することなく、当たり前に食事をし、会話をし、呼吸をしています。「噛む力が弱くなった」「食べ物が飲み込みにくくなった」「口が渇く」と感じるようになっても、「年をとったから弱っていくのは仕方がない」と思ってしまう人が多いのではないでしょうか。
 口の機能を保ち続けることで、食べる喜びを感じることができます。栄養不足、脱水状態を予防することができます。家族や友達との会話を楽しむことができます。「噛む」ことができ、脳細胞をより刺激することになります。そして誤嚥性肺炎を予防することができます。当たり前と思っていることがいつまでも当たり前に出来ることこそ、幸せに「その人らしく」生きるということではないでしょうか。健康長寿県静岡で、自分らしく生き生きとした毎日をおくりましょう!
<引用・参考文献>
実践!介護予防 口腔機能向上マニュアル:平野浩彦 細野純 財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団
嚥下リハビリテーションと口腔ケア:藤島一郎 藤谷順子 メヂカルフレンド社
口腔機能向上マニュアル:厚生労働省ホームページ
<ホームページ>
21世紀の家庭の医学 いしゃまち
静岡県公式ホームページ ふじのくに
はじめよう!やってみよう!口腔ケア




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