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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2016.10 NO.467

栄養サポートチーム
〜当院のNST活動を中心に〜


遠州病院
栄養科 管理栄養士
NSTコーディネーター

吉野 美香


◆栄養とは
 栄養とは、食べ物を食べて消化・吸収し体内に取り込んで、分解や合成によって、成長や生命活動に必要な成分が作られる事です。
 個人差もありますが、栄養が不足すると、病気にかかりやすい、傷が治りにくい、入院中の方では治療してもなかなか回復できず入院期間が長くなってしまうことがあります。

◆NSTとは
 NSTとは、nutrition support teamの略で、医師、管理栄養士、看護師、薬剤師、臨床検査技師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士など、多職種が協力して、安全かつ有効な栄養管理を行うための医療チームです。

◆NSTの歴史

 1960年代、口から食事を食べる事が不可能な患者様に栄養管理を行うため中心静脈栄養(心臓近くの太い血管の中に留めておいた細い管から栄養液を点滴する方法)が開発されました。1970年代には米国で多職種からなる専任スタッフによるNSTが組織され、中心静脈栄養管理を中心とする栄養サポートがはじまりました。
 日本では、2001年静脈経腸栄養学会NSTプロジェクトの活動が全国の病院に認識され、当院でも2002年NST委員会を設立し活動を始めました。2012年から栄養サポートに関する専門的知識や技術を有した、医師・管理栄養士・薬剤師・看護師などのスタッフによるチームでの回診を行っています。

◆栄養管理の重要性

 適切な栄養補給が健康を維持するための基本になります。患者様の中には、入院前に特定の栄養素の摂取が不足して栄養障害に陥っていたり、大手術、重症外傷、広範囲熱傷など高度のストレスを受けたり、消化管機能障害、肝・腎機能障害、糖尿病などのために臓器障害や代謝障害を起こしたりしている場合があります。このような場合、適切な栄養管理を実施しなければ急速に栄養障害が進行してしまうので、栄養状態を維持・改善するための方法を考え、実施する事が重要となります。

◆栄養評価

 (図1)患者様が入院されますと栄養管理計画書をもとに、栄養状態に関するリスクをチェックしています。
(図2)
 リスク項目で1項目にあてはまれば軽度栄養不良、数項目で中等度栄養不良、多数項目で高度栄養不良と判定します。
 栄養不良と判定された方は、各病棟で週1回看護師とNST委員(管理栄養士・臨床検査技師等)による症例検討がされ、状態確認を行います。
 NSTの介入が必要と判定された方は、NST回診を依頼をします。





◆NSTの症例検討会・回診

 栄養サポートチーム(NST専従管理栄養士、NST専任医師・看護師・薬剤師)は、介入依頼があった患者様に対し、現在の栄養投与方法や栄養投与量が適切であるか週1回検討しています。必要エネルギー量を算出して目標値を設定し、徐々に目標値に栄養投与量が近づくように計画を立てます。
 検討を行った後、患者様のところに伺い、検討した食事内容が良いか確認し、「栄養治療計画書兼栄養治療報告書」を作成し、主治医へ提案事項の報告を行います

◆栄養投与方法の選択

 口から食事を食べる「経口(けいこう)栄養」の可能な方には食事が提供されますが、口からの摂取のみで栄養管理が困難な場合には、「経腸(けいちょう)栄養」や「経静脈(けいじょうみゃく)栄養」の投与が必要となります。
 経口栄養の場合でも、絶食していた場合や飲み込みに問題がある患者様には、言語聴覚士または看護師が評価を行い、食事形態が選択されます。
@嚥下(えんげ)開始食、A嚥下食U、B嚥下食V、Cペースト食、Dとろみきざみ食と患者様が飲み込みやすいよう段階的な食事形態を用意しています。
 
 

 また、食欲がない患者様には、ハーフ食(半分量の食事)に栄養補助食品を追加して対応します。
 その他、個々の病態にあわせた特別食(糖尿病・腎臓病・肝臓病などに対応した食事)があり、その中でも御飯食、全粥食、五分粥食、とろみきざみ食、ペースト食と多くの種類と形態で対応しています。
 口から栄養を摂取できない場合は、腸が機能していれば、鼻やお腹の外からチューブで栄養を送る経腸栄養が選択されます。経腸栄養は経静脈栄養に比べて、生理的で消化管本来の機能である消化吸収や腸管免疫系の機能が維持される利点があります。経腸栄養の方法には、栄養チューブを鼻から挿入する「経鼻胃管(けいびいかん)法」、胃からの栄養投与する「胃瘻(いろう)法」、腸から栄養投与する「腸瘻(ちょうろう)法」等があります。体力がなくて一時的に経腸栄養を行なっても回復して経口摂取できるようになる場合もあります。
 経腸栄養剤には、いろいろな種類があります。消化や吸収能力に合わせたもの、また、疾患別の栄養剤、液体や半固形の栄養剤など多くの種類がありますので、病態にあわせた種類の栄養剤を注入する事が大切です。そのため、経腸栄養剤を注入される患者様には、NSTが介入し患者様にあった栄養剤を検討し提案します。
 経静脈栄養は、血中に栄養を送る方法です。腕などの血管から投与する方法「末梢静脈栄養」と心臓に近い太い血管の中に留めておいた細い管から栄養液を点滴する方法「中心静脈栄養」があります。NSTでは、それぞれ個々の病状や投与期間、必要栄養量を検討し、その方にあった方法や量を提案しています。
◆NSTの役割及び各職種の役割
 
 NSTの役割は、
@ 主に力の元になるエネルギーと炭水化物と脂質、筋肉・血液の元になるたんぱく質、体の調子を整えるビタミンなどの栄養、生命維持に大切な水分が不足していないかをチェックしています。
A 体に栄養を送る方法が良いかをチェックします。
B体に送る栄養の内容を提案します。
C 元の病気だけでなく、その他の病気を起こさないように予防し、病気を起こした場合は、早くに発見し、治療を提案します。

各職種の主な役割について
(図3)
【全職種の役割】
・栄養が足りているかを見ます。
【医師の役割
・病状の把握をします。
・栄養を送る方法の決定をします。
【管理栄養士の役割】
・ 食事の内容と食べている量の確認をします。
・栄養剤の種類や量を確認をします。
【薬剤師】
・ 点滴や栄養剤の内容と量の確認をします。
・薬剤の確認をします。
【看護師】
・食事を食べた量の確認をします。
・ 便の状態を確認します。
・ 元の病気以外の病気にかからないように予防します。
【臨床検査技師】
・ 検査データから栄養が足りているか確認します。
【言語聴覚士】
・ 口から食事が食べられるか、飲み込みの状態はどうかを見ます。また、患者様の状態をチーム内で共有します。
【理学療法士】
・ どの程度、体を動かせる状態か患者様の状態をチーム内で共有します。
 以上のことなどが行われています。

◆おわりに
 当院では、多職種のチーム医療により、専門的な知識と技術で、患者様の適切な栄養評価を行い、栄養状態の維持・改善に取り組み、疾患の治療・回復、早期退院の助けになるよう活動をしています。
 現在、日本では元の疾患だけでなく合併症の発症により保険請求額の面で、患者様の負担増加がみられています。栄養療法により入院期間の延長を防ぐことで費用面での負担軽減も期待されます。
 今後、NSTが少しでも入院患者様の早期治療、回復のお力になればと思っています。
参考文献
○静脈経腸栄養ガイドライン
日本静脈経腸栄養学会編集 照林社
○NSTスタッフマニュアル 医学書院
○病態栄養専門師のための病態栄養ガイドブック
メディカルビュー社
○栄養の基本がわかる図解事典 
成美堂出版




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