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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2016.8 NO.465

終活について
〜医療・介護を中心に〜

介護老人保健施設きよみの里

看護師主任
西山 智子


◆はじめに

最近「終活」という言葉をよく耳にするようになりました。「終末活動」を縮めた言葉で、「自分が死ぬまでのこと」と「自分が死んだ後のこと」を準備することが終活といわれています。「終活」をテーマにした講演会の開催や「終活」に関する本もたくさん出版され、「終活などしなくても良い」という内容の本も出ています。日本の平均寿命は80歳代を超え超高齢社会になった今、延びた寿命による「老い」の時間の中で、「死」までのこと、自分らしくいかに生きるかを考える「終活」が注目されています。


◆終活の5つのテーマ

 これまでの日本では「死」について考えることはタブーでした。しかし、永遠の命はなく、誰にでもいずれ訪れる「死」を後悔しない最期を迎えるために早めの「終活」が必要で、年齢的には、定年や還暦を期に考え始めることも勧められています。

@お金のこと
:死ぬ前の生活をどのようにするのか生活設計を立てること、葬儀費用や相続・生命保険などの確認など。
A物のこと
:生前整理と遺産整理、残された家族が遺品整理で困らないように「断捨離」をはじめ、家や墓、形見分けなど生前に整理しておく。
B医療・介護
:病名や余命を知らせて欲しいのか、そうでないのか。延命治療等の希望の有無。認知症や寝たきりになった時の場合、何処でどのように過ごしたいのか。
C葬儀・お墓
:戒名や葬儀の希望。墓や供養等の問題について。
D想い・思い出
:残される家族に伝えておきたい思いなど。

これらを「死ぬ前」「死んだ後」で考え、死を迎えるための準備ではなく、死を迎えるまでいかに生きるか、充実した人生にするか、老後を豊かにするための活動が終活です。(資料@)

◆エンディングノート

 エンディングノートは遺言とは異なり、法的拘束力はなく、自分がどのように最期を迎えたいのか、どのように旅立ちたいのかなど思いを綴るノートです。目的の一つには「残された人たちが迷わない為」というものがあります。病名の告知や延命治療に関する考え等書き込むこともでき、家族が判断に迷った時に、その判断材料にすることも出来ます。
 ノートは書店や文具店で市販されていて、インターネットからダウンロードできるものもあります。書く内容は、その時々によって変わることもあるので、鉛筆で書くと何度も書き換えることができます。
 
 
◆超高齢社会と多死社会
 
 日本は、高度経済成長とともに病院の数も増え、日本の医療は目覚ましく進歩し、これまで不可能であった病気の治療が可能になるなど、多大な利益をもたらしてきました。それに伴い平均寿命は延び、男女とも80歳を超えて、平均寿命・高齢化率・高齢化のスピード、全てにおいて世界一となっています。超高齢社会となり、今は年間130万人近い人が亡くなっていますが、2025年には年間の死亡者数は160万人を超すといわれて「多死社会」を迎えるとも言われています。

〜2030年、死に場所が無くなる
 高齢者が増加し、医療費も比例して増加していくという理由から、2006年の診療報酬改定では、積極的な病床削減政策が取られ、病院に対して入院日数の制限を設定して、それを越えた患者の医療保険点数を大幅に減らすことで、病院が患者を早期に退院させるように誘導しました。社会的理由で入院が長期化しがちな高齢者を自宅に戻し、出来るだけ地域で生活できるように社会復帰を支援するという題目の下、療養病床約26万床の削減を目指しました。
 これから多死社会を迎える中で、療養病床が削減されるということは、2030年には47万人の人が死に場所を失うと、厚生労働省は予測しています。

〜8割の人が病院で亡くなっている〜
 1960年代までの日本では、自宅で息を引き取ることが当たり前でした。しかし、日本の医療の進歩により死亡場所は病院へと移り、2011年には8割の人が病院で亡くなるようになりました。
 厚生労働省の調査では、死期が迫った時の療養場所の希望として「できるだけ自宅で」と答えた方が6割に上っていました。しかし、現状は病院や診療所等の医療機関で亡くなる方が全体の80%を占め、自宅は12%程度にとどまっています。

◆病院で死ぬということ
 病院は、病気を抱えている方にとっては、必要に応じて治療を受けられますので安心感はありますが、あくまで治療する場であって、生活の場とは異なります。高齢の方が病院に入院すると、環境の変化などから認知症になる恐れや、治療の為の安静保持により足腰が弱くなってしまう事もあります。
病院は生きるための場でもあり、ここを死に場所に選ぶとなると、最期まで治療を受け続けることになると心に留めておく必要があります。
◆病院以外での死に場所
 2030年には47万人の死に場所がなくなることから、政府は在宅医療を充実させるための施策として、地域で医療分野と介護分野の事業者の連携を深める[在宅医療連携拠点事業]を推し進めています。
 これは、病院や24時間対応の在宅療養支援診療所や訪問看護ステーション等の、医療・介護に関する様々な職種が集まる場を設け、事業者同士で協力して24時間対応の在宅医療提供体制を作り上げるというものです。また、一人暮らしや家庭の事情で在宅療養の出来ない方々の受け皿として、2011年からサービス付き高齢者向け住宅制度をスタートさせ、自宅以外の施設に対しても補助金を増やすといった対策を講じて内容の充実を図っています。
 このように、病院以外の場所で死ぬことが求められているいま、自分はどこで死を迎えたいかを元気なうちに考えておく必要に迫られています。
◆自宅で死ぬために
 住み慣れた地域で普段の生活や人間関係を継続できる自宅は、最も安心して過ごせる場所です。ただ、それを実現するには家族のサポートが必要となり、何より医師の往診が不可欠です。かかりつけ医を決めて,容態が悪化した時、どのようにしたら良いのかを相談しておくことが重要です。
 また、介護が必要になったときに、在宅で受けられるサービスを上手に利用していくことも重要です。サービスの計画・調整などを行ってくれるケアマネージャーとよく相談しながら、ヘルパーや訪問入浴、訪問看護などを利用する事で、本人・家族の身体的・精神的な負担や不安は軽減できます。
◆病院・自宅以外の「死に場所」
 2000年にスタートした介護保険制度では、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設の3つの施設があり、介護度によって利用ができます。2006年に介護保険で看取り介護加算が創設されてから、本人・ご家族の希望により多くの施設で看取りケアを行っています。また、民間企業が経営している有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、養護老人ホーム、グループホーム等の高齢者住宅のような住宅型の施設もあり、それらの施設で最期の時を過ごしたいと考える時には、看取りに関する施設の方針を、入居の前にあらかじめ確認しておくことが必要です。

◆「平穏死」という考え方
 数年前に「平穏死のすすめ」という本が話題となり、老衰や治らない病気で死期が近いとき、なるべく延命処置はとらずに穏やかに死んでいくという[平穏死]が脚光を浴びました。平穏死は、終末期となった患者が、自分で食事が取れなくなったとき、人工的に栄養はいれず、点滴も何もしなければ、やがてひたすら眠り続けて体の水分はなくなり、枯れるように自然に大往生するというものです。
 数年前までの日本では、食べられなくなれば経鼻経管栄養や胃ろうで栄養を取り、点滴で水分補給をし、呼吸が弱くなれば酸素吸入や人工呼吸器などつけ、死の間際に体中に点滴やカテーテル、モニターの管がつけられ、機械などに生かされているという状態で、やがて苦しみながら亡くなっていくということが多くありました。しかし、近年では過剰とも受け取れる医療のあり方に疑問を感じ、尊厳を失ってまで生き長らえたくない、最期まで自分らしく生きて安らかに死を迎えたいと願う方が増えてきました。
◆終わりに
 終活への関心は高いけれど、実際に終活をしている方は極わずかなのが現状です。終活は、残される家族のためにも、そして何よりも、死を迎えるまでの期間を、より自分らしく充実して過ごせるようにする意味もあります。たった一度の貴重な人生です。早速、終活を始めてみませんか。
引用文献
・終活入門:一条真也 実業之日本社
・医師が教える幸せな死のかたち:加藤豊 幻冬舎
参考文献
・高齢者の終末期医療を考える:増田寛也 日本創成会議編
・平穏死のすすめ:石飛幸三 講談社



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