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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2016.7 NO.464

検査で異常と言われたら





清水厚生病院

内科診療部長
村瀬 正樹


 「今、私がある病気に罹かかっているのかいないのか。」
 答えは簡単です。
 罹っている。罹っていない。二つに一つです。
 しかし、答えは単純ですが、正解を導き出す事は難しいのです。正解を導くために、病気に罹りやすいリスクの評価、症状、診察所見、検査を駆使して正解にたどり着こうとしています。
 私がある病気に罹っているのかいないのか、その答えを探す道具のひとつが検査です。
 検診、診療所、病院などで日常的に行われる無数の検査。その結果、私たちは「検査が異常」と言う事態にしばしば遭遇します。
「検査が異常」と言う同じ結果に対しても、
「病気ではない」、「病気の可能性が低い」、「病気の可能性が無視できない」、
「病気の可能性がある」、「病気の可能性が高い」、「病気である」など、
私たちが受ける説明は様々です。
 検査が異常な人はすべて病気、検査が正常な人はすべて正常であれば事は単純ですが、実際には検査が異常でも正常な人、検査が正常でも病気の人がいます。
私たちは「検査が異常」と言う事態をどのように受け止めればよいのでしょうか。知っているようで知らない「検査が異常」の意味について考えてみたいと思います。


◆検査はどの程度信用できるのでしょう。

 あなたに検査をしたとします。検査結果は「正常」か「異常」の2つだけです。
 本当にあっさりしています。
しかし、検査結果の裏には
 ・検査が異常であなたも異常
 ・検査が異常なのにあなたは正常
 ・検査が正常であなたも正常
 ・検査が正常なのにあなたは異常
の4通りの可能性があるのです。

「検査が異常であなたも異常」、「検査が正常であなたも正常」だけなら検査の結果を100%信頼できます。ところが、程度の差はあっても検査にはすべて
「検査が異常なのにあなたは正常」
「検査が正常なのにあなたは異常」

という可能性が隠れているのです。
 検査には精度の限界があります。この点は重要です。
 また、当然ですが、検査は個人専用に設計されていないので検査が個人にとってどの程度正確であるのかを示す指標はありません。
 人の集団に対してどの程度正確に「異常である人を異常」とし、「異常でない人を異常でない」と判定できるのかによって検査の精度が評価されます。
「異常である人を異常」と正解する精度を「感度」
異常でない人を異常でない」と判定する精度を「特異度」
と呼びます。
 「感度」、「特異度」が高い検査が信用できる検査と言えます。

 検査の精度は感度90%、特異度90%などと表現されますが、以降に、ある検査が感度90%、特異度90%と評価されるまでの手順を示します。
 この検査が「異常である人を異常」と判定する感度を評価するために、あらかじめ病気であると分かっている人を1万人集めて検査をします。
 この検査が1万人の病気の人の内9千人で異常を示せば、この検査の感度は

 9000 ÷10000 ×100=9 0%

になります。
 次に、「異常でない人を異常でない」と判定する特異度を評価するために、あらかじめ病気ではないと分かっている人を1万人集めて検査をします。
 この検査が1万人の病気ではない人の内9千人で正常を示せば特異度は

 9000 ÷10000 ×100=9 0%

になります。

このような精度の検査が感度90%、特異度90%の検査とされます。
この検査は病気の人90%に異常、正常の人90%に正常という正解を示します。同時に異常の人10%と正常の人10%に間違った結果を示します。
 ちなみに感度99%、特異度99%の検査なら病気の人99%に異常、正常の人99%に正常という正解を示します。異常の人1%と正常の人1%に間違った結果を示します。同じ「検査が異常」でも感度、特異度によって検査の信用の度合いが異なります。


◆「検査が異常」と言われた。本当に病気ですか。
  病気の確率を計算してみましょう。


 【表1】をご覧ください。
Aさんはある病気に罹っているのか心配になり感度90%、特異度90%の検査を受けました。結果は異常でした。Aさんは本当に病気でしょうか。
計算してみましょう。
 この病気はAさんタイプの人10万人当たり100人の頻度で罹る病気(有病率0・1%)であるとします。Aさんタイプの人10万人のうち100人が病気、残りの99900人が健康と予測されます。この集団に感度90%、特異度90%の検査を行えば、感度が90%なので、この集団中で実際に病気の人100人のうち90%の90人が異常、残りの10人が病気であるのに正常に判定されると計算されます。
 特異度が90%なので、この集団中で実際に健康な人99900人のうち90%の89910人が正常、残りの9990人が健康であるのに異常に判定されると計算されます。
 この検査で異常とされる人は

 90+9990=10080人

異常とされた人のうち病気である確率は

 9 0÷10080×100=0.89%

異常とされた人のうち健康である確率は

 9990 ÷10080×100=99.1%

になります。 Aさんは検査が異常であったことにより、この病気である確率は、
検査前の0・1%から検査後の0・89%、
この病気ではない確率は、
検査前の99・9%から検査後の99・1%
に変化しました。
この結果をどう受け止めますか。病気である確率が9倍近く上昇したとして心配する人。病気である確率は高まったようにも見えるが、たとえそうであったとしても確率自体は100人に1人以下と低く心配は少ないと考える人。最終的に解釈は人それぞれでしょう。

◆同じ「検査は異常」でも病気の頻度によって意味が違う。
 計算で確かめましょう。
 
 【表2】をご覧ください。病気にはよくある病気、少ない病気、同じ病気でも罹りやすい人、罹りにくい人があります。病気の種類によって、人のタイプによって罹る率が違います。同じ検査で異常と言われても元々の罹る率が違えばその結果の意味が違います。どのように違うのかを計算してみました。
 Aさんは3種類の病気に罹っていないか心配になり、3種類の病気に対してひとつずつ検査を受けました。その結果、3つの検査とも異常と言われてしまいました。どの検査も感度90%、特異度90%は同じです。3種類の病気は、Aさんタイプの人10万人当たりの有病率がそれぞれ100人、1千人、1万人である。計算方法作は先ほどの計算と同じです。ここでは計算結果のみを示します。
 この計算結果から、「検査は異常」は同じでもあまりない病気よりもよく有る病気に対する検査で異常を言われた方がその病気に罹っている確率が高い事が示されると解釈されるでしょう。よく有る病気に対する検査で異常を言われたら、素直に検査結果に従って対応を選択しても間違いは少ないと言えるでしょう。一方、珍しい病気を想定した検査で異常と言われた場合、発症リスク、症状、身体所見などがない場合、結果の解釈には慎重であるべきであろうと思われます。


◆同じ病気の検査で異常と言われても人によって意味が違う。
 計算で確かめましょう。
 【表3】をご覧ください。AさんBさんCさんは、ある同じ病気に罹っていないか心配になり、3人揃って感度90%、特異度90%の検査を受けました。その結果、3人とも異常と言われてしまいました。この病気に罹るリスクは10万人中Aさんタイプ100人、Bさんタイプ1千人、Cさんタイプ1万人である。
 この計算結果からは、同じ病気でも発症リスクが高い人ほど「検査は異常」の重みが違うことが示されます。「検査は異常」は同じでも発症リスクの低いAさんタイプの人は人により対応に選択の余地があると考えられます。一方、Bさんタイプの人には精密検査を勧めるべきでしょう。Cさんタイプの人が検査後に病気であるリスクは半々であり、熱烈に精密検査を勧めるべきでしょう。



◆検査で異常と言われたら
 最近、早期発見、早期治療、予防医学が重視される中で検診、診療所、病院などで検査はその種類、量ともに無限と形容できるほど行われています。
 無限の検査からは無数の「検査が異常です。病気が疑われるので精密検査をしてください。」が生まれています。検査を受けたら結果は非常に単純明瞭です。「正常」と「異常」だけです。ところで、一律に正常と異常と表現される検査結果ですが、人により随分と持つ意味合いが異なると思われませんか。
人の集団を
 ・若年健康で無症状の人、
 ・高齢でリスクがあるが無症状の人、
 ・疑わしい症状がある人、
 ・診察で疑わしい異常所見が確認された人
の4つの集団に分けて考えただけでも検査が「異常」の意味合いが異なると想像されます。
 検査で異常だから心配、正常だから安心。これは当然の心理と理解しますが、検査で異常と言われたら、年齢、発病リスク、症状の有無などを総合して自分は実際にどの程度病気に罹りやすいのかをイメージして検査結果と向き合うことも重要と考えられます。



JA-shizuokakouseiren.