◆予防接種とは
予防接種とは、感染症を予防し流行を抑えるために、感染症の原因である細菌やウイルス、毒素といったものを弱らせたり、悪さをできない状態(免疫原やワクチンと呼びます)にし、それを接種することで免疫抗体をつくることです。予防接種により、感染症に対し闘う力(免疫抗体)をつけて、感染症にかかりにくくするという仕組みです。
◆感染症と予防接種の歴史
予防接種の起源は、紀元前の中国やインドにあるともいわれ、非常に長い歴史があるようです。
現代の予防接種につながる歴史としては、16〜17世紀にイギリスで天然痘が流行した際、オスマントルコに駐在していたイギリス大使夫人のメアリー・モンターギュが、現地の人々が実施していた人痘法(じんとうほう)(症状の軽い天然痘から採取した液体を接種する方法)をイギリスに伝えました。しかし、人痘法は接種を受けた人の2%が重症化して死亡する等の危険を伴いました。
その後、イギリス人医師であるエドワード・ジェンナーが、牛痘(ぎゅうとう)(牛の天然痘で人には毒性が弱い)にかかった人間は天然痘にならないという農民の伝承から研究を続け、牛痘法という天然痘予防法を確立しました。
さらに、フランスの細菌学者であるルイ・パスツールは病原体の培養を通じてこれを弱毒化すれば、その接種によって免疫が作られるという理論的裏付けをし、様々な感染症に対するワクチンが作られるようになりました。
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◆インフルエンザワクチンが変わった!?
昨年末(2015〜2016シーズン)からインフルエンザワクチンが変わりましたが、皆様は御存じでしょうか?
何が変わったかと言うと、以前のワクチンはA型2株、B型1株の計3株でしたが、新しいワクチンはA型2株、B型2株の計4株になりました。型?株?これじゃあ、まったく意味がわかりませんね(笑)。
インフルエンザウイルスはウイルス膜から突起しているM1蛋白とNP蛋白という抗原性の違いによって、A型、B型、C型に分類されます。また、同じ型のインフルエンザウイルスの中でも、わずかなアミノ酸配列の違いでさらに細かく株という分類に分けられます。
インフルエンザワクチンは毎年A型、B型の中から流行しそうな株を予測して作られています。
要するに、以前のワクチンは3株だったのに対し、新しいワクチンは4株に増えたため、流行するインフルエンザに対するワクチンの的中率が高くなったということです。しかし、新しいワクチンになっていいことばかりではありません。ワクチンが新しくなったことで、製造メーカーのインフルエンザワクチンの販売価格が上がり、結果として患者様が医療機関でお支払いする金額が高くなってしまったと思います。
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◆インフルエンザワクチンについて |
インフルエンザワクチンを接種してもすぐに効果はありません。接種してから1〜2週間かけて抗体が作られ、およそ1ヶ月後に効果がピークの状態となります。そして、3ヶ月後くらいから効果が段々と弱くなっていきます。効果は一般的に約半年と言われており、次のシーズンまで免疫効果が残ることはありません。そのために毎年、予防接種をする必要があります。
また、インフルエンザワクチンを接種する際に注意して頂きたいことがあります。
まず、体調が悪い時は接種しないで下さい。次に卵アレルギーの方は接種を避けて下さい。
これは、インフルエンザワクチンを製造する過程で卵の成分を使用しているからです。
そして接種後30分間は医療機関で安静にして下さい。これは、まれに起きるアナフィラキシーショック等の副反応に対して備えるためです。
それから、他の予防接種とは1週間の間隔をおいて下さい。
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◆不活化ワクチンと生ワクチン |
ワクチンは不活化ワクチンと生ワクチンの2種類に大きく分類されます。
不活化ワクチンは、細菌やウイルスを殺して毒性をなくし、免疫をつけるために必要な成分を取り出してワクチン化したものです。不活化ワクチンを接種した際は、他のワクチンを1週間(中6日)以上の間隔を空けて接種することが推奨されています。
生ワクチンは、生きた細菌やウイルスの毒性を弱めたものを接種することによって、その感染症にかかった場合と同じように免疫をつけようとするものです。生ワクチンの多くは、免疫機能に異常のある方や、免疫抑制をきたす治療を受けている方に接種できません。生ワクチンを接種した際は、他のワクチンを1ヶ月(中27日)以上の間隔を空けて接種することが推奨されています。(図A) |
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◆定期接種と任意接種 |
日本における予防接種は、予防接種法に基づき実施される【定期接種】と予防接種法に基づかない【任意接種】に分類されます。
※定期接種は他に、【臨時接種】と【新臨時接種】が存在します。
定期接種は国や自治体が接種を強く勧めているワクチンです。予防接種料の補助を受けられるものが多く、経済負担が少ないです。また一定の年齢制限もあります。定期接種の多くは、幼少期が対象のものが多く、接種するスケジュールを組むだけでもかなり大変です。
任意接種は、接種するかどうかを接種を受ける側の判断に任されているワクチンです。自治体によっては、一部のワクチンに対し補助をしています。
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◆肺炎球菌ワクチン |
最近テレビCM等で話題の肺炎球菌ワクチンについても触れておきたいと思います。
まず、肺炎球菌感染症は、肺炎球菌という細菌によって引き起こされる感染症です。
肺炎球菌は主に気道の分泌液に含まれ、唾液などを通じて飛沫感染します。これらの菌がなんらかのきっかけで、気管支炎や肺炎、敗血症等の重い合併症を起こすことがあります。
肺炎球菌には93種類の血清型があり、肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)は23種類の血清型に効果があります。この23種類の血清型が、成人の重症肺炎球菌感染症の原因の7割を占めると言われています。
現在、肺炎は日本人の死亡原因の第3位です。平成26年10 月1日から、高齢者を対象とした肺炎球菌ワクチンが、接種費用の一部を公費で負担する定期接種となりました。
定期接種対象者は60〜65歳未満の人で、心臓・腎臓・呼吸器機能に日常生活が極度に制限される程度の障害がある方やヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害がある方、65歳以上の(図C)に示した方が対象となります。 |
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◆おわりに |
予防接種には、一般的には深く認識されていない危険性があることも知っておいて下さい。予防接種は、細菌やウイルスの毒性を弱めたり死滅させたものを接種するため、軽い感染状態(副反応)が起きることがあります。予防したい感染症そのものに感染してしまうこともあります。そのようなことが起きることはまれですが、体調が悪い時は無理に予防接種をしないようにしましょう。今回のお話で、皆様が予防接種に対する知識を身につけ、効果的な予防接種をして頂ければ幸いです。 |
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