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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2016.5 NO.462


治験
〜新しいくすりを誕生させるために〜



遠州病院

治験管理室 治験コーディネーター
看護師主任
鈴木 かおり

◆アメリカドクトカゲから糖尿病の薬を発見!?
 
 くすりとは、もともと植物や動物、鉱物等を起源としたものでした。さまざまな病気の治療に役立つものを自然界から経験的に見つけ出し、用いたのが始まりです。
 現代においても、採取してきた天然素材がヒントとなり新しいくすりが誕生することがあります。
 北米の高地乾燥地帯には、「ヒーラモンスター」と呼ばれるアメリカドクトカゲがいます。1992年、糖尿病専門医のジョン・エン教授は、この動物が出す唾液に人間の糖代謝に係わるGLP−1という物質に似た成分が含まれていることを発見しました。アメリカドクトカゲはエサの少ない環境で生きるため食べられる時に食べ、口に入った瞬間に唾液のGLP−1が作動し、すい臓が目覚めて血糖値が上昇することを伝える仕組みになっていることがわかったのです。
 この発見を基に人工的に合成・製造されたGLP−1受容体作動薬は、糖尿病の画期的な薬として2005年に米国で、日本においては2010年に発売されました。


◆くすりが世の中にでるまで

 ひとつのくすりが開発されるには一般的に9年から17年程度かかります。くすりの候補が実際に世に出る成功率は約3万分の1とも言われ、殆どの候補物質は開発途中で断念される程です。
 このように、世に出てきた新しいくすりは幾つもの厳しい試験を乗り越えてきていることがわかります。


 
◆人を対象に行う試験「治験」

 (図1)試験はまず「基礎研究」に始まり、動物を用いた「非臨床試験」で成分の性質や作用の仕方、毒性の有無と程度等が十分に確認されます。その後、最終段階として人を対象に行う試験が「治験」です。治験は国内だけでなく国際共同治験と言って世界同時に進められることも少なくありません。
 第T相試験では少数の健康な人を対象に、副作用等の安全性について確認します。第U相試験では少数の患者さまを対象に、有効で安全な投与量や投薬方法等を確認します。第V相試験では、多くの患者さまを対象に、有効性と安全性について既存薬等との比較を行います。
 そして、これらのデータをまとめて厚生労働省へ提出し、承認されたくすりだけが発売されます。発売されてからも、「製造販売後臨床試験」や「市販後調査」によって引き続き調査を行い、安全性や標準的な治療法を検討します。なお、治験はくすりだけではなく人体に埋め込む器具等の医療機器に関しても行われます。
◆治験を行うためのルール
 
 治験に参加していただく方の人権や安全性を守るため、またくすりの候補の有効性や副作用を科学的な方法で正確に調べるために、治験は厚生労働省が定めた「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」というルールに従って、厳格に行われます。
 製薬会社が「治験実施計画書」を厚生労働省へ届け出た後、治験を実施する医師と合意を交わします。次に治験審査委員会にて「治験実施計画書」が治験に参加される患者さまの人権と福祉を守って「くすりの候補」の持つ効果を科学的に調べられる計画になっているかを審査します。
 例えば、次の事柄を審議します。
  ・治験を行う医師は適切か。
  ・参加される患者さまに治験の内容を正しく説明するようになっているか。
  ・ 治験を行う病院には十分な医療・検査設備があるか。
  ・ 専門の医師やスタッフが十分に揃っているか。
  ・ 緊急時には直ちに必要な処置が取れるようになっているか。
◆治験に参加するには
 (図2)当院では主に担当医師から患者さまへ直接打診する場合と、院内ポスターをご覧になった方からご相談を受け参加いただく方法があります。ただし治験実施計画書には選択基準と除外基準という参加条件がありますので、希望したら必ず参加できるという訳ではありません。
 また、治験は患者さまの自由な意思に基づく文書での同意が必要です。担当医師から文書を用いて説明を受け、十分に考えてから自分の意思で決めます。一度持ち帰って家族に相談することも可能です。そしていつでも気兼ねなくやめることが可能で、参加しないことによる不利益もありません。

◆治験に参加するメリット・デメリット

主なメリットは次の通りです。
 ・ 効果の期待できるくすりや最新の医療をいち早く受けることができる。
 ・ 将来同じ病気で悩んでいる患者さまに役立つ。
 ・ 治験薬や検査代の一部を治験依頼者が負担してくれる。
 ・ 治験のため通院に伴う労力や交通費を軽減するために、治験依頼者から負担軽減費用が支払われる。

また、主なデメリットは次の通りです。
 ・ プラセボ(薬の効果を含まないもの)を使用する可能性がある。
 ・ 治験薬の有効性が認められない場合がある。
 ・ 予想外の副作用が発生する場合がある。
 ・ 通常よりも通院の頻度が増え、場合によっては入院が必要な場合もある。
 ・ 場合により現在使用している薬の休止が必要。

◆治験スクリーニング検査

 治験に同意したら、被験者として参加する為の条件に合致しているか、採血等のスクリーニング検査を行います。治験の条件に合わなかった場合は治験ではなく通常の診療に戻ります。
◆治験薬と二重盲検法
 条件に合致した場合は、治験のためのくすりを開始します。
 その際、多く用いられる方法として、「二重盲検法」があります。
 これは、くすりの候補を使用した効果や副作用について、被験者や医療スタッフ等の思い込みを避けるものです。
 具体的には、新しいくすりの候補を使うグループと、既に販売されている同じ様な効果の薬を使うグループや、プラセボを使うグループに分け、どのグループも同じ色や形・味・重さにして見分けがつかない状態にするものです。
 どのグループに入っているかは、被験者や医療スタッフはもちろんのこと、開発に携わる製薬会社もごく一部の者にしかわからないようになっています。
 これらの新しいくすりの候補と治験用の既存薬、プラセボの全てを合わせて「治験薬」と言います。治験薬の割付け方法に関しては、この他に「単盲検法」「非盲検法」と言って、治験薬のグループ分けが一部またはお互いわかっている状態で行う治験もあります。
◆有害事象は安全性のためにすべて報告
 治験薬の使用中は、治験薬の効果や好ましくない現象が起きていないか、予め決められたスケジュールに沿って検査を行います。身体の変化が起きた場合は、全て治験依頼者へ報告します。これは、一見治験薬と関係のなさそうな事柄であっても、治験のデータを収集した後に治験薬による副作用であることがわかる可能性があるからです。
 例えば偶然スリッパを履き損ねて転んだ場合、普段なら気にも留めませんが、もしかしたら治験薬の作用でめまいが起きた、あるいは足が上がらなかった可能性もあるわけです。
 このように、治験薬の使用中に因果関係の有無を問わず身体に起きた変化を「有害事象」と言います。治験の継続が難しい場合は安全性を最優先して中止し、適切な治療と処置を行います。
◆健康被害が生じた場合の補償について
 
もしも治験の手順を正しく行ったにも関わらず健康に被害が及んだ場合には、身体に生じた障害または治療に対する補償を治験依頼者へ求めることができます。
◆被験者が守らなければならないこと
 被験者には、安全性の確保と信頼できるデータを集めるため守らなければならないことがあります。
 例えば治験薬の使用や患者日誌等の記録を決められた通り行うこと、他の病院を受診する場合や他のくすりを服用する場合は事前に相談すること、生活上の注意点や制限を守ること、体調に変化があった時はすぐに担当医師や治験コーディネーターへ連絡すること等です。
 湿布薬、サプリメントといった日常的に手に入るものが報告対象や使用禁止薬に該当することもありますので些細な事でも相談いただくことが大事です。
◆治験を支える治験コーディネーター(CRC)
 治験参加から終了までの間、被験者には治験コーディネーター(CRC)がサポートします。
 CRCは被験者の方への治験説明補助を始め、治験スケジュールの管理や有害事象が起きてないか等について密に関わります。また治験が安全に正しく円滑に進むよう、医師や院内スタッフ、治験依頼者との間を調整します。そして得られた情報を基に症例報告書を作成します。
◆進化し続けるこれからの開発
 近年ではバイオ医薬品や遺伝子診断、ゲノム創薬の活用が行われており、これからは患者さま個々の身体に合わせた治療法が開発される傾向、つまりオーダーメイド医療の時代になっていきます。
 当院では、常に多くの治験を実施しています。詳細は院内ポスターや病院ウェブサイトでご案内しておりますので、これを機会に治験についての理解をより多くの方に深めていただき、創薬・育薬に繋がることを願っております。
引参考文献
 製薬協Webサイト   http://www.jpma.or.jp/
 糖尿病リソースガイド Webサイト   http://dm-rg.net/




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