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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2016.4 NO.461


蜂毒アレルギー
〜蜂刺症から
アナフィラキシーショックまで〜



静岡厚生病院

皮膚科診療部長

岩崎 加代子

◆はじめに
 
 皆さんは蜂に刺された経験がありますか?その時、どのような症状が現れたでしょうか?刺された部分が赤く腫れたり、全身が真っ赤になったり、吐き気がみられたり、息苦しくなったりといろいろな症状がみられたと思います。
 蜂毒の中にはアレルギー反応を起こす成分が含まれているため、場合によっては重症のアナフィラキシーショックの危険性があります。



◆原因

 蜂は世界で十万種以上いるといわれていますが、人を刺す習性があるのはスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチの三種類です。(図1) 毒針は産卵管が変化したものといわれており、刺すのはメスとオスの中性化した職蜂です。ミツバチは刺した部位に毒針を残すため一度しか刺しませんが、他の二種類は繰り返し刺すことができます。スズメバチやミツバチは社会生活を営んでいるため集団で人を襲うことがあります。巣を守るために外敵に向かっていく習性があるのです。
 毒針から注入される毒液には疼痛や炎症を起こす活性アミン類や発痛ペプチドとアレルギー反応の抗原(アレルゲン)となる酵素類が含まれています。蜂の種類が違っても蜂毒の成分の中には共通するものも含まれています。


 
◆症状

 蜂に刺された際の局所症状は、刺された瞬間の疼痛とその直後に灼熱感がみられます。特にセロトニンを毒液に含むスズメバチ、アシナガバチに刺されると激しい痛みがあります。刺された部位には発赤、腫脹がみられ、時にはリンパ節炎を起こします。
 しかし、アレルギーがある場合、刺された人の10〜20%に全身症状が現れます。軽症では全身の掻そう痒よう感(かゆみ)、じんましん、倦怠感、不安などがみられます。中等度になると咽頭、喉頭、胸部の狭窄感、口渇、口内のしびれ、腹痛、下痢、悪心、嘔吐、頭痛、めまい、喘鳴(ぜんめい)(ゼーゼーする呼吸)、全身浮腫などがみられます。さらに重症になると呼吸困難、嗄さ声せい(かすれ声)、虚脱、意識障害、錯乱状態となります。そのうち数%にアナフィラキシーとよばれる重篤な全身症状がみられ死亡することもあります。(図2)死亡例の多くは上気道の浮腫による窒息死です。蜂毒では反応時間が早く、蜂に刺されて15分以内に症状が出現します。症状が早く現れるほど重症のことが多く、アナフィラキシーの症状が出てから心停止まで15分という報告があります。(図3)死亡例は年間二十人程度で、その多くは四十歳以上の男性でした。(図4)
 一般的に蜂刺されの症状は前回刺されたときよりも悪化することが多いといわれています。また、短期間に二回刺されるとアナフィラキシーを起こしやすくなるという調査結果もあります。





◆検査
 
アレルギー症状の多くは体内に入った蜂毒のような抗原に対する抗体ができた後に再び抗原が入ると引き起こされます。抗原が入って5〜15分で反応が起こる即時型アレルギーの検査には、直接抗原を皮膚に投与する皮内反応や掻破試験(スクラッチテスト)などもありますが、より安全で簡便な方法がRAST法と呼ばれる血液検査です。血液中のスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチ三種類に対する抗体の量を調べることができます。
 当院では健康診断、人間ドックの健診オプションとして蜂アレルギー健診の申し込みができます。


◆治療

 局所症状のみの場合、軽症であれば刺傷部の冷却、ステロイド外用剤の塗布を行います。炎症が強い場合はステロイド薬を内服することもあります。リンパ節炎を起こした場合は抗生物質の投与が必要なこともあります。
 全身症状に対しては、軽いかゆみやじんましんでは抗ヒスタミン薬の内服や注射で経過観察します。更に症状が重症化すれば気道や循環確保のうえ酸素吸入、アドレナリン注射などショックに対する処置が必要となります。以前に全身症状が出たことがある場合には、直ちに救命処置が行える医療機関への搬送が必要です。
 また、アナフィラキシー症状が現れたとき、症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助療法としてアドレナリン自己注射薬(エピペン)があります。アナフィラキシーの初期症状であるしびれ感、違和感、口唇の浮腫、吐き気、嘔吐、腹痛、せき込みなどが現れたら使用が必要です。(図5)

◆予防、対策
 蜂に対しては虫よけスプレーは無効です。蜂刺され被害の予防には、まずは蜂の巣に近寄らない、刺激をしないことが大切です。追い払ったり、棒を振り回したりする行為は蜂を興奮させてしまい非常に危険です。
 また蜂は黒っぽい色に向かって攻撃し、甘い匂いに誘われます。黒い物を持たない、白っぽい、明るい色の長袖を着る、花柄を避ける、甘い香りのする香水や整髪料をつけないように気をつけてください。運悪く蜂が向かってきたら、大声を出さず、手を振り払わず、顔は下向きで身を低くして、走らないように速やかにその場を離れましょう。


◆おわりに

 蜂は夏から秋にかけて活動期となります。特に八月は蜂刺されの被害がピークとなります。スズメバチは秋に被害が多く報告されています。蜂刺されのリスクが高い林野事業関係者、電気設備業者、ゴルフ場で働く方はスズメバチやアシナガバチに、養蜂業、農業従事者はミツバチに注意が必要です。仕事以外でもアウトドア、レジャーで山間部や屋外に出かける場合、あるいは洗濯物に紛れ込んでいること、人家の軒下、庭の植木や生け垣の周囲で蜂に出会うこともあります。暖かくなるこれからの季節は皆さんも蜂刺されに気をつけましょう。

引用・参考文献
 ファイザー ホームページ アレルギーってなあに
 エピペンガイドブック  ファイザー株式会社



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