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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2015.12 NO.457
スギ花粉の舌下免疫療法について


静岡厚生病院

耳鼻咽喉科診療部長

大輪 達仁


◆スギ花粉症とその治療法について
 
 スギ花粉による花粉症は、我が国において国民病とも言われほどで、たくさんの患者さんがいます。しかも、年々増加しているような印象をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。実際、スギ花粉症の有病率(罹(かか)っている人の割合)は、1998年で16・2%だったものが、2008年は26・5%に増加しており、特に静岡県は39・3%と全国平均を大きく超え、実に10人中4人がスギ花粉症という状況です 。
 飛散シーズンになると、花粉症になっている多くの方は、薬局で市販薬を購入したり、医療機関を受診して内服薬や点鼻、点眼液による薬物療法等を受けていると思います。しかし、これらの内服薬や点鼻、点眼液はアレルギーの症状を押さえつけているだけで、花粉症を根本的に治しているわけではありませんから、シーズン毎に治療が必要になるのは、やむを得ないことであります。また、内服薬を飲むと眠気やだるさが出て困るという方もおられるでしょう。飛散シーズン毎に医療機関にかかるのは、混んでいるし面倒だ、何とかいい方法がないか、とお考えの方も多いと思います。
 花粉症を含むアレルギー性鼻炎の治療法は、表1に示すとおりですが、先に挙げた薬物療法の他に手術療法や免疫療法があります。手術療法も有効ですが、アレルギーを治しているわけではありませんから、程度の差はあれ症状が再燃してくることがあります。

 
◆アレルゲン免疫療法について

 表1に挙げた治療法の中で、アレルギーそのものの治療に最も近いのが、免疫療法です。
 免疫療法のうち、アレルゲン免疫療法がよく用いられています。以前は減感作(げんかんさ)療法とも呼ばれていました。アレルギー症状を起こす原因物質をアレルゲンといいますが、アレルゲン免疫療法とは、アレルギー症状が起きないような少量ずつ、アレルゲンを患者さんに投与し、アレルギー症状に注意しながら、徐々に増量していくというというものです。
 その原理は、研究レベルで色々解明されつつありますが、まだよくわかっていないところがあります。感覚的には、苦手なものも、少しずつ触れていけば慣れていく、というとわかりやすいでしょうか。
 なお、欧米では約百年の歴史があり、症状に対する有効性についても証明され、治療終了後、長期間症状が抑えられる効果も確認されています。

 さて、有効性が証明されており、しかも治療後も効果が期待できるというこのアレルゲン免疫療法が、なぜ普及していないのでしょうか。もちろん、これには理由があり、いくつか欠点があるためです。
 アレルゲン療法の欠点として、治療を年単位で継続することが必要であること、アレルゲン投与は通常皮下注射で行うため医療機関で投与しなければならないこと、稀ですがアナフィラキシーショック(副作用のところで触れます)という重篤なアレルギー発作を起こすことがあることです。これらの理由で、治療を続けられず脱落する方が少なくないのです。
 簡単にまとめると、アレルゲン療法は高い効果が期待できるものの、手間がかかり、稀ながら危険があるため、普及しづらい治療法ということです。

 しかし、こうした欠点を補うべく、昨年10月から日本でも舌下免疫療法用のスギ花粉エキス(商品名シダトレン)が使用できるようになりました。これは、従来皮下注射用しかなかったスギ花粉を、口の中に含むことで投与できるように改良されたものです。
 注射は、医療行為であるため医療機関でしかできないわけですが、舌下免疫療法の場合、口に含む製剤のため、自宅でできるという大きなメリットがあります。
 なお、シダトレンの処方は、認定された医師のみという条件がありますので、いきなり受診せず、実施できるかどうか事前に確認した方がよいでしょう。

 舌下免疫療法はアレルギー疾患に対して、他の治療よりも根本的な改善を目指すものといえますが、症状をゼロにできるものではありません。症状を軽くし、できるだけシーズン中の休薬や減薬を図り、生活の質を改善する、という事が目的であります。
 シダトレンの添付文書によると、症状がピーク時の総合鼻症状スコア(症状の重さや薬の使用状況を点数化したもので、点数が高いほど症状がひどいことを示します)で偽薬と比較した結果、偽薬が平均5・71点でにあったのに対して、シダトレン は平均4・00点と明らかに改善しています。
 ただし、本格的な飛散期前はいずれも1点台なので、シダトレンを服用しても症状自体が全くなくなっているわけではないといえます。また、効果には個人差があり、事前に効果を予測することも難しいです。1シーズン目が効果なかった人が2シーズン目に出ることもあります。
◆シダトレン舌下免疫両方の実施
 治療の対象となるのは、スギ花粉にアレルギーのある12歳以上の方です。
 なお、シダトレンでアナフィラキシーショックを起こした方、β遮断薬というお薬を飲んでいる方は原則として実施できません。その他、妊婦や授乳中の方、重症の喘息をお持ちの方、他のアレルゲンで重篤な症状を起こしたことのある方は慎重に実施する必要があります。
 
 スギ花粉飛散期の実施は副作用を起こしやすくなる恐れがあるため、舌下免疫療法を開始できません。実際、スギ花粉の飛散時期の1か月前までとされておりますのでご注意ください。当院では余裕をみて11月一杯とさせていただいております。

 さて、実施の流れですが、当院の現状に沿ってご説明します。
 まず、スギ花粉に対するアレルギーがあることを確認する必要がありますので、実施前に血液検査を受けていただきます。当日は結果が出ないので、後日再診していただきます。
 再診時にスギ花粉のIgE抗体が確認された場合、服用の手順や、注意点、副作用等の説明を受けていただき、ご本人の承諾を得た上で治療を開始します。なお、この時に別のアレルゲンが見つかるかもしれませんが、今回の舌下免疫療法は基本的にスギ花粉に対してのみ有効と考えてください。
 図1.シダトレン 
                           使用時期によって3種類ある

 実際の製品を図1に示します。3種類のパッケージがあり、水色のボトルが最初の7日(1〜7日目)用、白いボトルが次の7日(8〜14日目)用、銀色のパックは継続使用していただくものです。初回投与は必ず処方した医師の目の前で服用していただきます。以後30分間経過観察する必要があります。
 服用は、いきなり飲み込むのではなく、舌の下に垂らした後、2分間溜めた状態にします。2分後、飲み込んでいただきます。口内の軽い違和感やしびれを感じることがあります。
 
 これを開始当初から2週間かけて増量していきます。
 1日1回、青いボトルで1、1、2、2、3、4、5 プッシュの7日間、白いボトルは10倍の濃度で同様に7日間となります。アレルゲンの量は図2のように増えていきます。
 以降は維持期として1パックのものを続けていきます。

 服薬期間については、3年以上続けていただくことが望ましいとされております。すぐに効果が体感しづらいので、根気がいりますが、それほど手間や負担が生じるわけではありませんから、継続は力なり、頑張っていただきたいと思います。

図2.抗原量の変化。段階的に増量していく
◆副作用について
 副作用としては、添付文書中に19・5%と記載されておりますが、ほとんどが口内炎や違和感等の軽微なもので、服薬継続にも支障がありません。
 最も懸念されるものはアナフィラキシーショックです。蜂に刺された時や、ソバ、ピーナッツ、牛乳等のアレルギーがある人が、誤って口にした際に急変してしまう原因として知られています。通常、アレルゲンとの接触から30分以内に起こります。症状はのどの違和感や腹痛、じんましん、不安感等から始まり、進行すると呼吸困難、血圧低下、意識障害等に進行し、適切な手当てをしないと死亡することがあります。単なる口内違和感とは異なり、口以外の症状がありますので、舌下免疫療法中に先に挙げた症状が出てきたら、すぐ医療機関を受診する必要があります。ただし、シダトレンで実際にアナフィラキシーショックを起こしたケースの報告はありません。(平成27年10月現在)

参考文献
  鼻アレルギー診療ガイドライン
 作成委員会:鼻アレルギー診療ガイドライン
  2013年版.pp.8−11,ライフ・サイエンス,東京,2013




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