◆はじめに
健康診断で、「尿酸が高い」と言われたことはありませんか。健康診断で尿酸が高いと言われて診察室にみえた患者さんにお話をうかがうと、「尿酸って何?痛風のこと?」「足が痛くなることはないけれど、それでも気にしないといけない?」「ビールを飲まなければいいって聞いたけれど、本当かな?」などの声をよく頂戴します。
尿酸は、高い値が出ているそのときに症状がなくても、長い時間を経ることで、徐々に体をむしばむおそれがあるものです。尿酸について、少し考えてみませんか。
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◆尿酸とはなにか |
尿酸はプリン体の最終代謝産物です。食事や体の細胞が破壊されて得られた成分からプリン体ができ、尿酸はそのプリン体が分解された最後の形、「老廃物」として肝臓で生まれるもので、そのまま7割が尿の中に排出されます。
◆高尿酸血症とは
尿酸の血液中濃度の基準は、男性では3・8〜7・5r/dl、女性で2・4〜5・8r/dlと言われています。この男女差は女性ホルモンが腎臓に作用し、尿酸の排出を助けることによるものです。したがって、女性では閉経を境に、女性ホルモンの分泌が低下すると、尿酸値は上昇傾向になります。
高尿酸血症とは、尿酸が血液中に多いことで、血液中の尿酸濃度が7r/dl以上と定義されます。前述のとおり、尿酸値には男女差がありますが、高尿酸血症の定義は男女とも同じ値です。
日本人における高尿酸血症の割合は、男性は30歳台に30%の人で尿酸血症がみられるのをピークに、全年齢で22〜26%の割合でみられると言われています。この中には尿酸を下げる薬(尿酸降下薬)を飲んでいる人も含まれていますがその割合は不明です。40 歳台以上で高尿酸血症の頻度が減少に転じているのは、薬の影響で尿酸値が見かけ上下がっている人が増えるからで、実際の高尿酸血症患者さんの割合はもっと多いと考えられています。
女性は50歳未満で1・3%、50歳以上で3・7%の頻度でみられています。
また、高尿酸血症は性質としてふたつのタイプに大別されます。
ひとつは、尿酸を作る量が増える場合(尿酸産生過剰型)。もうひとつは、尿酸を排出する力が落ちる場合(尿酸排泄低下型)です。両者が混在する場合もあり、それぞれの患者さんがどの型に分類されるかは、尿中に尿酸がどれくらい排泄されているかを検査することでわかります。病型により、治療に用いる薬が違います。
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◆尿酸が高いと何が起こるか
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一般的に、尿酸が多すぎて血液に溶けきれず、結晶をつくることで悪影響を及ぼすものと、尿酸そのものが悪さをするものに分かれます。
@痛風関節炎
一般的にいう「痛風」です。痛風関節炎は、高尿酸血症が続くと、尿酸が血液中で飽和し、尿酸結晶として析出(※せきしゅつ)することでおこるものです。耐え難いほどの激痛を伴う関節痛と腫れが出現します。痛みは痛み止め薬を飲むことで早期改善が見込めますが、一般的に7日から10日間続きます。関節炎は繰り返すこともあり、放置すると発作の頻度が増えていきます。
日本の成人男性の痛風は1%程度の人でみられます。尿酸値が高いほど痛風関節炎が起きやすいことがわかっており、アメリカの報告では、痛風関節炎の5年間の発生率は、尿酸値6r/dl未満では0・5%ですが、尿酸値が上がるごとに上昇し、9r/dl台では19・8%、10r/dl以上では30 ・5%と跳ね上がっています。
痛風の治療としては、痛みがある間は痛み止めの薬を用いて発作の改善を図り、その後は尿酸値を上げないよう、尿酸降下薬を定期的に飲むことになります。
A尿路結石
尿路結石は、石が腎臓から尿管、膀胱、尿道までの排尿の経路のどこかにつまることで、その場所に疝痛(せんつう)(差し込むような痛み)を生じます。石が排出されるまでは非常に激しい痛みが続きます。石の成分は尿酸やシュウ酸カルシウムが析出したものです。尿酸結石の頻度は、日本では男性5・5%、女性2・2%と言われています。治療としては、排石されるのを待ったり、つまっている石を衝撃波で砕いたり、薬で溶かしたりします。
尿酸結石を誘発する原因として、尿酸が高いこと、脱水、酸性尿などもあげられるため、石ができないよう、水分をたくさんとり、尿量を保つこと(2000ml/日以上)、尿酸を低く保つこと、尿を飲み薬でアルカリ性に保つことが大切です。
B腎障害
腎臓は尿を体の外に出したり、体の中の毒素を排出したり、イオンのバランスを保つ臓器です。尿酸が高いと腎臓の機能が悪くなりやすいことがわかっています。尿酸の高い人が尿酸を下げると、腎機能の悪化を防げるという報告もあります。尿酸が腎臓を障害するしくみとしては、尿酸そのものが血管の壁を傷つけ、炎症を引き起こすことで、動脈硬化をすすめるためではないかと言われています。腎臓の機能はある程度まで落ちると元に戻すことができなくなりますので注意が必要です。 |
◆他の病気とのかかわり |
@メタボリックシンドローム
メタボリックシンドロームは、腹部肥満を基礎として、高血圧、高脂血症、高血糖をきたす状態をさします。メタボリックシンドロームは動脈硬化をすすめ、心筋梗塞や脳梗塞になりやすくなるため、積極的な予防と対策が求められています。
メタボリックシンドロームをもつ患者さんでは、高尿酸血症や痛風を同時にもつ割合が高いことが分かっています。尿酸が高いせいでメタボリックシンドロームが起きやすいのか、その逆なのかはいまだにはっきりしておらず、詳細なしくみも分かっていませんが、内臓脂肪を減らすことでメタボリックシンドロームを改善することは、動脈硬化をすすめないという観点からは尿酸を下げることと目的をひとつにするもので、とても重要です。
A高血圧、脳梗塞・心筋梗塞
尿酸値が高いと高血圧になりやすいと言われており、尿酸値は高ければ高いほど、より高血圧になりやすいとされています。高血圧は、前述の通り脳卒中や心筋梗塞などの原因となりますが、尿酸値と脳卒中・心筋梗塞の直接のかかわりについては、現在研究がすすめられているところです。
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◆高尿酸血症の治療 |
高尿酸血症の治療目標は、血清尿酸値6r/dl以下を保つことです。尿酸は血液中では6・4r/dlが溶解する限界とされているためです。
その目標値を達成するために、図の基準を目安とし、以下の治療を併用します。
@食事
まず第一に、とくに肥満傾向のあるかたでは、食事量を制限し、減量することが重要です。肥満の解消は内臓脂肪を落とし、尿酸の上がりにくい体を作ることに貢献します。また、ショ糖や果糖など、糖分をとりすぎている人は尿酸値が高い傾向があることが指摘されており、食生活の改善は尿酸の管理のためにとても重要なのです。
しかし急激に減量すると、一時的に尿酸の増加をきたすことがあるため、焦らず時間をかけて体重を落とすことが肝要です。
第二に、尿酸が出来る元の物質である、プリン体の摂取を制限することが大切です。プリン体を多く含む食品は次ページの表にお示ししたとおりですが、一般的に動物の内臓(レバーなど)、魚の干物などがあげられます。また、アルコールもビールを筆頭にいずれも尿酸値を上げるため(プリン体が多いからだけではなく、他の理由もあります)、控える必要があります。
A運動
肥満傾向がある場合、運動により減量を達成することを目的とし、ウォーキングなどの有酸素運動をすることがすすめられます。無酸素運動、強度の強い運動では、逆に尿酸値の上昇をきたすために注意が必要です。適正体重※(BMI25s/u未満)を目標に、週3回程度の軽い有酸素運動がすすめられます。
B薬
尿酸を排泄しやすくする薬(尿酸排泄促進薬)、尿酸の生成を抑える薬(尿酸生成抑制薬)があります。尿酸排泄低下型では排泄促進薬を用い、尿酸生成過剰型では生成抑制薬を用いますが、尿路結石をもつ場合は尿酸排泄促進薬の使用で尿路結石を増悪させる可能性があり、原則的には用いません。
また尿酸生成抑制薬の一部(アロプリノール)は、腎機能が低下していると、体内に薬が大量に蓄積して、血管炎(血管の炎症)をきたすことがあり、注意して飲む必要があります。 |
◆おわりに |
尿酸は老廃物として体から排出されるものです。痛風、尿路結石の原因としてだけではなく、血管を傷つけ動脈硬化をすすめることから、腎臓をはじめとする全身の血管などに影響を与える可能性が指摘されています。
高尿酸血症は、そのときたとえ症状がなくても、長く続くことで、数年、数十年先に、耐えがたい痛みや全身の血管の静かな炎症をきたすようになり、心臓や腎臓など、命を維持する臓器を直接障害する可能性があります。体が傷つき、機能が戻らなくなるまえに、早めの診断と治療はとても重要です。健康診断で受診をすすめられたら、放っておかず、迷わずに、少し億劫でも病院に足を運んでください。将来の自分の生活を救うためのはじめの一歩は、とても重要です。
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出典
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン
第二版 メディカルレビュー社 日本痛風・核酸代謝学会編集
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン
第二版 2012年追補版 メディカルレビュー社 日本痛風・核酸代謝学会編集
尿酸代謝異常(高尿酸血症とCKD・CVDとの関連) 大野岩男
日本内科学会雑誌104巻5号
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