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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2015.10 NO.455
年をとっても筋肉は増やせる


リハビリテーション中伊豆温泉病院
リハビリテーション科診療部長
尾上 久一郎


老化による筋肉の減少(サルコペニア)と虚弱(フレイル)

 近年、加齢に伴う衰えによって、病気やケガが起こりやすくなった状態を「虚弱」と呼び、要介護状態(健康寿命の終焉)の前段階として医学研究の対象とするようになりました。その結果、「虚弱」には、栄養障害と筋肉量の減少が、直接的に関わることがわかってきました。栄養を正し、筋肉量を回復させれば、「虚弱」を先延ばしにすることや、「虚弱」から脱出し、健康寿命を延ばすことができるのではないかと考えられています(図1)。
 そこで今回は、高齢の方々にも可能な「筋肉量を増やす」方法を、トレーニングと栄養摂取の面からお話ししたいと思います。



筋肉量を増やすトレーニング
(1)高齢でも可能な筋トレ=スロトレ(スロートレーニング)

 アスリートの筋トレでは、1回しか持ちあがらない重さ(2回目は疲れて持ち上がらない重さで1RMと言います)の70%程度の重さ(70%1RM)を素早く持ち上げて降ろすといった運動を、疲れるまで行い(約10回)、1分程度の休息を挟んで3セット行います。70%1RMの負荷は、関節・内蔵への負担が大きく、高齢者には不向きです。
 そこで推奨できるのがスロトレです。1RMの40−60%(30−50回で疲れる重さに相当)という軽い負荷を使って、4秒で持ち上げ、2秒静止、4秒で降ろすといった運動を6回繰り返し、30秒程度の休息をはさんで3セット行います。一つのスロトレメニューは「たったの4分」で終わりです。
 重要なポイントは、1セットの上げ降ろし最中に筋肉を緩めないことです。筋肉の緊張を保つことで筋肉内の血流を滞らせる訳です。あえて疲労の起きやすい状態をつくることで、高負荷の筋トレと同等の効果が期待できるのです(図2)。


(2)インターバル速歩
 インターバル速歩は、3分の早歩きと3分の通常歩行を続けて5セット行います(全部で30分)。早歩きの程度は、「話せるけど歌えない程度のきつさ」が基本ですが、「自分が早歩きだと思う速さ」で効果があると言われています。(図3)

(3)筋トレの頻度=3日に1度で十分
 十分な筋トレ後は、筋肉増量効果をもつホルモンの分泌が72時間程続きます。最大効果を得るには2日程度の休息が必要で、毎日行うと逆効果です。3日に一度ですから、腕立て伏せ・スクワット・腹筋の3メニューで約15分、週に2回でOKです。毎日やりたい人は、1日目腕立て伏せ、2日目スクワット、3日目腹筋、それを2回で6日、1日は完全休息(全部で1週間)とメニューを分割します。スクワットはインターバル速歩に置き換え可能です。

(4)スロトレの実際
 有効な最も軽い負荷を想定すると、30回程度で疲労困憊する強度(40%1RM)となります。これ以上軽い負荷では筋肉は増えにくくなります。筋力が増えたら負荷を増やすことも重要です。簡単なメニューをいくつか紹介します。6回繰り返し、30秒程度の休息をはさんで3セット行うのは同じです。

@スクワット
 肩幅に足を開いて立ち、少し膝を曲げた状態がスタート姿勢で、4秒かけて膝を曲げます。深くしゃがむほど強度が上がりますが、90度を超えて曲げる必要はありません。その状態で2秒静止し、4秒かけてもとに戻します(図4)。


  図4.スクワットの負荷調整
A腹筋
 上向きに寝転び両膝を立てます。頭を持ち上げ、腹筋に軽く力が入っていることを意識して、肩甲骨が床から離れる位置がスタート姿勢です。そこから4秒かけて上体を起こし、2秒静止後、4秒かけてスタート姿勢に戻します。強度は腕の位置と上体を起こす高さで調節します(図5)。

B腕立て伏せ
 両腕とつま先での支持が基本ですが、高齢者のスロトレには負荷が大きすぎます。
 負荷の調整は、膝をついて行う、立った姿勢で壁に両手をついて行う等があります。
 腕を大きく曲げると高負荷に、軽く曲げると低負荷になります。スタート姿勢は、軽く肘をまげた状態で、必要な強度の負荷の位置まで4秒かけて更に肘を曲げます。その状態で2秒静止し、4秒かけてスタート姿勢に戻ります(図6)。

筋トレをサポートする栄養摂取法
 スロトレなどの筋トレ効果を、更に増幅するのが栄養摂取です。筋肉を減らさず増やすには以下の2点が重要です。

(1)筋トレの時に空腹でないこと (筋肉を減らさない工夫)
 筋トレは、空腹を避けるか、空腹なら糖分を補給してから行う必要があります。最初の動力源は筋肉内の糖分で、空腹状態ではそれが枯渇しています。それでは筋肉自体がエネルギーとして消費されるので逆効果です。最も条件の良いトレーニング時間は食後2・3時間となります。空腹なら、筋トレの30分程前にアンパンやオニギリ1個(小さめで可)を補給してください。

2)必要なタンパク質をタイミングよく摂る(筋肉を増やす工夫)
 筋肉を増やすには、タンパク質の摂取が不可欠ですが、摂取のタイミングと成分も重要です。筋トレ後1時間以内の摂取が必須です。分岐鎖アミノ酸を多く含むものが効果的で、牛乳200〜400?程度を飲むことが推奨されます(サプリメントのホエイプロテインの利用も効率的です)。乳製品が苦手な場合は、卵1個で置き換え可能です。
トレーニングや栄養摂取に関する注意点
 病気のある方は、運動の是非、食事に関する制限など、担当主治医に相談する必要があります。健康法より、病気の管理が優先です。とりたてて病気の無い場合も、過剰な気合いはケガのもとです。気長に取り組むといった心構えで、ボチボチ始めて、ボチボチ続けてみてはいかがでしょうか。




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