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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2015.7 NO.452
高齢者と嚥下障害



介護老人保健施設きよみの里
言語聴覚士
本多 加代子

 超高齢社会となり、介護予防という言葉もあちこちで耳にすることが増えてきました。介護予防事業として、嚥下障害の対応を含む「口腔(こうくう)機能の向上」サービスが導入され、嚥下障害に対する関心が高まっています。高齢者の方がいつまでもおいしく、楽しく、安全に食事ができることができるよう、お話をさせていただきます。
嚥下(えんげ)障害とは
 最近食事の際にむせることが多い・せき込むなどの症状が気になることはありませんか?
 高齢になると加齢による口やのどの機能(嚥下機能)も低下してきます。
 また病気の後遺症でのどや舌に麻痺があったりすると食事のたびにむせる・上手く飲み込めないなどの症状が出ることがあります。
 嚥下障害とは水分や食べ物を口に入れて、咽頭から食道、胃へと送り込む、飲み込む行為がうまくいかなくなる状態をいいます。嚥下障害の最大の問題は誤嚥(ごえん)性肺炎です。誤嚥性肺炎とは口の中の食べかすや細菌が誤って気管から肺に入り(これを誤嚥といいます)肺炎を起こすことです。脳血管障害などの後遺症でのどや舌に麻痺がある場合や体を十分に動かしていないために起こる機能低下などがあると、完全に気管の入り口がふさがらないうちに食塊や唾液が流れてくるため、気管内に入りこんで「誤嚥」(図1)が起こるのです。特に寝たきりの方や体力が低下している高齢者は寝ている間に自分の唾液が気管に流れ込むことで起こる「誤嚥性肺炎」が少なくありません。
 気管に食物や唾液が流れこまないようにすることが、最大の予防となり、そのためには口の機能の向上が欠かせません。

嚥下体操って何?
 嚥下とは「飲み込み」のことです。嚥下は舌や口の周り、首などの筋肉を使って、食べ物や飲み物をのどの方へ送り込み、のどを通過した食べ物をさらに食道へ送り込む一連の動作をさします。嚥下体操はそのために必要な筋肉の体操です。この食べるために使う嚥下器官(口腔器官)は呼吸や発声にも使われている発語器官でもあります。
 食事や唾液を飲み込む際に頬・舌・のどなどの口の筋肉を使うことは想像しやすいですが、実は体の筋肉も大きく関係しています。食べる動作を思い出してみてください。まずは目で食べ物を認識し、箸やスプーンを持ちます。次に手を伸ばして食器をつかみ、食べ物を取り、口まで運びます。この時、手だけではなく、頭を支える首や肩や腕の筋肉がスムーズに協働して動くことで一連の動作が行えます。さらに、食べる際には姿勢も大事な要素のひとつです。適切な姿勢を保つことが難しいと、誤嚥のリスクが高まります。また、万が一誤嚥してしまった場合、しっかりとむせることができると気管に入ってしまった食べ物を吐き出すことができます。
 この「むせる」という動作には背筋や腹筋、そしてしっかりと足を地面につけてふんばる足の筋肉なども必要になります。全身の筋肉が、それぞれの役割を果たすことでスムーズに食べることができますし、万が一の場合でも安全の確保ができます。どれがひとつ欠けても食べることは困難になります。そのため嚥下体操には、口だけでなく体の筋肉を動かす要素が含まれています。
嚥下体操で誤嚥予防

 通常食道に行くべき食べ物や飲み物が誤って気管へと入り込んでしまうのが誤嚥です。その「誤嚥予防」に嚥下体操がおすすめです。嚥下体操を実施する一番よいタイミングは食事の前です。嚥下体操により口や頬・舌などを動かすことで、唾液がよく出るようになり、飲み込みやすく食べやすくなります。そのほか「テレビを見ながら」「お風呂に入りながら」など「ながら体操」として行ってもよいと思います。無理せず楽しく毎日継続していくことが大切です。
 食事の前の準備体操としてぜひ行ってみて下さい。(図2)

 嚥下体操
@姿勢
  まずは、姿勢を整えて座り、全身の筋肉のバランスを整えます。

A深呼吸
  鼻から吸って、口から吐きます。長く息を吐くようにしましょう。体操を始める 前に緊張した気持ちや筋肉をリラックスさせます。

B首の体操
  嚥下に関係する筋肉は、首に多く集中しています。筋肉をゆっくり動かしてほぐ すことで、食べる準備を始めます。

C肩の体操
  息を吸いながら肩を引き上げて、スッと力を抜くように息を吐きながら肩を下げ ます。

D口の体操
  口の周りの筋肉をほぐし動かすためのトレーニングです。大げさに口を動かしま しょう。

E頬の体操
  口の中に空気をため、頬の内側から膨らませる筋肉のトレーニングです。しっか り噛むために、また食べこぼし防止や、鼻へ食べ物が流れ込むのを防ぎます。

F舌の体操

  食べること、そして発音するために欠かせないのが舌です。噛む時や飲み込む時 に舌の動きを保つことができます。

G発音練習
  「パ」「タ」「カ」「ラ」と発音することで口唇や舌を動かします。口唇や舌の 動きを目的別にトレーニングします。
 この時に早口ことばや歌唱などの発音練習も行います。
 声を出すことは口腔機能だけでなく呼吸機能の向上にもつながります。歌は口唇・ 頬・声帯・首の筋肉など多くの組織の総合活動です。これを長く続けることは咀嚼 (そしゃく)・嚥下・発声などを司る筋肉の体操となり周辺組織を柔軟にすることに つながります。

H咳ばらい
  誤嚥した際に、むせるためのトレーニングです。やりすぎてしまうと喉を痛める こともあるので2〜3回でかまいません。
唾液腺マッサージ
 
 高齢になると、唾液は出にくくなります。唾液の分泌が少なくなると口腔内が乾燥しやすくなります。乾燥していると食事の際にむせたり噛みにくくなったりします。唾液の分泌を促すために唾液腺を刺激する唾液腺マッサージ(図3)を行い、口腔内が潤うと口の自浄作用が働きます。そして口の周りの筋肉の緊張がほぐれ口が開きやすくなります。何より、食べること・飲み込むことや会話がしやすくなります。
 食事の前に、嚥下体操と一緒に行うこともおすすめします。唾液腺は耳下腺(耳たぶのやや前方、上の奥歯あたり)、顎下腺(あごの骨の内側のやわらかい部分)、舌下腺(あごの先のとがった部分の内側、舌の付け根)と3ヶ所あります。力を入れずに指で軽く圧迫するようにやさしく行ってください。
 また、深呼吸や声を出すことは横隔膜を上げたり下げたりして体に酸素を送り込むことで、脳に十分な酸素が行き渡って脳を活性化します。ストレスを和らげる効果や肺の老化を食い止めるのにも有効です。

「口は健康への表玄関」
 飲み込みや呼吸などの口腔機能が低下すると十分な食事が取れなくなり栄養状態が悪くなります。すると体力や筋力が低下するため、歩くことや体を動かすことが困難になり、転倒や骨折をして車椅子や寝たきりの生活状態になってしまうことも予想されます。
 口腔機能が正常に機能していると食事が美味しく摂取できます。栄養状態が改善すると、体を動かす活動的な日中活動や日常生活に耐えられるだけの筋肉や体力が維持されます。すると運動器の機能も十分維持され、健康的な生活が送られるようになると考えられます。
 生活機能の向上のためには欠かせないのが口腔機能の向上です。日頃から、口唇・頬・舌・のどなどの口腔器官の筋肉を意識的に使って鍛えることは、正しい嚥下を促し、何歳になっても口から物を食べる生活を持続させることになります。咀嚼力・嚥下力は年齢によって低下するばかりでなく日々のこころがけと訓練次第で機能を高めることができる能力なのです。
愉快に元気に声をだしましょう!
 きよみの里でも利用者様に食前や体操・レクリエーションの中で嚥下体操を行っています。
 「生麦生米生卵」「花よりだんご」「東京特許許可局」「鬼に金棒」「新春シャンソンショー」「フニャフニャな ふな」などなど声を出すと元気になり自然と笑顔になります。
 嚥下体操を、早口言葉やかるた文で発声を、生活の中で取り入れてみませんか?


引用・参考文献
・ 甲谷至 歌うことが口腔ケアになる あおぞら出版二〇〇八 六二・七四〜七六より一部引用
・ はじめよう!やってみよう!口腔ケアより一部引用
・ 矢守麻奈・やわたメディカルセンター嚥下障害研究所二〇〇〇
  ステップ方式で学ぶ摂食嚥下リハビリテーションより一部引用
・ 今井一彰・岡崎好秀 口を閉じれば病気にならない 家の光協会二○一二より一部引用



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