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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2015.4 NO.449
身の回りの放射線について
〜放射線を正しく認識すれば怖くない〜




遠州病院
放射線科 技師長
窪野 久行

はじめに 
 私たちの身の回りには、テレビやラジオ、携帯電話などのさまざまな電波が飛び交っています。実は放射線も同じように飛び交っているのをご存知でしょうか?電波や放射線は人間の五感(視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚)に反応しないため、専用の測定器を使わなければその存在が分かりません。
 電波は壁を通り抜ける事ができます。放射線も同じように通り抜ける事ができます。
 ではなぜ放射線は危険と捉えられているのでしょうか?体に放射線がたくさんあたるとガンになる?今回は放射線について正しく認識するためにそのあたりをお話させていただきます。専門用語が出てきて少し難しくなりますが、最後までお付合い下さい。

放射線とは?
 放射線を一言で言うと、電磁波の仲間となります。
 では、電磁波とはいったい何でしょうか?
 少し難しくなりますが、電磁波とは太陽光と同様に波としての性質を持った光子(フォトン)と考えられ、電波と磁場の両方の性質を持つ「波」のことです。波の大きい方から、
 電波≫赤外線≫紫外線≫X線(エックス線)≫γ線(ガンマ線)
となります。波の小さいものほど物を通り抜ける力があります。紫外線は目に見えませんが、日焼けや酷くなると皮膚が赤くなり、やけど状態になります。特に女性の方は夏の紫外線対策には苦労をさせられていると考えます。放射線は紫外線と同様に、見えない上に物を透過する力があります。それゆえに危険なものとして捉えられています。
 放射線は、電離放射線と非電離放射線と分けることができます(図1)。
 電離放射線は(X線、γ線)です。非電離放射線は太陽光線(紫外線、赤外線)と電波(テレビ波、ラジオ波、マイクロ波(携帯電話)等)です。
 電離放射線の電離作用とは、物質を透過する際、その物質を作っている原子や分子にエネルギーを与えて、原子や分子から電子を分離させる性質のことで、体の細胞に何らかの影響を与えます。身近な電化製品では電子レンジやIHクッキングヒーターは電磁波を発生させていますが、電磁波による健康への被害は、まだはっきりと分かっていないのが現状です。

自然放射線と人工放射線
 放射線には、自然放射線と人工放射線の大きく2種類に分けることができます。

(1)自然放射線

 自然界にある放射能です。実は、私たちが毎日生活しているなかでも常に自然放射線を浴び続けています。その自然放射線は、体の外から受ける外部被ばくと体の中から受ける内部被ばくがあります。
 まず外部被ばくですが、この地球上で生活している限り、宇宙や大地から発せられる自然放射線を避けることは出来ません。私たちは絶えず被ばくをしています。宇宙からの放射線ですが、地球は主に銀河系内から発生する高エネルギー粒子によって絶えず照射されています。主に新しい星の爆発などによる天体活動によって一次宇宙線が生まれます。この一次宇宙線が大気に入れば低エネルギーの粒子が二次宇宙線となり地上に降り注ぎます。宇宙線の被ばくは高度が高いほど影響を受けるため、飛行機に乗ったり富士山に山登りをすると、地上よりも多く被ばくします。
 次に、大地からの放射線ですが、大地の岩石や土の中には、カリウム、トリウム、ウランなどの放射性物質が含まれています。これらの放射性物質は半減期(放射線のエネルギーが半分になるまでの期間)が非常に長く、多くのものは地球が誕生した46億年前から存在し、放射線を絶えず出しながら安定した物質になろうとしています。
 私たちが1年間に受ける自然放射線は、世界平均で年2.4mSv(ミリシーベルト)です。


 また、世界の各地域での自然放射線量の違いもあります。
日本はおよそ1〜1.5mSv(ミリシーベルト)です。世界には地質などの影響によって自然放射線量がとても高い地域がありますが、そこに住む人々の発ガン率が、私たち日本人よりも高いということはありません。
 次に、内部被ばくですが、空気中には、ラドンやトロンという地殻から飛び出した気体状の放射性物質が含まれ、呼吸することで人体に取り込まれています。また、放射性物質が含まれた大地から採れた作物や、草を食べた牛や豚の肉を食べることで私たちは知らないうちに体の中に放射性物質を取り入れることになります。
 したがって、自然放射線からの被ばくは、@宇宙から、大地からの外部被ばく、A空気、水、食物からの内部被ばくとなります。

(2)人工放射線
 自然放射線に対して人工的に作る放射線のことです。その種類として大きく分けると次のものがあります。

○医療用放射線
 皆さんもご存知の通り、病院で胸や骨のX線写真、CT検査などで使用する放射線ですが、病気の発見や治療のために必要で、患者さんには不利益をもたらさないように照射するものです。
○原子力発電所
 発電が目的で、私たちの生活に必要な電気を作り出しています。核分裂反応で熱を取り出し、その熱で水蒸気を発生させタービン(羽の付いた歯車)を回して発電するものです。
 これらの人工放射線は、放射線の種類や性質は自然放射線と変わりなく、人体への影響も自然放射線と変わりありません。(図3)

人工放射線から受ける被ばく
 このような人工放射線から受ける被ばくには大きく3種類あります。
(1)職業被ばく
 主に、病院の医師や私たちのような診療放射線技師、原子力発電所で作業に従事する人が受ける被ばくです。

(2)医療被ばく
 患者さんが病気の診断や治療のために受ける放射線被ばくを言います。

(3)公衆被ばく

 放射線を職業としない一般の方が受ける病院での医療被ばく以外の放射線被ばくのことです。原子力発電所などの放射線施設から放出される放射線によって、一般公衆が受ける被ばくのことを言います。
医療被ばくについて
 日本国民一人あたりの医療被ばくは1年間平均2〜3mSv(ミリシーベルト)です。これは自然放射線被ばくに匹敵する量で世界平均に比べて高い数値です。しかし、日本人は世界一の長寿国です。CT検査等の「被ばくする医療行為」は日本人の長寿に少しは貢献しているのではないでしょうか?
 CT検査を行い早期にガンを見つけることで、その人の命にプラスになります。医療被ばくを心配しないで必要な検査を受けることが大切です。
 東日本大震災時に東京電力福島第一原子力発電所の事故が起こりました。この事故を機にCT検査などによる医療被ばくのことを初めて知った方も多いはずです。しかし、同じ外部被ばくでも、原子力発電所の事故による放射能漏れの影響は、その人には全く利益をもたらしません。したがって、人に対して利益をもたらす医療被ばくと、原子力発電所の事故による被ばくは全く別の次元です。放射線は危険ですが、医療放射線はちゃんとリスク(危険性)とベネフィット(利益・恩恵)を考えて使われています。無駄な被ばくを抑えるように私たち診療放射線技師は常に心掛けています。検査によって得られる利益は、検査による被ばくのリスクを上回ることを大前提で行っています。
放射線は危険!?
 放射線を危険と捉えられているのは、体に放射線がたくさんあたるとガンになるのではないか?と考えられているからだと思います。実は、放射線が健康に及ぼすリスク(危険性)の大きさを判断する基礎となっているのは、広島と長崎における被ばく者のデータで、世界的な放射線防護の基礎になっています。原爆は我々人類にとても大きな不幸をもたらしましたが、その被ばく者から放射線被ばくにおける影響(これだけ放射線を一度に全身に浴びるとこのような症状になる。ガンになる。)など、多くの事を知ることができた貴重なデータなのです。
 ではなぜ放射線を浴びるとガンになるのでしょうか?
 私たちの体には、少しずつ分裂して組織を再生する幹かん細胞があります。幹細胞は放射線にあたると遺伝子に傷が付き、発ガンに関係する遺伝子の損傷が繰り返されるとガンになると言われています。放射線が人体に照射されると細胞を構成する分子の化学結合が切断され、細胞が正しい働きをしなくなることがあります。しかし多くの場合、人体に備わっている修復能力、回復によって切断された分子結合はごく短時間に修復されます(図4)。


 これらの修復能力などを上回る損傷を受けた場合、また、その傷を治す過程でエラーが生じた場合、障害が発生すると考えられています。放射線も熱とか太陽光線を受けるのと同じで、体に残る事はありません。体に残るとすれば、それは「放射線」ではなく「放射線の影響」ということになります。

○急性被ばくと遷延(せんえん)被ばく
 放射線の被ばくには、急性被ばく遷延被ばくの2つがあります。
 急性被ばくとは、原爆などで瞬間的に放射線を浴びることを言います。瞬間にとても強い放射線が全身にあたり、健康への影響はとても大きいです。それに対して、遷延被ばくとは、原発事故などで飛散した放射性物質の影響をゆっくり受けることです。健康への影響は急性被ばくよりも少なくなります。
 このように、私たちの身の回りには様々な放射線が存在し、日々接して生活をしていますが、その放射線によって直ぐに命を落とすようなことはありません。仮に人生を80年とすると、自然放射線の世界平均2.4mSvを1年間被ばくするため、生涯で約200mSvの自然放射線からの被ばくを受けることになりますが、自然放射線による被ばくの影響が体に出たとの報告はありません。
 自然放射線による食物の内部被ばくについてですが、米、茶、野菜や肉等の生活上の食物は基準値を超えないように検査をして市場に出荷されています。(図5)

 野菜を食べることはガンを減らす効果があり、放射性物質を過度に気にして野菜を避けるとガンになる危険性を増すことになります。
 私たちは一つの危険を避けようとした時に、知らないうちにまた別の危険を持ち込んでしまう可能性があります。低いレベルの放射線や、低いレベルの放射能汚染には重大な危険はありません。放射線を正しく理解すれば、むやみに怖がる必要はありません。
参考資料
・ 「医療被ばく説明マニュアル」
日本放射線公衆安全学会
・「改訂版 医療被ばく」
日本放射線カウンセリング学会
日本放射線公衆安全学会



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