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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2014.11 NO.444
海外渡航のお手伝い、いたします!
〜『渡航ワクチン外来』より〜



静岡厚生病院
小児科 診療部長
田中 敏博

 
  「高校生の娘がアメリカに留学するのですが、髄膜炎菌ワクチンを接種してくるよう指定されています。そちらでお願いできますか?」。
 2年前の初夏、そんな電話が小児科外来に舞い込みました。髄膜炎菌は、髄膜炎や敗血症を引き起こす病原体で、「髄膜炎ベルト」と称されるアフリカ諸国での発生がよく知られています。
近年、我が国で患者が見つかることは非常にまれであり、このこともあって予防のためのワクチンは定期接種に組み込まれていないのみならず、市販もされていません(2014年9月末現在)。
 しかし、アメリカの一部の高校や大学などでは必須の予防接種となっていることから、留学を希望する方々が接種できる医療機関(すなわち、国内では入手できないワクチンを個人輸入の形で準備している施設)を探し求めてさまよう結果となってしまっていたわけです。静岡県内ではその時点で、浜松の1ヶ所しか接種できる施設がありませんでした。
 (特にこどもの)病気はかかってから治すよりもかからないように予防することの方が大切という信念から、当科では予防接種に力を入れてきました。しかし、対応したくてもできなかった、この事例の経験で、まだやることがある、もっと頑張らなくてはいけない、と痛感しました。
 そこで、我々も準備を重ね、日本では入手できないワクチンを輸入して取り揃えて、昨年12月に渡航ワクチン外来の開設にこぎつけました。
 いざ開始してみると、一例一例が勉強の積み重ねです。渡航先、目的、職種、渡航期間、渡航までの時間、年齢、過去の予防接種歴、等々により、色々な状況を想定しながら、接種するワクチンの種類を決め、スケジュールを立てていきます。よく、どこどこの国に行くのにワクチンはどれとどれを接種していけばよいか、という質問をいただきますが、上記の様々な背景を考慮する必要がありますので、決まった答えをあらかじめ用意することはなかなかできません。
 最近では国内でもやれデング熱、やれエボラ出血熱と、マスコミが焚き付け、市民も公園に近づかないようにしたり防虫スプレーを買いあさったりするなど、プチ・パニック状態です。でも、そのように騒ぐ方々ほど、東南アジアのリゾート地(日本脳炎、マラリア、デング熱等の蚊が媒介する病気が普遍的にあり、公衆衛生上の理由からその他の感染症も多い地域)に旅行に出かける時には、予防接種はおろか、何の対策もなく無防備であったりするのです。海外に出かけていくということの意味を、もっともっと正確に理解していただけるよう、我々の地道な呼び掛けが不可欠と思います。
 海外で安全を確保する、健康を維持するという目的からすると、予防接種はごく一部の作業に過ぎません。予防接種だけではカバーできない日常的な病気として、マラリアや下痢症があります。また、交通事故、時差ボケ、高山病、うつ病、蚊対策など、考慮すべき事項は多々あります。『渡航ワクチン外来』で接種を重ねていくにつれ、予防接種以外のことにも対応していくことの必要性、重要性を痛感し、色々な情報を提供できるよう努力しているところです。
 今年度に入り、毎月の受診者数が73名、うち新規の方が30名と、予想以上の忙しさになっています。静岡市内はもちろん、県中部全域、東部地方、時に山梨県や神奈川県などからも来院されます。これまでであれば遠方まで何回も往復されていたであろうと思われるところ、県内でお手伝いできる体制を整えられたことに、スタッフ一同、やりがいを感じています。
 世界を股にかけて人が行き交う時代です。海外旅行が当たり前になり、海外に進出する企業や海外で勉強する若者が急増しています。こども達に予防接種を行ってきた経験を生かして、こんな領域でも地域の皆さんのお役に立てたらと思う次第です。


《渡航ワクチン外来のトピックス》
 静岡の中・東部地方にはこんなにたくさんの海外進出企業があったのか…と驚くほどに、多くの会社の方々が赴任、あるいは出張を前に、当外来を受診されています。福利厚生として必要なワクチンは全て補助するからよく相談して接種種別を決めてください、という場合もあれば、予算の都合上「最低限でお願いします」という場合まで、様々です。何をもってして最低限かという判断は困難であり、考え得るリスクに対して、適切な備えができるように、相談を進めることにしています。
 海外旅行にあたって予防接種をしていこうと考える方は、全体の旅行者の中ではまだ少数派と思いますが、当外来の認知度の高まりと共に、徐々にその数が増加している印象です。
 英語の勉強のための留学が最も多いのですが、欧米のいわゆる英語圏のほか、最近ではインド、フィリピン、ミャンマーなど、英語を公用語としているアジアの国々に向かう方が目につきます。
 このほか、JICAや大使館・領事館関係の、公務かそれに近いお仕事での渡航の方々が受診されます。
 
 「@BCのアジア諸国が圧倒的で、その9割以上が、その地域に進出する企業の関係者およびそのご家族となっています。

前項の渡航先の状況から、@〜Dのワクチンのニーズが高くなっています。@Cは輸入ワクチンを用いています。Aは、渡航までの準備期間の長さと実際の滞在期間の長さを勘案して、1回接種すれば6ヶ月間は安心とされる輸入ワクチンと、6ヶ月の間に3回の接種を要する国産ワクチンとを使い分けています。
 同じ蚊が媒介する病気でも、特別な予防策がないデング熱については大騒ぎするが、ずっと以前より国内で危険性が存在する日本脳炎については、ワクチンもあるのに無頓着な方が少なくありません。日本脳炎ワクチンについては、積極的に接種のご提案をしています。

○当外来で対応可能な事項
* 各種予防接種
  (狂犬病、A型肝炎、腸チフス、コレラ、髄膜炎菌、ダニ脳炎、成人用3種混合等の輸入ワクチン   を含む)
* 抗体検査
  (麻疹、風疹、おたふくかぜ、水痘、A型肝炎、B型肝炎)
* 抗マラリア薬処方
* 高山病薬処方
* 健康診断
* 各種証明書・診断書の発行
(日本語・英語)
  
《『渡航ワクチン外来』をご利用の際のお願い》


1 必ず事前のご予約をお願いいたします(電話または外来受付に直接)。

2 渡航までできるだけ時間的な余裕をもってご相談ください。

3 お近くの医療機関で接種できるものだけ実施して、できないものを当外来で、というご
  要望は少なくありません。が、全体の接種スケジュールを調整する必要上、接種開始前に
  まずご相談いただけるとありがたく思います。

4 過去の接種記録がとても重要です。母子手帳やその他の接種記録をぜひお持ちください。

5 初回の受診時は、様々な情報をもとにして、接種スケジュールを作成します。したがって、
  実際の接種を含めて30分程度はかかることをご了承ください。

 




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