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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2014.8 NO.441
減塩から健康を考える
遠州病院
内科 診療部長
瀬 浩之

はじめに 
 「米塩(べいえん)の資(し)」これは私たちが生きていくうえで、米とともに食塩が必要不可欠な物であることを表す言葉です。しかし、「うまいまずいは塩加減」といわれるように、食塩は調味料として重要ではありますが、多すぎても少なすぎても料理を台無しにしてしまいます。人間の体も同様で、食塩の摂り過ぎは健康被害を起こします。

食塩摂取量について
 では、私たちはどれほどの食塩を摂っているのか、「よい塩加減」とはどれくらいなのか、ご存知ですか。
 旧石器時代、日本人は一日当たり1・5g程度の食塩摂取量であったと推測されています。狩猟生活から農業定住生活へ時代が変化するにつれ食塩摂取量は徐々に増加してきました。
 戦後にはおよそ30・0g/日の食塩を摂取していたという報告があります。その後、厚生労働省(厚生省)の国民健康・栄養調査の中で日本人の食塩摂取量が報告されており、それは徐々に減少してきましたが(図1)平成24年の食塩摂取量は10・4g/日でした(男性11・3g/日、女性9・6g/日)。日本高血圧学会は“高血圧患者は6・0g/日未満”という目標を掲げており、厚生労働省は2010年に正常血圧の人でも今後5年間に達成したい減塩目標を男性9・0g/日未満、女性は7・5g/日未満に設定しました(食事摂取基準2010年版)。
 確かに10・0g/日以上の食塩摂取量は多い状態ですが、食事摂取基準2010年版が作成されたころよりも、男女ともに食塩摂取量低下が認められているので、2015年版では目標摂取基準男性8・0g/日未満女性7・0g/日未満とさらに厳しくなっています。  
  
 一方、世界的にはどうかというと、食塩摂取量は3・8g/日までなら安全性が確認されており、2013年WHO(世界保健機関)は一般成人向けの目標値として5・0g/日未満を推奨しています。アジア人の食塩摂取量は欧米人よりも多く、日本人の食塩摂取量は世界トップレベルです。

 当院では、2008年から人間ドック受診者(浜松市、湖西市、磐田市、掛川市、菊川市、森町など)において尿中ナトリウム排泄量から食塩摂取量を推定(測定)させていただいておりますが(図2)、平均で11・0g/日程度(男性12・4g/日、女性8・4g/日)と日本全国の平均より多くなっています。残念ながら全国の報告とは異なり、遠州地区の食塩摂取量は直近の6年間は変化なく、ほとんど減塩できていない状況です。減塩達成率については2010年版の食塩摂取目標量の9・0g/日未満の男性は15%程度、7・5g/日未満の女性は40%程度、高血圧患者にいたっては6・0g/日未満の男性は1・0%未満、女性は8・0%程度です。このように減塩に対する努力が不十分と考えられるので、今後は減塩に対して真剣に取り組む必要があると思われます。

 


関連する病気
 食塩と最も関連が深いのは血圧です。疫学研究では食塩摂取量の多い国・地域では血圧が高く将来的な高血圧発症率も高率であり、逆に食塩摂取量の少ない地域では血圧や高血圧発症率は低いと報告されています。また、食塩を摂り過ぎると血圧が上がり減塩すると血圧は低下するという研究報告もあります。
 これは血圧が正常な方にも当てはまりますが、高血圧症の方の方がその効果は大きいと言われています。高血圧症は血圧が高いこと以外に動脈硬化の危険因子であるという意味で重要です。動脈硬化は脳卒中・狭心症・心筋梗塞・腎不全などを引き起こします。現在、日本では高血圧患者は4300万人いると推定されていますので、すべての患者が動脈硬化を起こさないように生活習慣改善・治療を行っていく必要があります。
 日本人の死亡原因は悪性腫瘍が第一位ですが、動脈硬化を原因とする脳・心臓疾患を合わせた死亡数は悪性腫瘍に匹敵します(図3)。

 グラフを見るとゆっくりですが脳卒中による死亡率は低下してきています。実は、減塩を意識しはじめた事により日本人の平均血圧も徐々に低下しているので減塩の効果は確実であると考えられます。ただ、血圧が正常でも食塩摂取量が多いと動脈硬化を引き起こし、脳卒中による死亡、狭心症や心筋梗塞、心臓肥大、心不全、腎不全の原因になります。

 一方、動脈硬化性疾患以外にも食塩の摂りすぎは体に悪影響があります。代表的なものは骨粗鬆症尿路結石胃癌です。
 経口摂取した食塩は、ほぼ全量腎臓から排泄されます。食塩の成分であるナトリウムは腎臓から排泄される時にカルシウムと一緒に排泄されなくてはならないのです。そのカルシウムがどこから来るのかというと骨から溶け出して血中・尿中へと流れます。骨からカルシウムが溶け出すために骨粗鬆症が生じるわけです。
 尿中に排泄されたカルシウムはシュウ酸カルシウムとなり、結晶が作られその結晶が尿路結石となって血尿や疼痛、尿路感染の原因となります。
 胃癌については、食塩の摂りすぎの人、特に男性でその発生率が高いと報告されています。胃癌といえばピロリ菌が有名です。ピロリ菌に感染した人がすべて胃癌になるわけではないですが、胃癌の人はほぼ全員ピロリ菌に感染しています。しかし、ピロリ菌は直接的な胃癌の原因ではありません。ピロリ菌感染による炎症が胃癌の原因として重要で、食塩はピロリ菌が発生させる炎症を補助的に増強してしまうため、ピロリ菌よりも胃癌発生への関与は高いと考えられています。
 このように、食塩は体のいろいろな部分に、悪影響を及ぼす事が知られています。血圧だけでなく健康でいるためには減塩が重要ですので、皆さん心がけてください。

食塩摂取量を控える
 では、どのように心がけていけばいのでしょうか。まず自分がどの程度食塩を摂取しているか考えてみる必要があります。食品にはカロリーやナトリウム量が記載されています。ナトリウム量を2・54倍すれば食塩量になりますが、最近では食塩量として記載されているものもあります。消費者庁が、表示すべき栄養成分の優先度を見直したので、今後は表示部位もカロリーの次に記載されるようになります。カロリー摂取量を気にする様に、食塩の摂取量についても留意することが重要です。食べ物の含有食塩量を知れば、一日に自分が摂取する食塩量を推定することができます。言い換えれば自分の味覚を理解することにつながるのかもしれません。そして、今後どの程度減塩できるのかを考える指標になります。
 直接的に摂取量を減らす方法としては

漬物や佃煮、魚の干物、たらこ、いくら、塩辛、練りウニなどの摂取量を半分または2/3程度 に控える。
みそ汁は、1日に1杯まで。
麺類の汁は飲み残す。
追加の味付けを控えるために食卓塩・食卓醤油を廃止する。

などがあります。次に、料理をする時の減塩について考えてみてください。いきなり大幅な減塩をすると食事が物足りないと感じてしまいますので、食塩以外の調味料を駆使して、一割程度の減塩を目標にして取り組んでみるのが良いと思います。一割の減塩であれば味覚としてはほとんど分からないことが知られています。

醤油や味噌、梅干しなどは、減塩食品に替える。
食塩以外の調味料、例えば、こしょう、からし、わさびなどナトリウムを含まない調味料を駆使し て料理の味を調える。
香辛料やハーブなどの辛味や香り、またはかんきつ類や酢などの酸味を利用して、味に変化  をつける。
旬の食材・食品を使用し、食材自体の味を楽しむ。

 これらを試せば薄味に慣れてくるかもしれません。ただし、薄味にしても多量摂取すれば同じことです。薄味にして腹八分目の食事を心がければ、減塩できて肥満も解消できることになります。また、全国統計では、小中学生ですでに食塩摂取量が増加しはじめ、15〜19歳においては、ほぼ成人と同様の食塩量を摂取しています。食べ盛りなので仕方がないかもしれませんが、お子さんが小さなうちから減塩・薄味の食事に慣れていれば、成人になっても食塩の過剰摂取を避けることができるはずです。食事を作ってくれるお母さん方が、早い時期から減塩を実践して下さると良いと思います。そうすれば薄味に慣れたお子さんが家庭を持った時、その家庭では減塩が受け継がれていくことになるのではないでしょうか。


食塩摂取量を控える
 遠い昔、塩分濃度が高いと物を腐敗させる微生物が繁殖できないので、食塩は腐敗を防ぐ神聖なものとして扱われてきました。食塩自体も腐敗することはなく賞味期限はありません。現代では、食塩は安価で安全な調味料です。「一番うまくて、まずいものは塩」とも言われています。今、「うまい」と思っている食事の食塩量は、体には「まずい」ものになっています。ぜひ減塩に努めて、健康的な生活を送ってください。

 




JA-shizuokakouseiren.2012.7.9