はじめに
「眼(がん)瞼(けん)下垂(かすい)」という言葉をテレビ・雑誌などのメディアで耳にしたことのある方が多いと思います。
ではなぜ「眼瞼下垂」が認知されてきたのか?
それは多くの人を悩ます肩こりの原因はこれまで、長時間のパソコンや事務仕事、運動不足、ストレスなどが原因とされてきました。最近では、まぶたの異常で生じる肩こりが非常に多いことが明らかになってきたからだと思います。
当院では特に眼瞼下垂症の手術が多く、専門的に行っているといってもいいでしょう。読み終わる頃には、「私も眼瞼下垂かも???」「私の症状と似ている」と感じる方も非常に多いのではないかと思います。
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眼瞼下垂とは
まぶたが重く目が開きにくい状態です。典型的な症例を見てみましょう。(写真1)

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黒目が半分も出ていません。そして眉毛を上げて額に横シワができています。
これは、若年者でもなりますが、特に高齢者が非常に多いです。なぜなら原因は加齢が最も多いからです。ただ、若年者でもまぶたをこする習慣のある方もなりやすいです。例えば花粉症や、コンタクトレンズの長期間の使用、夜遅くまで勉強・仕事をする方も、眼瞼下垂になりやすいことがわかっています。
まぶたの中では何が起こっているのか?
まぶたを上げる行為は、眼瞼挙筋(がんけんきょきん)の働きで行われています。
図1で眼瞼挙筋が矢印のように収縮することでまぶたが上がります。
※ まぶたのことを医学的には、「眼瞼(がんけん)」と呼びます。
眼瞼挙筋は、眼の上奥の骨から起こって眼の上を走り、途中から腱膜(けんまく)という薄い組織になり、瞼板(けんばん)に付いています。腱膜と瞼板の結合はデリケートで、まぶたを腫らしたりこすったりすることを続けると、腱膜は瞼板から外れてしまいます。すると眼瞼挙筋の力がまぶたに伝わりにくくなるので、努力しなければまぶたが上がらなくなり、やがて開きにくくなってしまいます。これが「腱膜性眼瞼下垂症(けんまくせいがんけんかすいしょう)」といわれる状態です。(図2)
さらに加齢により腱膜が伸びてしまい、ますますまぶたを持ち上げる力を伝えることが困難になります。今まで以上に眼瞼挙筋を縮めてまぶたを開ける努力をしないといけませんが、限界があります。こうしてまぶたが上がらなくなる症状が進行していきます。 |

図1正常 図2眼瞼下垂症
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ではなぜまぶたが上がらないと、肩こりの原因となるのでしょうか?
眼瞼挙筋腱膜の力がまぶたに伝わりにくいと、それを補うために眉を上げてまぶたを開けようとします。このとき額の筋肉(前頭筋)を収縮させるために、横シワが額にできます。さらに前頭筋は、頭のてっぺんから首筋の筋肉につながっていて後頭筋〜肩関節周囲の筋肉(僧帽筋(そうぼうきん))そして、背骨の周囲の姿勢を保持する筋肉(脊柱(せきちゅう)起立筋(きりつきん))まで連動して収縮します。そのために肩こりが生じます。この一連の筋肉の収縮・緊張はまぶたが重いだけで反射的に起きてしまっています。
まぶたを開けるために実はもう一つまぶたを上げる筋肉があります。それはミュラー筋です。図の灰色の筋肉です。腱膜性眼瞼下垂になるとこのミュラー筋も働いてまぶたを上げようとします。
眼瞼下垂の人も何とかまぶたが開くのは、ミュラー筋が頑張っているからです。
このミュラー筋は交感神経支配です。ちょっと難しいと思われるかもしれませんが、眼瞼挙筋と異なり自分で意識して動かすことができません。交感神経を刺激してミュラー筋を刺激させるためには、奥歯をかみしめたりして交感神経刺激のスイッチをいれ続けることをしています。その結果、交感神経刺激症状が生じます。
交感神経刺激が続くことは、いわゆる自律神経の調節がうまくいかなくなった状態です。更年期障害の症状と類似しています。例を挙げると、不安神経症(不安障害)・睡眠障害・めまい・だるさ・冷え性などです。これらは男性も同じことが生じます。
まぶたが重い、目が開きにくいということはまぶただけの問題ではなく、全身に多くの悪影響を及ぼしているのです。
治療
この腱膜性眼瞼下垂症に対しては、瞼板からはずれてしまった挙筋腱膜を再度、元の位置に固定する「腱膜固定術(けんまくこていじゅつ)」を行います。
従来の眼瞼挙筋短縮術やミュラータッキングと異なり、ミュラー筋を切り取ったり、糸をかけたりしないことが特徴です。この病気の原因となっている部分のみを治療する手術ですので、眼瞼挙筋やミュラー筋は触りません。また、この時まぶたを持ち上げるのを邪魔している抵抗をなくし、より軽く目が開くようにします。また、まぶたの皮膚が分厚い場合は隔膜前脂肪を除去して重さを取り除きます。正常な状態に戻すことを目的として手術を行っています。
実際の手術は局所麻酔で行います(まぶたに麻酔薬を注射して痛みを無くします)。
手術中は痛くありません。術後の痛みもさほどではありません。ただ、手術後3〜4日はひどく腫れます。抜糸は1週間後になります。抜糸をするころには腫れは随分と落ち着いていますが、個人差がありますので、7〜10日を目安にしてください。
手術後は二重になります。その点でも喜ばれる方が多いです。たるんだ皮膚は切り取りますので、若々しくなります。
治療結果
手術後は楽にまぶたが上がるようになるので、ミュラー筋が緩み交感神経の緊張が低下します。肩こりが解消するだけでなく、頭痛・疲労感からも解放されます。
これまでの治療結果は、肩こり・頭痛の改善は10人中9人で自覚しております。
以下の症状がある場合には、眼瞼下垂の疑いがあります。
・目つきが眠そう、悪い
・額の横シワ
・上のほうが見づらい・その結果あごが上がっている
・肩こり・頭痛
・目の上が窪んでいる
・二重が広くなってきた
・二重でなく三重や四重になっている
・コンタクトレンズ(特にハードコンタクト)の長期使用
・花粉症やアレルギーのある方、目をこする習慣のある方
眼瞼痙攣(がんけんけいれん)について
「腱膜固定術」を受けた後に
・眉間のしわが深くなった
・しかめっ面になった
・手術を受けたがまぶたを上げるのがつらい
という方がいらっしゃいます。
その場合は、強直性眼瞼痙攣の可能性がありますので、ご相談ください。
私は手術前の診察で、痙攣になるリスクのある方は予想して、そうならないような治療を行っていますが、100%ではありません。
当院ではその眼瞼痙攣に対しての診察・治療も行っております。他院で手術後になった方も、遠慮なく受診してください。
強直性眼瞼痙攣の治療としては、まぶたの周りの筋肉の減量「眼輪筋(がんりんきん)・皺眉筋(しゅうびきん)の切除」、ボトックス注射、ミュラー筋の緊張を取る手術を行っております。
当院形成外科では、こういった経験も豊富です。
静岡厚生病院形成外科へのQ&A
Q 診察は予約制ですか?
A 予約制ですので、お電話で予約してください。電話番号は054−271−7177です。
Q 診療時間はいつですか?
A 診察日は第2第3第4木曜日です。外来診察時間は午後2時からです。
午前中は手術です。
Q 眼瞼下垂以外のことでも受診してもいいですか?
A もちろんです。形成外科専門医として、眼瞼下垂だけでなく傷痕やほくろなど、なんでもご相談ください。
Q 入院はできますか?
A 対応しておりますので、必要な時は相談してください。
Q 二重やシワの治療はしていますか?
A 自費診療(健康保険が使えない治療)は、ヒアルロン酸・ボトックス・糸で行う二重などのプチ整
形から、たるみ取りまで対応しております。ご相談ください。
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