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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2014.4 NO.437
前立腺肥大症に対する最新治療
遠州病院
泌尿器科 副院長
栗田 豊

前立腺は膀胱の下で尿道の周りを取り囲んでいます。そのため、前立腺が肥大すると、尿道がしめつけられて「尿の出が悪い」とか「トイレが近い(頻尿)」などの症状が出ます。中には、尿閉といって尿が自力で出なくなり下腹部がパンパンに張って救急車で来院される患者様もいらっしゃいます(図1)。
図1
 前立腺の大きさが軽度から中等度(30から40グラム)の場合、症状は薬でかなりよくなりますが、根本的な治療には手術が必要です。手術とはいっても、ほとんどの人は内視鏡を用いた手術で可能です。当院では、ある程度の症状がある場合は手術をおすすめしてます。手術と言うと、それだけで拒否反応を示す方も多いのですが手術がうまくいくと、今までにない若返った爽快感が得られます。
 基本的に薬物療法が中心でありますが、効果が認められない場合は経尿道的内視鏡手術を積極的におすすめしています。当院においては、平成17年より最新型高出力ホルミニウムヤグレーザー装置が尿路結石治療に導入され、平成22年よりHoLEPに代表される、より低侵襲な経尿道的手術が可能になりました。
 前立腺肥大症(BPH)の治療法は、薬物療法および外科的治療に大別されます。排尿障害の程度が比較的軽い患者様には、初期治療として、薬物療法が選択されますが、その種類としては、α遮断薬、抗男性ホルモン薬、その他の薬剤(植物エキス、アミノ酸製剤、漢方薬など)があります。
 中等ないし重症症例に適応される外科的治療法は、従来からの経尿道的前立腺切除(TUR-P)や被膜下摘除術に加え、ラジオ波による高温度治療(TUMT:経尿道的マイクロ波高温度治療術)、あるいは各種レーザーを用いた経尿道的治療、さらにはTUR-Pの切除ループに改良を加え切除と蒸散の両方が可能な方法(TURis:経尿道的蒸散切除術)や経尿道的光選択的前立腺蒸散法(PVP)など多様な改良がなされています。上記治療は、いずれも前立腺腺腫被膜を切開、蒸散し前立腺による下部尿路閉塞を改善します(図2)。
図2
そんな中、内視鏡手術の概念としては、まったく異なった方法が登場しました。それが、ホルミウムレーザー前立腺核出術(holmium laser enucleation of the prostate; HoLEP)です。
 HoLEPは、ホルミウムレーザーを用いた内視鏡下の前立腺核出術です。今まで前立腺核出術は、開腹にて被膜下摘除術という方法を用いて行われていました。HoLEPは内視鏡下に外科的被膜に侵入し、無血管野を剥離し、腺腫被膜を破ることなく前立腺内腺を核出します。
 従来、開腹手術が選択されるような100g以上の大きな前立腺症例に対しても、比較的安全に施行できるもので、有用性が高く、開放手術に替わるminimum-invasive surgeryとして注目を集めています。さらに入院期間が従来のTURPに比較して、短縮される点で今後普及が期待できる治療です(図3)。国内でも保険適応です。
図3
HoLEP治療のメリットの確認 
 HoLEPの特徴は、レーザー光の照射だけではありません。この治療方法は、体への負担がより少ない前立腺肥大症治療を実現します。HoLEP術後の患者様は活力にあふれます。これは紛れもない事実であり、日々外来診療において肌で感じることであります。本手術は術後の経過観察において、患者満足度が高く、生活強度(社会参加、やる気、集中力)が向上していることに注目されています。当院泌尿器科においては、2010年6月よりHoLEPを行っており、現在までに450人以上に施行しております。

1.メスを使用しない、体に優しい手術
 内視鏡を使用する手術ですので、メスで腹部を切る必要がなく、体への負担がより少ない、患者様のQOL(Qualityof Life:生活の質)向上に貢献できる治療法です。

2.安全性の高い手術
 HoLEPに使用されるホルミウム・ヤグレーザーは、水への吸収率が高いため、組織到達深度はわずか0.4oです(図4)。また、ホルミウム・ヤグレーザー は、レーザーファイバーの先端を組織から5.0o離すと組織に影響を与えません。つまり尿道や膀胱内が水で満たされていれば、ほかの組織に影響を及ぼす ことなく照射できます。2.0o以下の距離では、組織の切除が可能となり、同時に組織を焼くことで止血が行われます。そのため、出血が少なく、切除痕の 回復も早く、結果的に入院期間も短縮されるといったメリットも生まれます。
図4

3.痛みが少ない手術
 このHoLEPは、前立腺組織のうち、血管が少ない外腺と内腺の境目を切除しますので、出血や術後の痛みが少ない手術です。そのため、鎮痛薬を使用する頻度が少なくなっています。

4.合併症が避けられる
 HoLEP同様、内視鏡を使用する前立腺肥大症手術であるTURPは、非電解質の灌流液(手術の際の出血や切除した組織を洗い流すための液体)が体内に 吸収されることによる「低Na血症」という合併症を起こすことがあります。しかし、HoLEPでは、血液・組織液と浸透圧が等しい生理食塩水を灌流液とし て使用できるため、この「低Na血症」の問題が解決されます。

5.再発の可能性がきわめて低い
 HoLEPでは、肥大した前立腺組織(内腺:腺腫)を核出するため、残存組織が少なく、再発の可能性が減少します。

*HoLEP術後の注意点
 レーザーにより核出された尿道粘膜が再生され、手術局所が完全に治癒するまでに約2〜3ヶ月かかります。手術後1ヶ月間は日常生活で次のような点にご注意ください。
1)たくさん水分をとる。
  ・ 尿路感染症を防ぐためです。
  ・ コップ5〜6杯/日以上が飲水量の目安です。
  ・ 水、お茶、スポーツドリンクなどをお勧めします。
 
2) 自転車、アルコール、スポーツ、長期座位(旅行など)を控える。
  ・ 術後1ヶ月くらいは出血することがあります。

3)便秘を解消する。
  ・ 下腹部に力が入ると出血の危険があります。
  ・ 便秘症の方はお知らせください。
人生80年時代の前立腺肥大症治療戦略
日本は超高齢化社会を迎えると同時に、日本人の平均寿命も延長しつつあります。男性平均寿命は79・22歳となっています。前立腺は食事の欧米化や生活環境の向上により肥大傾向にあり、前立腺肥大症の罹患率は急増しています。高齢化により併存疾患が増加し、耐術能力が低下し、さらに前立腺は巨大化するため尿閉を来たし尿道カテーテル留置を余儀なくされる患者様が増加しております。HoLEPは低侵襲治療でありながら根治性が極めて高く、アンチエイジング手術としての価値を高めつつあります。
 人生80年時代を迎える前立腺肥大症治療戦略として、今後ますますHoLEPは重要な役割を担うと考えられます。
 



JA-shizuokakouseiren.2012.7.9