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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2014.2 NO.435

大規模災害に備える
〜1次トリアージについて〜

清水厚生病院
静岡県看護協会災害支援ナース
河西 美枝

はじめに

 わが国では、近年頻発する災害が問題となっています。地震や台風などの自然災害が多い日本では、国・都道府県・市町・地方公共団体などありとあらゆるところで、災害対策における指針の見直しが早急におこなわれています。また、地域住民とともに大規模災害を想定した机上訓練や、実動訓練が盛んにおこなわれています。
 昨年6月には「静岡県第4次地震被害想定」が報告され、「知る」・「備える」・「生き残る」をテーマに防災ガイドも作成されました。
 災害時には多くの怪我人(以下傷病者)が救護所に訪れ、大混雑が想定されます。そこで今回は救護所における「一次トリアージ」についてお話します。

トリアージとは? 選別と言われますが

 トリアージは選別と訳されますが、大災害などが起こると短時間で大多数の傷病者が発生します。医療スタッフや資機材、医薬品などの医療資源には限りがあります。そのため救命可能な傷病者を選別し、治療・搬送の順位を決める必要性が生じます。限られた医療資源を最大に有効活用しながら、傷病者の救命に最大の効果を上げるための技術、システムがトリアージです。
 したがってトリアージには、たすかる命を救うため、救命の可能性が低い傷病者に対して「治療の適応なし」という苦渋の決断を迫られる厳しい場面もあるということを忘れてはなりません。

赤・黄・緑・黒ってなに?

  トリアージの結果、傷病者は4つのカテゴリーに分類されます。優先度の高い順にカテゴリーT・U・Vとし、救命不可、不搬送、死亡群は0と表記します。色別では、それぞれ赤・黄・緑・黒の順となります。赤は重症患者、黄は中等症患者、緑は軽症患者です。

トリアージの実施場所と実施者

 災害時、皆さんが怪我をしてまず始めに行くところは、それぞれの地域にある「救護所」です。
 自分の住んでいる地域の救護所がどこにあるのか、確認しておくことはとても大切なことです。
 ほかに、トリアージは災害現場でも行われます。トリアージを行う人は、傷病者の緊急度や重症度を短時間で判断するための知識・技術を持ち、リーダーシップのとれる資質のある者が望ましいとされます。災害時には、さまざまな場所でさまざまな職種の人がトリアージを行うことになります。

トリアージの方法とながれ

 最初に行われるのが「一次トリアージ」(ふるい分け)です。この段階では、傷病者の状態をできるだけ迅速に、簡易・正確に評価することが求められます。日本では大多数の傷病者をトリアージする手法にSTART(Simple Triage and Rapid Treatment) 法が用いられています。この方法では、一人の傷病者を30秒以内で判定していきます。START法はまず、歩行を確認します。歩行可能な傷病者を軽症者のゾーンへ誘導します。
 次いで残った傷病者を、気道→呼吸→循環→意識の確認を行います。循環の確認は、毛細血管再充満時間( C R T ) によって行われます。CRTは指の爪を5秒間圧迫し、パチッと離してから色が元に戻るまでの時間により判定され、その時間が2秒以内であれば正常です。寒冷地や暗い場所、マニキュアが塗られている時は手首の動脈を確認し、脈拍数で判定します。(触知可・50120回/分)意識の確認は、「目を開けて下さい」「手を握って下さい」など、声をかけて従命反応を見て下さい。
 トリアージは、判定者と記録者の2名一組が理想です。全ての項目をチェックするわけではなく、カテゴリーが決まったら次のStepには進みません。原則として、治療・処置は行いません。
 実施するのは、気道確保と止血のみです。
 時間の経過とともに、医療スタッフなどの医療資源や傷病者の数などは変化します。また傷病者の状態も刻々と変化し応急処置や移動によって好転したり、悪化することも考えられます。そのためトリアージは何度でも繰り返し行われます。(図1参照)

 図1

トリアージタッグの運用

 トリアージタッグは、個々の傷病者のトリアージカテゴリーの判定結果を記載するものです。
 重症度や緊急度が一目でわかるものであり、カテゴリーに応じてカラー部分をはぎ取ります。トリアージタッグは3枚複写になっており、災害時カルテとして、また安否情報として利用できます。1枚目は災害現場ではぎ取られ、2枚目は搬送救急隊にて病院到着時にはぎ取られ、3枚目は収容医療機関にてカルテとして使用されます。タッグを付ける箇所は、優先される順に、右手→左手→右足→左足→首です。必ず傷病者の身体に付け、洋服や靴などには付けません。タッグは災害現場や救護所で完成させること、あらかじめ記載できるところは記入しておくなどの工夫、ぬれても消えない黒のボールペンで記入するなど留意します。再トリアージを行った際に、重症化した場合は区分に二重線で訂正しカラー部分のもぎりを追加する。また、軽症化した場合は前のタッグに×印をつけ、新たに2枚目のタッグを付ける。前のタッグは絶対に捨ててはなりません。はぎ取ったカラー部分も、はぎ取ったタッグも絶対に捨ててはなりません。(図2参照)

 図2
災害弱者について

  小児、高齢者、妊婦、基礎疾患のある傷病者(透析患者)、旅行者(外国人)などは、災害弱者として扱い、一見軽症でも必要に応じてカテゴリーを上げる場合があります。この適用は、重症傷病者数と提供できる医療資源のバランスにより判断されます。

搬送先・収容先の病院について

  災害発生時は通常の外来業務は停止し、病院は「災害対応モード」に切り替わります。
 静岡県医療救護計画書のなかで医療救護施設の区分が策定されています。
「外来はやっている」
なんて勝手に行っても診てはもらえません。ちなみに当院は「救護病院」です。重症と中等症の傷病者の収容と治療を行います。(図3参照)

図3

おわりに

 私たちは、全職員「災害に強い病院」として減災に向けて危機管理意識を継続するため、様々なプログラムを検討・実施しています。ところで、皆さんは「市民トリアージ」という言葉を耳にしたことはありますか?災害時は医師も看護師も不足します。そのため医療従事者以外の人達もトリアージを行わなければならない場面もあり、一般市民の方々に協力をお願いすることも考えられます。
 一般市民の方々がトリアージを行うことに対して様々な意見が聞かれますが、一般市民の方々にも災害時の医療についての基礎的なものは学んでいただき、是非、災害時は私達医療従事者と連携を図って災害時医療の支援をお願いしたいと思います。
 当院では、「災害時の医療」「トリアージ」「一次救命処置」等の学習会や講習をおこなっていますので、お気軽にご相談ください。




JA-shizuokakouseiren.2011.5.31