高血圧を放置していると、脳卒中や心筋梗塞などの合併症発症のリスクが増加して、結果的に正常な方に比べて死亡のリスクが高くなるおそれがあるからです。ですから高血圧治療の究極の目的は血圧を適度にコントロールして、合併症のリスクを減らし、血圧が正常の方々と同じくらい長生きをすることです。
バルサルタンを含むアンギオテンシンU受容体拮抗剤は、心臓や腎臓に対してよい作用があることが欧米の研究で報告されていることから、日本(人)でも同様の結果が出ることが期待されていました。今回の事件は、この様な背景で、バルサルタン市販後に付加価値をつける目的で行われた試験で発生したものです。降圧効果だけでなく、他に望ましい効果(心筋梗塞や脳卒中などの合併症の減少、腎臓保護作用など)が確認できればより使用しやすい薬になるわけです。くどいようですが、バルサルタン(ディオバン錠)の血圧を下げる効果に疑いがあるわけではありません。現在高血圧症の治療のために服用している患者さんで、血圧がうまくコントロールされていれば、変更をしなければならない医学・薬学的な理由はないように思います(ただし、同じような効果の薬もありますので、変更することも可能と思われます)。しかしながら、実際に多くの患者の皆様に参加をお願いした臨床研究で、この様な不祥事が発生したことに対して非常に残念に思います。
薬の有効性や安全性を確認するには、実際に患者の皆様の参加・協力がどうしても必要です。しかし、参加していただく患者の皆様の権利や安全性が常に優先されることから、「知らないうちに試験に組み込まれていた」ということはありません。また、臨床研究が適正に実施され、質の高い結果を導き出すために、厚生労働省は「臨床研究の倫理指針」を定めていますが、まだ医療従事者の間では充分に認知されていないようです。今回の事件を教訓として、厚生労働省は臨床研究の実施に関しての規制を強化するようです。これは医学・薬学のさらなる発展のためには非常に重要なことで、「災い転じて福となす」になることを期待して止みません。
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