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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2013.10 NO.431
便秘入門講座
〜便秘でお悩みの方に〜
清水厚生病院
外科診療副部長
成島 道樹

はじめに

  便秘で悩まれている方は多いと思います。国民生活基礎調査によると便秘で悩む人は全国で六六〇万人と報告されており、各年代別にみると、どの年代でも男性よりも女性の方が多い傾向にあるようです。今回は、身近な便秘に関する基本的なお話をまとめてみました。

便はどうやってできるの?

 口から入った食べ物は小腸で栄養分が吸収されたのちに大腸にやってきます。大腸で水分が吸収されますので、食後約57時間後に右側の大腸(上行結腸)で流動体であった内容物は次第に粥状になり、食後約912時間後に左側の大腸(下行結腸、S状結腸)では半固形状から固形状になります。そして食後約2472時間後に排便されます(図1)。

図1

便秘とは?

 “便秘”といってもその定義はやや曖昧で、排便頻度が数日に一回程度に減少し、排便間隔不規則で便の水分含有量が低下している状態(硬便)を指します。しかしながら排便習慣はもともと個人差が大きいですので、毎日排便があっても硬便や排便困難を感じる場合もあれば、逆に排便が二、三日に一回であっても排便に苦痛を感じない場合もあります。問題となるのは“排便困難や腹部膨満感などの症状を伴う便通異常”であり、これを“便秘症”の状態といいます。
便秘のタイプ

 便秘のタイプには、大腸の動き(蠕動運動)が悪くなっておこる“機能性便秘”と、大腸にがんやポリープができて腸管を狭くするためにおこる“器質的便秘”に分類されます。

 前者には、大腸の緊張が緩んで蠕動運動が弱くなっている弛緩性のものや、S状結腸の運動が強くなりすぎて腸管が細くなるという痙攣性のものがあります。また便が直腸まで到達しているのに反射が鈍くなって便意を感じなくなっている直腸性のものもあります(図2)。

 一口に便秘と言いましてもこのようにいろいろなタイプがありますし、がんやポリープなどの病気が隠れている場合や複数のタイプが合併している場合もあります。今後の便秘対策を立てるうえで、ご自身の便秘がまずはどのようなタイプの便秘なのかをはっきりさせることが重要になってくるのです。

 

 図2 便のでき方と便秘のタイプ
便秘対策

 一般的に“便秘”というと“機能性便秘”が多く当てはまるかと思いますが、この場合すぐ薬に頼るのではなく、まずは“生活習慣”、“食事”、“体操”による改善を目指します。
 仕事などを頑張り過ぎているうちに、おしりを悪くしている方が多いようです。適度な休憩が重要です。

生活習慣

  便秘対策の第一歩として、腸の動き(蠕動運動)を促すような生活習慣を心がけることが大事です。キーワードとしては、“副交感神経”と“腸への刺激”です。

 自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は激しい活動をしている時に活性化されますので興奮モードといえます。一方、副交感神経は内臓の機能や腸の蠕動運動が含まれ、リラックスモードです。この両者は約12時間周期に繰り返し優位になりますので、自律神経のバランスに応じた生活習慣を整えると腸の動きのみならず体そのものにとっても適した生活となります。 

朝日を浴びます コップ1杯の水を

 
朝起きてまず行っていただきたい大事な行動がいくつかあります。それは朝日をしっかり浴びて時計遺伝子をリセットし交感神経系のスイッチを入れることと、起床後に一杯の水を飲んで腸に潤いと刺激を与えることです。それから朝食としてバナナ一本でもいいからとにかく何かを食べるという行為が腸の動きを促します。それらを終えたあと必ずトイレに行くことを習慣づけます。“朝は排便する”ということを体に覚えさせるのです。こうして朝の段階で自律神経系のリズムを作ります。


きちんと朝食
トイレにいく習慣


日中は適度な運動を行うことで腸に刺激を与えます。夕食は就寝の3時間前までには済ませるのが望ましいです。食後すぐに寝てしまいますと、交感神経が高いまま眠ることになり、副交感神経によって行われる腸での消化・吸収が不十分となってしまうからです。

 入浴はぬるめのお湯に15分くらいつかることで、深部温度をゆっくり上げ副交感神経を高めます。副交感神経は24時に活動のピークを迎えますので、22時以降には早めに就寝し、疲れた体を休ませることが大事なのです。


ぬるめのお湯で入浴

22時以降は就寝

食事

 
 食事は毎日毎食のことですので、便秘にとっても重要な役割を果たします。便秘には食物繊維と乳酸菌・発酵食品の摂取が推奨されています。どうしてでしょうか?そもそも腸内には腸内細菌がすんでいます。その内訳は善玉菌が2割、悪玉菌が1割、どちらでもない日和見菌が7割です(図3)。この腸内細菌の働きは、病原菌を排除したり、消化を助けたり、ビタミンを合成したり、“幸せ物質”の前駆体(セロトニン、ドーパミン)を脳に送ったり、免疫力をつけたりとじつに多彩です。善玉菌は食物繊維を好んで食べて増えますし、善玉菌が優位になれば腸の動きも活性化します。また乳酸菌・発酵食品は善玉菌を増やしますので乱れた腸内細菌の環境を整えます。
 具体的な食べ物を紹介いたします。例えば、さつまいも、バナナ、たけのこ、ゴボウ、にんにく、納豆、おから、めかぶ、オクラ、ヨーグルト、あずき、漬物、調味料では醤油・味噌 などがあげられます。これらを含んだ特製メニューをぜひ考案してください。
 美味しいものを食べて腸の動きを良好にし、さらには“幸せ物質”をたくさんつくり、もっともっと幸せになりましょう。

図3 腸内細菌の割合 

体操

 腸は外から刺激を受けるとすぐに反応します。ですから腸を刺激する運動やマッサージを取り入れることは非常に効果的です。以下にいくつかの例をあげていきます(図4)。

 リラクゼーションやストレッチを行い、副交感神経を上げることで腸の蠕動を促します。就寝前に行えば、睡眠の質も向上します。自律神経が整い、腸内環境も改善し、体調が良くなっていきます。

 腹部を“の”の字にマッサージすることや体幹ツイストのように上半身と下半身を逆に捻るような運動は腸の蠕動を促します。就寝前や排便の前などに行うとさらに効果的です。

 女性や高齢者で腹筋が弱い方は、腸に腹圧が上手くかけられず蠕動運動が起こりづらくなります。腹筋運動を行うことで、排便時に使用する筋肉を鍛えます。

 またわり・肛門ツイストは、肛門括約筋を刺激するトレーニングです。肛門括約筋を鍛えて排便時のセンサー機能の低下を予防し、スムーズな排便を促します。


図4 ストレッチやマッサージ
薬物療法

 便秘に対して、生活習慣も改善し、食事を食物繊維と乳酸菌・発酵食品を十分に摂取するよう心がけ、マッサージやトレーニングなどを行っても、なおかつ便秘が続くような場合には、薬物療法が必要となります。

 お薬のなかでもまずは緩下剤といわれる“便を軟らかくする”タイプのものから試すと良いです。習慣性が少ないですので比較的使いやすい薬といえます。便が直腸まできているのになかなか排便まで至らないような場合には、便意を催すような坐薬が適しています。また漢方との相性が良いという方もおられます。それでも排便が得られない頑固な場合には、刺激性下剤といわれるタイプの下剤を試すと良いかもしれません。ただし漫然と使用しますと習慣性になり効きにくくなるため注意が必要です。
 いずれにしましても薬には注意点や副作用がありますので、かかりつけ医と相談しながら調整することをお勧めします。

おわりに
 便秘の対策としましては、生活習慣・食事・体操などにより少しでも便秘になりにくい状況を整えることがとても重要です。それでも便秘に悩まされる場合に、はじめてお薬の力を借りることになります。また今回は詳しくご紹介できませんでしたが便秘の原因となるような疾患は多数あります。主治医やかかりつけの医師とよくよくご相談してください。



JA-shizuokakouseiren.2012.7.9