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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。  2013.4 NO.425
尿路結石のお話
遠州病院
泌尿器科 診療部長
 新 保  斉

はじめに
 この特集をいま読まれている方に、尿管結石で苦しんだ経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。激痛で、病院に駆け込まなくてはならないことも稀ならずあります。全国的な統計では患者さんの数も増加しており、未だ他人事である方も、今後、突如、自分の身に降りかかってくる可能性があります。今回は、こうした尿路にできる結石について、少しお話をさせていただこうと思います。

尿路結石とは
 尿路結石とは、文字通り尿路にできる、あるいは発見される結石のことをいいます。尿は左右の腎臓で作られ、尿管という直径数ミリの細いパイプを通過し、最後に膀胱に貯められ、一定量を貯めた後、尿道から排出されます。この腎臓から尿道までの尿の通り道を尿路といいます。結石は、主に腎臓で尿に溶けている物質が濃縮、結晶化し生成されます。腎臓にあるときに見つかれば、腎臓結石と呼ばれ、腎から尿管に移動しているときに発見されれば尿管結石といわれます。膀胱にあるものを膀胱結石と呼ぶことになります。膀胱結石は、腎臓でできた結石が流れてきた場合と、膀胱の他の病気が原因でできてしまった場合があります。

尿路結石は増加している
 2005年の専門家の調査によると、男性の15・1%、女性の6・8%が、一生の間に結石ができてしまうとのことです。また、尿路結石の発見者数も増加の一途をたどり、今では人口10万人あたり300人に新しく結石が見つかってきているとされています。その数は40年前にくらべ3倍で、また、ほんの10年前の2倍にもなっています(図1、文献)。
 結石患者数のこうした上昇には、食生活、生活様式の変化による結石生成の増加、CT、超音波検査の普及による発見の早期化、健診者数の増加による早期発見例の増加、などが関連しているといわれています。


図1 年間結石発見患者数


症  状
 患者さんにとって悩ましいのが、激烈な痛みです。この痛みは結石が存在することだけで生じるものではありません。痛みを生じるのは主に尿管結石の場合で、腎臓から移動した結石が細い尿管にひっかかり、はまり込むことにより尿の流れを止めてしまうことに起因します。結石がはまり込んだ部位から上方の腎臓から尿管に尿がたまり、その部位が膨れることで痛くなると考えられています(図2)。尿管のどこ
で結石があるかにもよりますが、結石のある側の腰、脇腹、下腹部に痛みを感じます。こうした痛みは、数時間程度持続しますが、鎮痛剤等で軽減させることが可能です。腎臓にある結石は、尿の流れにはほとんど影響を与えず、腎臓が腫れることがないため、結石があることだけでは痛みを生じず、無症状の場合がほとんどです。膀胱結石も症状がない場合が多いのですが、時に排尿時の痛みを生じることがあります。
 血尿も、よく見られる症状で、これを契機に受診される方も多くみられます。検尿で偶然、血尿を発見され、その後尿路結石が見つかるケースもあります。
 一方で、先に述べたCT、超音波検査の普及により他疾患の検査中に偶然発見されたり、健診で早期発見されたり、と全くの無症状のことも多くみられます。

図2 結石による腎尿管の腫れ

感染の併発
 結石による痛みも問題なのですが、それ以上に注意しなければならないのが、尿管結石が原因となって生じる尿路感染症です。結石には、多少の細菌がついているといわれています。そうしたわずかな細菌は、通常、尿の流れにのって体外に排出され、特に問題は生じません。しかし、結石が尿管内に移動し尿の流れが滞ると、細菌が体外に排出されず、腎臓か尿管の中で増殖することになります。行き場のない増殖した細菌はやがて、体内にしみ込んでいき細菌が体中に行きわたってしまいます。発熱、痛みが生じ、進行すると他の内臓(心臓、肺、肝臓など)への障害が引き起こされ、命の危機に直面するケースも稀ながら見られます。これは早ければ1日で進行してしまうこともある非常に危険な状況で、早急な対応が必要となります。

腎機能の低下
 もう一つ、結石により引き起こされる問題として、腎臓機能の低下が挙げられます。尿管に結石が詰まり、尿の流れに障害が起きてくると、尿を産生している腎臓までの尿管の中の圧が高くなります。こうした状況は、腎臓の細胞を破壊していきます。早期の治療がなされるなど、尿管内の閉塞が一時的な場合は、あまり問題にはなりませんが、これが長期間続くと、腎臓機能の低下がはっきりしてくることになります。大事な腎臓を、たった一個の結石のためにダメにすることになります。腎臓機能が障害されると、心臓、脳血管の重大な病気を引き起こす可能性が高くなることが、近年明らかとなってきています。尿管結石は痛みなど一時的な問題として考えられがちですが、痛みがなくなった場合でも安易な治療の自己中断は禁物で、尿管内の結石が排出されたことを確認する必要があります。

結石治療
 結石が発見された場合、結石を砕く(砕石といいます)必要がある場合と、砕石を行わずに経過を見る場合があります。一般的には結石の大きさによりその判断を行います。腎結石の場合、1p未満では症状がなければ、結石の増大がないか定期的な検査を行うこととし、1p以上の場合は砕石を行う方針となります。尿管結石では、5〜7o以下の場合自然に排出される可能性が高いので、水分および鎮痛剤、結石排出促進剤を用いて自然排出されるまで経過観察します。一方、8o以上であれば自然に排出される可能性が低いと考え、積極的に何らかの砕石を行います。こうした基準は、大まかな目安であり、実際には、患者さんの医学的あるいは社会的状況も加味して、対応を決定していくことになります。

砕石治療の方法(図3)
 砕石治療には主に、
1)体外衝撃波結石破砕術
  (Extracorporeal shock wavelithotripsy : ESWL)
2)経尿道的結石砕石術
3 )経皮的結石砕石術
があります。結石の状況(位置、サイズ、数)、あるいは患者さんの状況(併存する病気の有無など)などを考慮して治療を選択していきます。


図3 砕石治療

1)ESWL
体外の装置が発生する衝撃波を結石にむけて集中させ、結石を砕いて砂状にした上で、尿と一緒に体外へと排出させる治療法です。麻酔は必要とせず、30〜60分で治療が終了し、体への負担も少ない治
療です。
2)経尿道的結石砕石術
尿道口から結石の直下までの尿管鏡を挿入、尿管鏡で結石を確認しながらレーザーなどを用いて細かく破砕する方法です。麻酔を必要とし、ESWLに比べればやや侵襲的ですが、ESWLで砕石できないケースで、確実に砕石することができます。
3)経皮的結石砕石術
背中より内視鏡を腎臓内に直接入れ、結石を破砕する治療です。先の二つの比べ、侵襲的な方法ですが、腎臓に大きな結石ができてしまっている場合などは、この方法が必要なこともあります。

結石はなぜできる?
 腎臓の中で、シュウ酸カルシウム、リン酸、尿酸などが尿の中で飽和状態となり、結晶が析出します。結晶核が形成されると表面にシュウ酸、リン酸、カルシウムが付着し、結晶はさらに成長、結石が形成されます。微小な結晶や結石は無症状のうちに絶えず尿中に排泄されますが、腎内で無症状のうちにある程度まで成長してしまうと、症状がでて、検査で確認できるようになってきます。結石の組成にはいくつものパターンがありますが、大きくカルシウムを含む結石(シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム)、尿酸でできている結石、細菌感染のある際にできる結石、その他に分けることができ、結石の80%がカルシウム結石といわれています。尿の中に結石の成分であるカルシウム、シュウ酸、尿酸が多くなると結石ができやすくなります。

結石の予防
 近年は、尿路結石は生活習慣病の一つであるとの認識が一般化しています。一度、尿路結石を発症した場合、その後の5年で約半数の方に、新たに結石ができるとされています。遺伝の要素もあるとされていますが、生活習慣、食習慣に大きく影響を受けると考えてよいでしょう。肥満、動脈硬化性疾患(高血圧、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など)、痛風、高脂血症など強く関連しており、尿路結石患者さんの多くに、これらの病気がみられます。脂肪、塩分、砂糖・果糖、動物性蛋白質の摂取は、尿の中のカルシウム、シュウ酸、尿酸を増加させ(図4)、クエン酸を減少させることがわかっており、生活習慣病、メタボリックシンドロームで謳われる食事に関する注意は、尿路結石についても同様で、バランスの良い食事を維持すること、脂肪、塩分、砂糖・果糖、動物性蛋白質を摂り過ぎないことが重要となってきます。また、尿量が少ないと、尿が濃くなり(尿の中のカルシウム、シュウ酸、尿酸の濃度が高くなる)結石ができやすくなりますので、水分を多め(尿量が1日2リットル以上でるように)に摂るよう心がけましょう。また、就寝前の食事は避けたほうがよいと考えられます。食事をした後、不要となった各種の物質が尿に排出されます。そのピークは食後2〜3時間とされており、その時の尿では、結石生成に重要なカルシウム、シュウ酸、尿の濃度が上昇していますので、結石が成長しやすくなります。また、就寝時には一般的に尿の量は減少し、また体を寝かせることでさらに尿の流れが悪くなり、これも結石を作りやすくします。

おわりに
 尿路結石は、患者さんの側から見れば、一番の問題は強い痛みですが、医学的な視点からは、痛みのみならず細菌感染や、腎臓機能の低下がさらに問題となります。そうした問題を重症化させないために、早期の適切な対応が必要となります。もし結石が見つかった場合は、症状の有無にかかわらず、医療機関できちんとした治療、経過観察などの具体的方法について検討してもらいましょう。
 尿路結石は、生活習慣病の一部です。尿路結石が見つかった場合は、まずゆっくり、ご自分の生活習慣、食習慣を見直してみてください。再発を防ぐのは、生活習慣病予防とほとんど同じ方法です。






JA-shizuokakouseiren.2011.8.24