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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2013.2 NO.423
「緩和ケア」について
清水厚生病院
外科医長
岡上 能斗竜

はじめに
 1年間に約34万人の人ががんで亡くなられ、約66万人の人が新たにがんと診断されています。
 がんは1981年以降現在まで死因の第1位であり、今後も高齢化の影響もあって、がんにかかる人はますます増加し、がんで亡くなる人も同程度で推移していくと予想されています。男性は2人に1人、女性は3人に1人ががんと診断される時代です。
 がん患者にとって最も重要なことは、治療をしてがんを治すということであるのは言うまでもありません。
 一方で、がんを経験・治療すること
で、がんが完治してからも続くような長期的影響についても研究がされていて、治療の過程やその後に重点を置いた「がんサバイバーシップ」という概念が広がりつつあります。
 今回取り上げた「緩和ケア」も、病気そのものではなく、病気となった人あるいはその家族に目を向けて、治療を支えていこうとする取り組みです。少し関わりにくい点もあるとは思いますがご紹介させていただきます。

「緩和ケア」とは
 世界保健機関(WHO)では、「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな(霊的な・魂の)問題に関してきちんとした評価を行い、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、QOL(生活の質、生命の質)を改善するアプローチである」と定義されています。
 もう少し分かりやすく言いますと、「つらくないようにがんと付き合っていくための方法を提供すること」です。ここで強調しておきたいことは、病気の早い段階から始めるということと、患者だけでなくその家族も対象となっていることです。

「緩和ケア」はがん末期の医療?
 残念ながら現在の医療では、がんの場合は治療の成功が必ずしも治癒につながない現状があります。
 治癒を目指した治療後の経過観察の過程で、がんが再発してしまう人がいます。また治癒する人の場合も、がんの種類にもよりますが、治癒と判断するまでに少なくとも5年の月日が必要です。がんと戦うことは長く、からだとこころに大きな負担を背負っているのです。
 緩和ケアの対象は、治癒を目指した治療が終了した人だけではありません。もちろん、がんが進行している患者さんにとっては、直面している問題が多様であり緩和ケアが非常に大きな役割を果たします。
 しかし手術や抗がん治療中の患者さんにとっても、つらさに対処することはがん治療と同じように大切であり、緩和ケアを早い時期から取り入れることで安心してがん治療を受けることができます。特に最近ではこの早期からの緩和ケア導入が盛んに言われています。
 なじみやすい考え方ではないかも知れませんが、がんと診断された時点で緩和ケアは開始されるべきなのです(図@)。

 図@


「緩和ケア」の内容〜痛みを和らげる
 緩和ケアにおいて最も重要なことは、痛みをはじめとする患者の症状を和らげる(緩和する)ことです。
 がんに伴う痛みのことをがん性疼痛といいます。体の痛み(身体的苦痛)に対しては、一般的に使用する鎮痛薬の他に、医療用麻薬と呼ばれるものが使用されます。
 よく聞くモルヒネもその一つですが、モルヒネ以外にも様々な薬が使われています。
 モルヒネというと、「死期を早める」とか「依存性がある」といった印象をお持ちの方も多いと思いますが、誤解されているような副作用は認められないことが明らかになっており、外科の領域ではがん性疼痛だけでなく、手術後の傷の痛みに対しても使われる一般的な薬です。
 医療用麻薬を上手に使うことで多くの身体的苦痛を緩和でき、質の高い生活を維持・実現するためには無くてはならない薬です。

病院での緩和ケア〜緩和ケアチーム
 がん患者は先に説明した身体的苦痛だけではなく、痛み以外の症状や精神的、社会的な苦痛を抱えており、それらが複雑に絡みあって一つの痛みとして表現されます。これをトータルペイン(全人的苦痛)といいます(図A)。
 これらに適切に対応しようと思うと、一医師の能力を遥かに越えてしまうことは容易に理解されると思います。そのため、病院では緩和ケアチームと呼ばれる様々な専門職種が集まったチームが、主治医と協力して多面的に問題解決にあたります。
 当院の緩和ケアチームのメンバー(図B)も、医師、看護師(病棟・外来・訪問看護ステーション)、薬剤師、栄養士、理学療法士、医療ソーシャルワーカー、事務職などから構成されています。多職種がチームを組むことで偏りのないケアを提供しています。

 図A

 図B 緩和ケアチーム


地域での緩和ケア
 先ほど緩和ケアは多職種が協同で行うものと説明しました。では病院でなくてはできないのかというと、決してそのようなことはありません。
 緩和ケアは自宅でも受けられます。そのために必要な医療・社会資源が地域には整備されてきています(図C)。
 そもそも緩和ケアは、がん患者の生活の質を改善することが目的ですので、病院に備わっている専門性だけではなく、職業性を離れた生活者としてのかかわり合いができる地域の魅力がもっと生かされるべきです。
 ただ実際は介護力不足などの問題でなかなか自宅での緩和ケアの提供は進んでいません。そのため、病院と診療所との連携を強め、安心して自宅で過ごせるように取り組んでいます。
 同時にそれぞれの地域で、がんについて考えること、自分たちの最期について考えるような機会があれば、地域で支える緩和ケアの新しい動きのきっかけになるものと思います。

 図C 在宅での連携


おわりに
 はじめに述べましたが、がんと診断された場合、その種類や病期(進み具合)に応じた最善の医療を受けることが望ましいことは論を待ちません。
 しかしながら、治療中や終了後に続く治療に関連した症状や、治療が望ましい結果をもたらさなかった場合に起こる様々な問題も考えなくてはなりません。
 がんと診断された時に、治療の専門性だけではなく、そうした点にも目を向けて、柔軟に対応できる病院を選んでいただきたいと思います。
 ここ最近「終活」という言葉を耳にする機会が増えました。自分の人生の終わりをどう考え、どう準備するかということに関しては、非常に意味深いものと思います。
 葬儀やお墓、遺産・遺言、保険などの話題がクローズアップされがちではありますが、今回の話の延長として、医療の面からも考える機会になれば幸いです。



JA-shizuokakouseiren.2012.7.9