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JA静岡厚生連 機関誌「すてっぷ」特集記事です。 2013.1 NO.422
エイズとその検査について
(HIV検査)
リハビリテーション中伊豆温泉病院
臨床検査科 技師長
久保田 明

はじめに

 エイズは昭和56年にはじめて報告され、国内では昭和62年頃から新聞などで報道され始めました。当時のイメージは『死の病気』『男性同性愛者の病気』でした。
 わが国では、毎年HIV感染者・エイズ患者数は少しずつ増加しています。
 しかし、医療の進歩により、エイズ発病前に検査で感染が見つかり治療を開始すれば、発病しない状態を長く維持できます。このため検査がより積極的に推奨される時代になりました。

エイズ(AIDS)?
 HIV感染=エイズではありません。
 HIV感染とはヒト免疫不全ウイルス(エイズウイルス)が身体に入り込み感染し、少しずつ免疫機能が低下していく状態のことです。ただし、この時期は自覚症状はあまりありません。
 エイズとはHIV感染を長い間(約10年)治療しないで放置し、厚生労働省が定めた合併症(日和見感染症・悪性腫瘍など23疾患)を発症した場合、エイズ(後天性免疫不全症候群)と診断されます。(表1)
 日和見感染症とは、私たちの身体にある自己防衛する為の、免疫機能が弱まり、健康な人なら何でもない細菌・ウイルス・カビなどに抵抗力が無くなり、病気にかかることです。


表1

HIV感染の原因
  感染力は弱いウイルスですので、少量のHIVでは感染しませんし、人の体内に入らなければ発育することができません。
 HIVは感染している人の血液・精液・膣分泌液に多く含まれ、主な感染経路は3つあります。
  @血液による感染
 HIV感染者が使用した注射器及び刺青(タトゥー)・ピアス等の血液が付着した器具の使い回しなどによって感染します。ただし、HIV感染者と、感染していない人を、見分けることができないため注意が必要になります。
 HIV感染者の血液が傷口に大量に付着した場合、感染することがあります。傷口は血管が開いている為にウイルスが体内に入り易いからです。
 また、1980年代(昭和55年頃)にはHIVの混入した血液製剤を治療に使用していたことが原因で血友病患者さんの約2000人が感染しました。
  A性行為による感染
 HIV感染者の精液や膣分泌液が相手の性器や肛門・口などの粘膜(口・のど・膣・尿道・直腸などの常に粘膜液で湿っている組織)から体内に入ることで感染します。粘膜は物を吸収し易い組織ですので、ウイルスも入り込みます。さらに、クラミジア・淋病などの性感染症に感染していると粘膜が壊れてHIVに感染しやすくなります。性行為におけるコンドームの使用はHIVに限らず性感染症に有効な対策の一つです。
  B母子感染
 HIV感染している母親から赤ちゃんに、感染することがあります。主な感染ルートは、妊娠中の胎盤からの感染、出産時の血液による感染、出産後の母乳からの感染があります。この場合の感染率は約25%ですが、妊娠中から母子感染の予防対策を行うことにより感染率は1%以下になります。
日常生活での感染?
 血液・性行為による感染に注意していれば、日常生活では感染することはありません。
*体に触れたり握手しても大丈夫!
*軽くキスしても大丈夫!
*セキや汗や涙に触れても大丈夫!
*蚊やダニ等に刺されても大丈夫!
*お風呂の共同利用も大丈夫!
HIV検査について
 HIV感染後、エイズ発症前の治療開始や感染の拡大防止のためには感染者の早期診断が重要です。多くの方に検査を受ける意識を持ってもらう事が非常に大切です。
 HIV検査は採血し検査を行います。エイズの原因ウイルスであるHIVに感染しているかを調べる検査です。
 まず、HIV感染の可能性をスクリーニング検査(HIV抗体検査または、抗原抗体検査)で行います。陽性になった場合は、さらに別の方法(確認検査)で検査が行われます。この検査で陽性が出た場合はHIV感染していると判断され、陰性が出た場合には感染していないと判断します。この場合、スクリーニング検査の結果は偽陽性(検査上陽性で実際には感染していない:非特異的反応)と考えられます。
 また、実際はHIVに感染していてもスクリーニング検査で陰性となる場合もあります。HIV感染では感染してから約4週間で体内にウイルスに対する抗体が作られます。したがって、感染から4週間以内に抗体検査を受けた場合は、感染していてもわからない可能性があります。(図1)
 スクリーニング検査以外の確認検査であるHIVの遺伝子を調べる検査でも、感染初期では検出限界以下となり、やはり感染の有無がわからない可能性があります。
 このように、HIVの感染初期では検査で感染がわからない時期があり、これをウインドウ期と言います。もしHIV検査で陰性になった場合でも、検査で陽性と判断できる期間には個人差がありますので、疑わしい場合は期間をあけて再度検査を受けて下さい。
 HIV検査は多くの医療機関や保健所等で受けることが出来ます。特に、保健所では無料かつ匿名で検査をすることができます。


図1

HIV治療について
 HIVを完全に体内からなくす方法は残念ながら今のところありませんが、エイズ治療はこの10
年間で格段に進歩しました。新薬が開発され、この薬によりHIVの増殖を抑え、進行を遅らせることができ、発病しない状態を長く維持することができます。
 また、発症後の感染症にも治療方法が次々開発されています。そのため、エイズは糖尿病などのような慢性疾患に似てきていますし、エイズによる死亡率は減少しています。
HIV感染者・エイズ患者の推移
 平成24年11月20日に国連合同エイズ計画(UNAIDS)は世界のHIV感染情報の報告書を発表しました。平成23年に世界全体で新たに感染した人が約250万人に上り、感染者は約3400万人になりました。エイズが原因で死亡した人は約170万人でした。
 日本では年間で約1500人、1日に4人以上の人が新たにHIV感染者として報告されており、年々増加傾向にあります。(図2)
 また、静岡県でも少しずつ増加しています。平成23年エイズ患者が12名・HIV感染者が32名・計44名が新たに報告されています。(図3)
 年齢別では、20歳未満で1名、50歳以上では9名が新たに報告されており、低年齢者と高年齢者の感染が今後の問題点になっていくと思われます。(図4)
 性別では男性39名、女性5名でした。男性39名の感染経路ですが、異性間の性的接触で13名(33
%)が報告されています。『男性同性愛者間の病気』というイメージを払拭し、不特定多数の性的接触でも感染は広がる病気であることを認識すべきだと思います。(図5)


図2


図3


図4 

図5 

おわりに
 エイズ発症を防ぐ為には、検査によりHIV感染しているかを知り治療を受けることが重要です。
 また、平成10年4月からHIV感染症の状態に応じて、身体障害者手帳を申請できるようになりました。交付対象者においては、医療費の助成・各種手当の給付及び税金の軽減補助を受けることができます。
 HIVは、残念ですがまだワクチンがありません。自分や家族などを守るためには『エイズは他人事と思わず、自分の事』と考え、感染しやすい行為を避けるように心掛けることが大切です。また、正しい知識・認識を持つことが、重要なことだと思います。



JA-shizuokakouseiren.2012.7.9